蒸着材料|メーカーの一覧

2011年12月7日更新

蒸着材料とは、薄膜を製作する技術の一つである「真空蒸着法(熱蒸着)」で用いる材料で、一般にはナノオーダーの薄膜をつくるための材料です。高純度の酸化物やフッ化物、金属などで、物質によって得ることのできる特性が異なるため、実用上30種類〜80種類程度、業界・用途によって使い分けられています。蒸着材といわれることもあります。

熱蒸着(thermal evaporation)とは、蒸着材料に何らかの熱エネルギーを加えることで、材料を蒸発(気化)させ、それらをレンズやプリズム、基板などにつける技術です。具体的には、熱源には抵抗加熱式(RH)と電子ビーム式(EB)の二種類があります。より生産効率の優れた電子ビーム式が主流となりつつありますが、材料によっては抵抗加熱式がつかわれることもあります。真空蒸着装置は、装置内部を真空に保つことができる釜(チャンバー)を持っており、この中に材料をセットして、そこへ熱を加えたり、電子ビームを照射して材料を分子レベルに分解しつつ、同じ釜内の上部に取り付けられたレンズや基板などに薄膜をつけていきます。これら基板や基材を取り付けるジグの役割も果たすチャンバーの上部についている皿状のものは「ドーム」と呼ばれます。

蒸着材料は、真空蒸着装置で用いられる専用の材料で、純度の高い原料と似ていますが、蒸着用に作られたもので、原料とはまた異なります。

形状は、真空蒸着装置の内部にある「るつぼ」やハースにセットしやすくするため、ペレットやタブレット形状、顆粒状のものなどが知られています。また同じ材料でも焼結体のものと、溶融破砕されたものがあり、それぞれに特徴があります。

携帯電話のカメラのレンズやプリズム、照明機器、タッチパネル、大型の光学産業機器には必ず何らかの薄膜がついていますが、これらの中には蒸着によって薄膜がつけられているものもあります。

蒸着材料を製造することが出来るメーカーは、造粒をはじめとする粉体の制御技術や、焼結技術など粉を焼き固める技術を保有しています。原料メーカーから高純度の原料を購入し、それらを焼き固めたり、粒径の大きさや焼結構造を調整することで、蒸着に最適な材料にします。

キヤノンオプトロン
光学レンズ等に欠かせない蛍石の量産で知られるメーカー。真空蒸着による薄膜の材料となる「蒸着材料」、スパッタリングによる薄膜の材料となるスパッタリングターゲット材料の量産メーカーとしても知られる。この分野の草分け的存在で、蛍石、蒸着材料メーカーとしては国内最大手と言われる。本社は茨城県結城市にある。キヤノングループ。酸化物やフッ化物、金属など。
メルク
Patinal(パチナール)のブランド名で真空蒸着材料の製造販売を行う大手化学・医薬品メーカー。ドイツに本拠地を置くメルク社は世界60か所以上に拠点を持つ。同社のラインナップとしては、酸化物、フッ化物、硫化物、金属など、薄膜の分野で用いられる蒸着材料を幅広く揃えている。また撥水効果のあるトップコートして知られるWR4、WR1、WR2や、独自の高屈折率材料H4など特長ある製品を製造開発している。
日亜化学工業
徳島県阿南市に本社を構える発光ダイオード(LED)で有名なメーカーだが、真空蒸着材料も古くから手掛けており、高屈折材料を中心に、Ta2O5、Ti3O5、TiO、ZrO2+TiO2(混合物)、ZrO2、Nb2O5、CeO2、ZnS、SiOなどを製造販売する。形状は材料によって、顆粒状やペレット状など取り揃えている。
稀産金属
二酸化珪素(SiO2)、二酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、フッ化マグネシウム(MgF2)などの無機材料を中心に、40種類ものラインナップを持つ蒸着材料メーカー。カメラ・ビデオ・スキャナー・プロジェクター・DVDなど、各種光学機器に欠かせない反射防止膜や光学フィルター用として供給。同社は昭和34年(1959年)の設立以来、半世紀にわたり一貫して希少金属、希土類を原料とした総合化合物を手掛けているメーカーで、透明導電膜の材料であるI.T.O(酸化インジウムスズ)のメーカーとしても有名。
信光社
神奈川県横浜市栄区にある結晶メーカー。サファイア、ルチルなどの各種酸化物単結晶製品や、光通信用デバイス(光アイソレータ、ルチルプリズム等)、産業用(ファイバレーザ用)の光アイソレータおよび光ファイバセンサ製品の製造・販売も手掛けている。蒸着材としては、品質の高い高純度アルミナ(Al2O3)で知られ、成膜工程上の代表的な問題である「アウトガス」や「スプラッシュ」といった現象を低減させることができる。
ニューメタルエンドケミカルス
レアメタルやレアアース、半導体材料、電子材料、単結晶材料など、電子・半導体・光学・医薬などの分野で使われる材料を幅広く取り扱う専門商社。世界各国の優れた技術力を持つ製品を日本に輸入し、供給している。光学結晶材料やターゲット、蒸着材料として、赤外用ゲルマニウム光学結晶、サファイア基板、CdS、CIGS、Cu/Ga、CIS等の太陽電池用スパッタリングターゲット、ZrO2、ZnSe、Y2O3、YF3、YbF3、TiO2、ThF4、TaO5、SiO2、ScO3、PrO3、MgF2、LaTiO3、In2O3、HfO2、CeO2、Al2O3、AlF3などの蒸着材料を販売する。同社が扱うMaterion社(元のCeratec社)は米国最大手の蒸着材料・ターゲット材料メーカーでもある。
富士チタン工業
1935年に日本で最初に酸化チタン製造の工業化に成功した酸化チタンのメーカー。高屈折材料として、光学業界では欠かすことの出来ない材料がTiO2(酸化チタン)。現在は、チタニア以外の蒸着材料も手掛けており、酸化チタンに近い屈折率を持つ代表的な高屈折率材料である五酸化タンタル、五酸化ニオブ、酸化ジルコニウムと酸化チタンの混合物のほか、中間屈折率材料や低屈折率材料であるAl2O3やSiO2も光学用の蒸着材として製造・販売している。
アルバックテクノ
真空ポンプや真空装置で有名なアルバックグループの一員。同社のサービス部門が分離独立して誕生した。蒸着材料、真空材料、部品、装置、機器の販売のほか、受託成膜などの表面処理加工なども行う。電子ビーム蒸発用材料を各種取り揃えており、常備在庫品としては、Ti(チタン)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)がある。
田中貴金属
装飾用だけでなく、工業用の貴金属の専門メーカーでもある。蒸着では、金や、白金、イリジウム、ロジウム、パラジウム、銀などの薄膜もよく使われるが、こうした貴金属の高純度材料を産業用の供給する。金系としては、AuSi、AuZn、AuSb、AuSn他、カラットAu(K9〜K18)、高純度のものでは5N(ファイブナイングレード、99.999%の純度)、標準品でも4Nのものを取り扱う。白金系では、PtRh、PtPd、PtIr、PtCo、PtNi、溶解法による各種磁性体をラインナップに持つ。蒸着材料の他、スパッタリング用のターゲット材も製造販売。
フルヤ金属
電子デバイス・情報通信・エレクトロニクスの分野で欠かせない貴金属による薄膜。これらを作るための蒸着材料を製造販売。研究開発用の多品種小ロットから生産用の量産まで幅広く対応。クラス1000(一部100)対応のクリーンルームでの多彩なスパッタ技術(コスパッタ、リアクティブ、高温埋め込み、多層、高真空など)を用いた受託成膜も請け負っている。こちらも小さな基板1枚から量産まで対応。
大阪チタニウムテクノロジーズ
大手チタンメーカーの一つで、スポンジチタンやチタンインゴットのほか、ポリシリコン、高純度チタン、SiO(一酸化ケイ素)の蒸着材料などの製造販売する。1961年に国内ではじめてSiOの製造に成功したメーカーであり、SiOターゲット、SiOタブレットを供給する老舗。SiOはその優れたバリア性能から蒸着の中でもフィルム蒸着によく使われる材料で、食品包装用や各種フィルム用途として使われている。
USTRON
光学部品や光学製品に欠かせない蒸着材料やターゲット材料、石英製品(光学ガラス基板・耐熱窓ガラス、半導体及び太陽電池製造用、炉心管・チャンパー)などを製造販売する。また、モリブデンハースや銅ハースなどのハース類、アルミナるつぼやアイソレータなどの蒸着関連部品も提供。製造拠点を中国に持つ。
ハクスイテック
酸化亜鉛(ZnO)、導電性酸化亜鉛のメーカー。透明導電膜としては、ITOがよく知られるが、同社ではこれに替わる酸化亜鉛を用いた材料を提供する。この酸化亜鉛の薄膜材料はSKY-Zシリーズの名称で、タブレットで製造販売される。独自の焼結技術を持つため、スプラッシュが起きないという。原料は酸化亜鉛、もしくはガリウムドープ酸化亜鉛。
ティーディーワイ
赤外域で高い屈折率を示す代表的な材料であるGe(ゲルマニウム)のスパッタリングターゲット、蒸着材料を製造販売するメーカー。光学用結晶材料としてゲルマニウム、シリコンを赤外線用素材からレンズ、ウィンドウまで要望に応じて提供。Geの顆粒や、粉砕品、パウダー、ターゲット形状などがある。
応用光研工業
昭和38年設立の光学結晶、放射線計測機器メーカー。光学、結晶、測定機器をキーワードに事業を展開する。合成の光学結晶としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、塩化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化バリウム、臭沃化タリウム、臭化タリウム、ヨウ化セシウム、光学用合成石英ガラス、セレン化亜鉛などを提供。バンドギャップが広く、エキシマレーザー用の窓材に最適なMgF2は、紫外域の偏光素子のほか、結晶細粒上にしたものは真空蒸着材料としても適している。
高純度化学研究所
産業に不可欠な高純度の有機材料、無機材料、合金、セラミックス、液体ソース等を製造販売する化学メーカー。少量から対応。薄膜材料も、成膜手法に応じて各種製造開発しており、スパッタリングターゲットからそのボンディング加工、PVD用、CVD用、ゾルゲルタイプのコーティング材料、無機化合物の製造販売を幅広く手掛けている。蒸着材料としては、同社ではレーザーアブレーション材料、EB材料がこれに該当する。
湘南電子材料研究所
神奈川県秦野市でオプトエレクトロニクスに関連した薄膜材料(スパッタリングターゲット、エレクトロビーム、タブレット、グラニュール)を製造販売するメーカー。
フルウチ化学
スパッタリングターゲットや単結晶、半導体材料の専門メーカー。蒸着材料としては、金属、合金材料を中心に取り扱う。酸化物単結晶としては、ルチル、サファイア、SrTiO3、CLBOなどを製造。成膜加工(真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング)や、結晶材料の研磨や加工、合成、理化学機器の設計製作も手掛けている。
ジェナジー
金属の再生事業、ジグの精密洗浄やターゲット材料、蒸着材料を取り扱う会社。成膜プロセスにかかわるビジネスを幅広く手掛ける。蒸着材としては、AuやAg、Crなどの金属やSiO2やTiO2などの酸化物をラインナップに持つ。
住友金属鉱山
資源開発や非鉄金属の精錬、電子材料を手掛ける大手メーカー。薄膜材料としては、蒸着用タブレット、スパッタリングターゲットを手掛けており、特に透明導電膜用のITOやインジウムの混合物材料で有名なメーカー。ターゲット材料は用途に応じて様々なものを扱っており、電極膜(Au、Ag、Cu、Co、Ta、Mo)、バリア膜(Ni-Ti、Ni-Cr、Ni-V、Ni-Cu、Cr)、抵抗膜(Cu-Ni、Ni-Cr、Ni-Cr-Si、Ni-Cr-Al)、金属磁性膜、光磁気ディスク、相変化型光ディスク、反射膜(Al-Ti、Al-Cr、Al-Ta、Au、Ag及びAg合金)、保護膜(多結晶Si、単結晶Si(5N〜11N)、ZnS・SiO2)、透明導電膜(ITO、IWO、ICO、InTiO、ZnO、AZO、GZO、XZO)、液晶BM膜(Cr、Ni-W、Ni-Cu)、PDP保護膜(Mg、MgO)、薄膜太陽電池用(Cu-Ga、In、Ag、Ag合金、Ni)、半導体用(Al-Cu、Co(5N)、SBT、BST、Ru)など。
弘兆鉱業
中国の蒸着材料メーカー。光学薄膜用の4Nグレードの酸化物、フッ化物、硫化物、混合物から、光学結晶、高純度金属材料(5Nから9N)を手掛けている。中国は成都市に本社を置く。

薄膜の特性、主な蒸着材料【参考】

主として光学膜や機能膜として用いられる薄膜の代表的な特性、物性について紹介します。誘電体膜には酸化物やフッ化物などのセラミックス材料を原料としたものが多く見られます。

酸化物の薄膜材料と特性

フッ化物の薄膜材料と特性

窒化膜

炭化膜

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