マキラドーラの意味|NAFTAとマキラドーラ、IMMEXへの変遷、トランプ政権後の廃止の可能性について

2017年8月18日更新

マキラドーラとは、もともとはメキシコと米国との間で盛んに行われていた委託加工制度の一種です(現在も行われています)。保税委託加工とも訳されています。マキラドーラの語源的な意味は、maquiladoraと綴られますが、スペイン語のmaquilaという単語からきています。これは、製粉業者から製粉した見返りにもらう分け前のことを意味していました。

ただ「マキラドーラ」といった場合、過去のマキラドーラ制度についてのことなのか、現在のIMMEXという保税加工制度の中のマキラドーラオペレーションについてのことなのか、あるいはIMMEX自体(現在のマキラドーラ制度)のことを言っているのか、複数の意味が存在しますので何についてマキラドーラと言われているのかよくよく確認する必要があります。

この制度自体も、NAFTA等の貿易協定の影響のほか、政令により頻繁に内容が変わってきています。マキラドーラの仕組み自体が廃止になっている等、誤った情報も氾濫しています。今もこの制度はIMMEXの名称で存在します。

メキシコに進出する多くの製造業は、生産拠点として、特に北米向け製品の生産拠点や北米工場を補完する意味合いで工場を設立します。その契機となった制度のひとつがマキラドーラというわけです。

日本企業が使っているマキラドーラで多いのは、まず米国に子会社をつくり、さらにその米国の子会社をメキシコに作って、米国−メキシコ間で加工貿易を行って製造コストを下げていくツインプラント方式です。主力の工場を米国に置き、その子会社をメキシコにおいて、製造工程の一部を担当させる、というやり方です。メキシコのほうが生産コストがはるかに安くつくのと、米国の工場から材料を送りそれを使って製品作らせ、米国へ買い戻すことで輸出入にかかる税を安くすることができるため、製造原価を下げることができます。

前述のとおり、この制度の実務面は複雑かつ頻繁に変更があるため、実際の運用を行う際は、メキシコ現地企業等で運用を行っている実務担当によくよく確認する必要があります。

まずは、もともとのマキラドーラ制度の変遷について述べていきます。

マキラドーラとは

アメリカとメキシコ間の委託加工制度

通常、国をまたいで原材料や部品などを輸入すると関税や付加価値税などの税金を課せられるため、それらが製造原価にのってきますが、このマキラドーラと呼ばれる仕組みは、つくったものをメキシコから国外へ輸出することを条件に、それに使う部品や材料などを国外から入れても輸入時に税金をかけずに輸入ができる、という制度でした。

マキラドーラの最大のメリットといわれているのがこの「一時輸入」です。本来、輸入時に支払うべき多額の税金がなくなるわけですから、メキシコ以外の国から部品や材料を調達しないと製造できない品目を扱う製造業にとっては製造原価が大きく下がることになります。

この制度はメキシコ−アメリカ間でもっとも多用されてきていますが、それは米国側も、アメリカの原材料・部品を使って作ったものを米国へ入れる際は、これらの価値を差し引いた、純粋に米国外で付け足された付加価値分だけについて課税するという仕組みがあったからです。

貿易時に発生する関税や付加価値税を減免できる

端的に言えば、メキシコは労働力だけを提供し、アメリカは材料や部品(製品の製造方法なども)をメキシコへ提供して作ったものをアメリカ市場で販売することで、双方にメリットを生み出すという制度です。この際、アメリカからメキシコ、メキシコからアメリカの双方で、原材料と完成品の貿易が発生しますが、その際に発生する税を減免するというのがこの制度の最大のメリットです。

この制度が発足した当時、メキシコの人件費はアメリカの10分の1ともいわれていましたが、経済発展のためにはメキシコは外資を呼び込む必要があり、そのための策として導入されました。

ただ、米国がトランプ政権となり、製造拠点を生産コストが高かろうと米国へ国内回帰させようとする強力な動きがあるため、この制度自体の存廃(形骸化)や、形が大きく変わってしまう懸念もあります。今尚そのあり方が議論されている制度ではあります。発足当初から、米国からメキシコへ仕事が流出している原因であるとの批判もあり、NAFTAと連動して拡大してきたため、米国の動き方次第ではメキシコの製造業の衰退の可能性もあります。

2000年初頭の段階で、メキシコは輸出の半分近くがマキラドーラによる輸出で、輸入についても3割近くがマキラドーラのための輸入材といわれていました。

NAFTAとマキラドーラの違い

マキラドーラと深い関係のあるNAFTAについても簡単に述べていきます。

自由貿易協定であるNAFTA

NAFTAは世界に先駆けた強力な自由貿易協定のひとつで、これにより米国・カナダ・メキシコの間の貿易は条件を満たせば実質無税で行うことができるようになりました。どこがもっとも得をしたのかという点はさておき加盟国間の貿易は活発化しました。

自由貿易協定とは、特定の国同士や地域同士で締結して関税をなくすことで貿易を活発化させようとするものです。昔は全世界で関税を一律に下げる話し合いが行われていましたが、今は多くの国の利害関係が一致しないため、特定の国同士だけで交渉を行っていく方式に変わってきています。

NAFTAは自由貿易協定であるため、品目ごとに設定されている原産地規則(たとえば、メイドインUSAやメイドインメキシコ)を満たすものについては、関税を減免するという制度です。

メキシコ内の保税加工の仕組みであるマキラドーラ

対して、マキラドーラというのは、貿易協定ではなく、輸出を条件に材料に税金をかけずに自国へ持ち込み、加工したら輸出するというメキシコ政府が制度を作った保税加工の仕組みであるため、原材料や部品を輸入する際にかかる付加価値税(消費税のようなものです)も減免することができます。ただし、NAFTAのように原産地を証明するだけでなく、製造に使った原材料類をいつどこからどれだけ輸入して、どの分を輸出用として使ったのかという記録をとって管理運用していく必要があります。

ものづくりを行うにあたっては、製造原価をつねに考えておく必要がありますが、メキシコの工場での労働力(人件費)はNAFTAを使おうがマキラドーラを使おうが同じとしても、材料を仕入れるのに関税が0になるというのと、関税とVATの双方が0になるというのでは、輸入のコストが大きく異なります。結果、製造原価も異なってきます。

関税とVATの違いがわかりにくいと思いますが、輸入すると通常はまずCIF価格に対して関税が課せられ、CIF+関税額の総額にVATの税率が乗せられることになります。関税10%としても、今のメキシコのVATはIVAと呼ばれますが、これは16%にもなります。

今もマキラドーラオペレーションを活用するグローバル企業が多い所以です。

NAFTA発効後のマキラドーラ

マキラドーラはもともと米国とメキシコの国境帯域にある工場のみが対象だったため、当初はこの周辺にマキラドーラのための工場が乱立しました(このエリアは、犯罪率の多さや治安の悪さで各国に知られることとなってしまいましたが)。

その後、1972年にマキラドーラが適用されるこの国境帯の制限が撤廃されました。つまり、この国境帯にない工場についても適用対象となりました。これによりメキシコ、米国のあちこちにマキラドーラオペレーションを行う工場が出てきました。

1994年にNAFTA発効後、マキラドーラは急速に拡大しました。関税はNAFTAにより0となり、メキシコでの生産コストに影響する材料輸入時のIVAも免除となるため、貿易にかかる間接税をほぼ0にした状態での取引が可能となっていました。くわえて、メキシコとアメリカは陸路でもつながっており、地理的に近いというメリットもあります。

マキラドーラの急速拡大後、2000年より、NAFTA域内向け、つまりアメリカ、カナダ向けへ輸出するための原材料には、マキラドーラによる税の減免が認められなくなりました(ただし、NAFTA域外であれば適用されます)。

もっとも、米国産の材料使って作ると、その価値を差し引いた部分だけに米国輸入時の税が課せられるため、アメリカ−メキシコ間でのマキラドーラは依然、原価低減に非常に大きな力を発揮してきました。日系企業をはじめ、多くのマキラドーラ企業が使っているツインプラント方式では、親会社が米国にあり、そこから原材料や中間財の大半をメキシコの工場へ送り込むため、結果として、メキシコ側の安い労働力と移転価格税制に抵触しない最低限の利益分についてだけ税金が課せられます。

マキラドーラからIMMEXへ

現在のマキラドーラ制度は、輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)と名称を変え、旧マキラドーラのほか複数あった貿易振興プログラムがこれに統合されました。2006年から施行されています。マキラドーラが廃止されたとの言説が一部ありますが、実際にはなくなっておらず、マキラドーラ制度はIMMEX(Industria Manufacturera, Maquiladora y de Servicios de Exportacion)という名称で運用されています(発足当初のマキラドーラとはだいぶ様変わりしてはいますが)。

変遷するIMMEX登録の要件

50万ドル以上か販売額の10%を輸出していることがIMMEX登録の基本となっていましたが、つい最近過去12ヶ月に一時輸入した輸入部材の60%以上は、再輸出するか国内の他のIMMEX登録企業へ販売する必要があるとのルール変更がありました。政令により大きなルール変更がある点も特徴的な制度です。

この新たな基準では、メキシコ国内向けをメインとしている製造業にとっては基準を満たすことが難しくなり、本来の加工貿易を行う輸出メインの企業にこの制度の恩恵を受けさせるよう方向付けされています。

マキラドーラを使う企業の義務

IMMEXの登録を行うと恩恵とともに、さまざまな義務も生じます。たとえば、毎年当局への前年実績の詳細報告義務があります。

マキラドーラを使うためには、輸入時の部品や材料と輸出品とが完全にひもづいている必要があります。それは鉄のスクラップまでも対象になり、マキラドーラ企業が工場のゴミ箱などまで確認するのは、スクラップが漏れていないか確認するためです。尚、マキラドーラのための事務工数やペーパーワークはかなり労力を要しているのが実態です。

また、マキラドーラのスキームを使って輸出する品物を製造するための原材料・部品などについては、輸入してから一定期間以内に完成させ、輸出品として出荷しなければなりません。

 マキラドーラの監査もあり、その際、申請内容と異なるということになれば、違反扱いとなり罰金が科せられます。違反については、1回目に付いてはあまり大きな率での罰金は科さないルールですが、2回目は高額な率になり、3回目違反すると操業停止になります。

 生産に使う材料を「一時輸入」扱いできる点にメリットがあるものの(IVAの16%が不要になる)、こうした義務を怠るとIMMEX登録を取り消されてしまいます。

さらに、IMMEX登録企業は専用の在庫管理システムの導入が必要となります。IVAや関税を免除されていた一時輸入品がどうなったのか記録が散逸していたり、どこかにいってしまったとなると、その製品の金額の70〜100%が罰金となります。たとえば、年間1000万円一時輸入していた原材料が何に使われたのかわからない、あるいは実地棚卸ししたらなかった、となれば最悪1000万円の罰金を科せられるということです。

トランプ政権下でのマキラドーラの見通し

トランプ政権は発足当初から宣言していたとおり、NAFTAの再交渉に入っていますが、マキラドーラはメキシコが輸出振興のために作った制度です。NAFTAは国家間での締結される条約であり、マキラドーラがメキシコ国内税制上の仕組みであるため、一見、両者は関係ないようにも見えますが、現在の米国が志向しているのが、製造を米国内で行い雇用を生み出すことです。この為、NAFTAという貿易協定の枠組みで十分なメリットが米国側にもたらされない場合、メキシコへ流れてしまっている製造業が米国へ戻るよう、制度を変更する可能性があります。今後も継続して注視すべき状況といえるでしょう。

例えば、現時点では、米国産の材料を使ってメキシコで製造しているマキラドーラ企業が米国へ輸出した場合、米国側の輸入諸税の計算において、メキシコでの付加価値分(米国産材料の価格を除いた価格)をもとに税率がかけられるため、米国側での輸入費用がかなり安くできますが、この規定をなくすと、メキシコ−米国間の輸入税率は原則NAFTAで規定される原産地規則と税率のみで規定されることになります。

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