眼鏡のコーティングが剥がれたら

2012年4月7日更新

眼鏡の表面には肉眼ではかろうじて見えるか見えない程度の膜がつけられています。大別すると、傷のつきやすいレンズの表面を保護するためのハードコート、レンズとハードコートとの密着力を高めるためのプライマーコート、光の反射を防止し、より透明な視界をつくるためのARコート(反射防止膜)です。

また撥水コーティングや、汚れ防止用のコーティング、埃がつきにくいコーティングなど、近年は付加価値の高いものが出てきています。

コーティングの厚みは、例えば、ARコートであれば、数百nmの厚みのものが3層程度、あるいは数層つけられています。これは通常、蒸着と呼ばれる方法で成膜されるものです。成膜とは、薄膜をつけることを意味します。業界関係者以外では肉眼で膜がついているかどうか視認するのは難しいといえます。ハードコートやプライマーは少し厚みがありますが、こちらも視認するのはなかなか難しいといえます。

近年は特に軽量で薄いプラスチックレンズが眼鏡の主流になってきているため、レンズを保護するためのコーティングも重要となってきています。

成膜の技術上の点から見ると、ガラスレンズのほうが薄膜との密着力をあげやすい材料ではありました。これは薄膜をつける際、レンズを加熱できるため、より密着力を確保しやすかったのも理由の一つです。プラスチックレンズはほとんどが加熱できず、できても60〜80℃程度のため、薄膜との密着力をあげることが課題となっていました。成膜装置や技術の進歩に伴い、現在では低温下での成膜も高いレベルで可能となっています。

上述の通り、眼鏡レンズの表面には幾層もの目に見えない薄膜がつけられています。したがって、長い時間使っていると膜が剥がれてしまうことがあります。また基材であるプラスチックレンズも元来は紫外線に強い耐性を持つ材料ではないため、過酷な環境下で長期間使っていると保護膜が剥がれ、レンズが傷んでしまいます。

眼鏡レンズが汚れたり、変色したからといって表面を研磨してはいけないのは、その表面にこうした機能性をつけるための薄膜が複数つけられているからですが、一旦コーティングが剥がれてしまうと、もうつける術はありません。

眼鏡レンズ自体が、蒸着装置で大量に成膜されるものなので、成膜にかかるコストは1回の蒸着でいくら、という計算になります。成膜は大量のレンズに同時に行いますから、1点だけ、というわけでにはいきません。

また成膜はクリーンルームで行われますが、基材であるレンズも洗浄されているか、通常は埃がつかない環境下で、射出成形されたプラスチックレンズが成膜工程にまわってきますので、再コーティングはあまり現実的ではありません。お気に入りのレンズであっても、コーティングが剥がれたら同じものを買いなおしたほうがはるかに安くつきます。

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