CV黒鉛鋳鉄品の特性と種類

2013年7月24日更新

2013年に新たに規格化された鋳鉄品で、ねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄の中間的な存在と言う位置付けです。もともとISOをはじめとする国際規格に存在する材料でしたが、JIS規格として制定されるまでは国内では各メーカーによる独自の規格で運用されていました。

CV黒鉛鋳鉄のうち、CVはCompact vermicularの頭文字をとったもので、直訳すれば圧縮バーミキュラとなります。このため、バーミキュラ黒鉛鋳鉄とも呼ばれます。

黒鉛が芋虫状、ぜん虫状に見えることから、これらの英語名称であるバーミキュラの名を冠します。芋虫状の黒鉛が80%ほど含有、残り20%は球状黒鉛を含有する鋳鉄となり、金属組織上は、フェライト、フェライト&パーライトかパーライト基地をベースにした鋳鉄品です。製法は、晶出黒鉛を芋虫のような形状にするため、とかした鋳鉄に、黒鉛球状化剤などを添加して処理を行っていきます。

CV黒鉛鋳鉄品の特性は球状黒鉛鋳鉄と同等の強度を持ちつつ、製造における鋳造のしやすさは普通鋳鉄であるねずみ鋳鉄とほぼ同じ性質と言うものです。

自動車の排気系部品、シリンダヘッドやシリンダブロックに適しているのは、高い熱伝導率を持つ為、ヘッド下の温度の上昇がある程度までに抑えられる点、剛性と減衰能から振動を抑えることができる点などがあげられます。

高い強度と耐久性を得る為には、鋳鉄内部に存在する黒鉛が球状化している必要があります。本規格では、この球状化率の計算方法についても規定があり、黒鉛球状化率がどの程度なのかも評価基準として掲載されています。

これにより、エンジン系部品、駆動系部品、重要保安部品などの特に強度が求められる用途では黒鉛球状化率をもとに、CV黒鉛鋳鉄品のなかでもさらにグレードを峻別することが可能となっています。

鋳鉄の種類ごとの比較表

ねずみ鋳鉄と球状黒鉛鋳鉄の中間的な位置付けといわれる所以は下表からも明らかです。

鋳鉄の違いと比較
特性 ねずみ鋳鉄 CV黒鉛鋳鉄 球状黒鉛鋳鉄
球状化率 0% 20−70% 70%以上
引張強度 180から300MPa 350から500MPa 400から900MPa
熱伝導率
(W/m-℃)
48 38 30
被切削性 良好 やや良好 劣る
鋳造性 良い やや良い 難しい

CV黒鉛鋳鉄では、機械的強度を測定する為のサンプルは、別鋳込みと、本体付きとによって異なる規格値が存在します。このあたりは球状黒鉛鋳鉄と同じです。

ただし、これらのサンプルはあくまでサンプルであり、実際のCV黒鉛鋳鉄の物理的性質、機械的性質を正確に反映したものではないとの注記もありますが、本体付きサンプルによるものの方が、別鋳込みのサンプルよりも実際の鋳鉄に近い値となる可能性が示唆されています。

「JIS G 5505 CV黒鉛鋳鉄品」に規定のある材料記号

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