天然ゴムと合成ゴムの違いと比較、生産量、見分け方について|天然ゴムと合成ゴムの強度や耐油性等の違い

2017年10月30日更新

天然ゴムと合成ゴムの違いとは

天然ゴムと合成ゴムの違いは、その原料と製造方法がまず大きく違うことが挙げられます。天然ゴムはゴム樹からとられた樹液を元につくる天然資源のひとつであり、合成ゴムは石油・ナフサから作られる化学工業品です。結果、両者は完全に使い分けられているかといえば、市場での価格変動に応じて天然ゴムが使われたり、合成ゴムが使われたりするケースがある一方、用途によってはどちらかしか使えないようなものもあります。

たとえば、他の材料から比べてゴムの持つ特性でもっとも優れている「弾性」。天然ゴムの持つ弾性はずば抜けていますが、では合成ゴムがまったく及ばないかといえば、天然ゴムと近い物性を持つ合成ゴムであるイソプレンゴム(IR)も開発されています。但し天然ゴムの機械的特性を超える合成ゴムはないのが実情です。

もともと天然ゴムはその有用性が認識されると、工業化とともに爆発的に需要が伸びましたが、限られた地域でしかゴム樹が育たず、独占・寡占や政治的駆け引きの道具となったり、戦争により流通が制約を受けたりといった歴史を持つ資源でもありました。

天然ゴムが思うように手に入らない地域で、市場や政治に影響を受けずに安定して入手できるよう化学工業の力を持って開発をすすめてきたのが合成ゴムであり、これらは天然ゴムの代替品として開発されてきた経緯があります。

今日では、合成ゴムには天然ゴムにはない特性を持つものもあり、両者をブレンドして用いたり、それぞれの特性を活かして要所要所で使い分けたりといったことがなされています。

合成ゴムにもいろいろあるため一概に比較するのは難しいですが、天然ゴムは合成ゴムに比べると引き裂き強度がつよく、ゴム弾性が大きいという特徴があります。反面、オゾンに弱いため耐候性が弱く、劣化しやすいです。また火や熱、油にも弱く、耐熱性や耐油性といった面では合成ゴムに及びません。

以下、天然ゴムと合成ゴムの特徴やその生産量、歴史などの違いを見ていきます。

天然ゴムとは

ゴム樹(ヘベアブラジリエンシス)のみから採取される天然資源です。JIS規格での天然ゴムの定義は、「バラゴムノキ(Hevea brasiliensis)から得られるシス-1, 4-ポリプレン」となっています。

弾力・伸長・粘着・耐久性に優れていますが、タイヤ用材料としてはうってつけの内部発熱が低く、破壊強度が大きく、また金属との接着性がよいなどの特性をもっています。このため乗用車用の小型タイヤよりもトラック・バス用の大型タイヤにより多くの天然ゴムが使用される傾向があります。

天然ゴムの歴史

1400年代、コロンブスの探検により現地住民が使用しているものを見つけ、ヨーロッパに紹介したのがはじまりです。イギリス人のウィッカムが1876年に現地から持ち帰った種子の発芽に成功し、大英帝国の発展とともに拡散していきます。実用化の契機は、米国のグッドイヤー、イギリスのハンコックによる「加硫」の発見によります。加硫ゴムとすることで工業使用に耐えうるものになり、大きく需要が伸びることになります。

天然ゴムの種類

取引形態によって以下の3形態で売買されています。

ラテックス

ゴム樹から採取されたフィールドラテックスにアンモニアを添加して凝固を防ぎ、濃度を調整した液状のゴム。タイヤコードのディッピングをはじめ糸ゴム、ゴム手袋、あるいは接着剤などに使用。

RSS(視覚格付けゴム=VGR)

フィールドラテックスを凝固させシート状にし、さらにスモーク(燻煙、乾燥)させたもの。別名、シートラバー。

TSR(技術的格付けゴム)

別名ブロックゴム。原料となるゴムを細かく粉砕し、プレス成型したもの。技術的な格付けゴムは、成型後の分析試験にて、ゴム、灰分、窒素含有量、揮発性物質、ウォーレス可塑度、可塑度残留率を調べ、これらに基づいて合格する必要があります。 原料ゴムに何を使っているのかで等級が異なります。中級品では、RSSの一歩手前の、USSやゴムを採集段階で自然凝固したものを原料としており、純度の高い原料ゴムやフィールドラテックス100%のものを使っているものなどが上級品となります。

天然ゴムは、このRSSかTSRかで機械的強度の特性に違いが出ることがあるため、使い分けられています。タイヤやゴムを使用する自動車部品ではRSSの強度が必要となることがあります。また、タイヤ以外でもRSSが好まれてきた歴史があります。TSRのほうが価格が安いため、RSSから代替使用できるよう改良を行っているメーカーもあります。

合成ゴムとは

石油、ナフサから生産される化学工業品です。JIS規格での合成ゴムの定義は、「1種類又は2種類以上の単量体を重合して得られる原料ゴム」となっています。主要な規格だけでも数十種類、市場に出ている合成ゴムとしては100種類近くにもなります。

合成ゴムの歴史

天然ゴムの生産拠点を持たず入手が難しかったアメリカやドイツを中心に開発が進められ、特に世界大戦や大戦後の自動車普及の流れを機に急速に進んだ経緯があります。ドイツでは1933年にSBRの開発、1934年にNBRの開発に成功しており、欧米諸国でも1940年にアクリルゴム、IIR、ウレタンゴム、シリコーンゴムを開発、1950年代には、フッ素ゴム、CSMが開発。1954年には天然ゴムと同一の分子構造をもつIRの開発に成功しています。

合成ゴムの種類

市場には100種類近く出回っています。汎用ゴムは比較的安価で幅広い用途に使用されるゴムの総称であり、タイヤ、履物、防振ゴムなど耐油性や高度な耐老化性などの性能を必要としない用途に使用されます。SBR、IR、BRがこの分類に属し、また天然ゴムもこの汎用ゴムに分類されます。特殊ゴムは、耐油性・耐熱性・耐候性など天然ゴムにない特性をもち、主に工業用品に用いられるIIR、EPDM、CR、NBR に加え、卓越した耐油性や耐熱性をもち比較的価格の高いシリコーンゴムやフッ素ゴム、アクリルゴムなどがあります。

天然ゴムと合成ゴムの見分け方

結論から言えば、両者を見た目から区別することはほぼできません。比重も天然ゴムと合成ゴムとで大きな違いが出るわけでもなく、見た目も配合の際に添加しているカーボンブラック等の色で一緒に見えます。強度についても、専門の設備をもってデータを計測した際に、天然ゴム単体ではこうした性能は出づらいというのは言えるかもしれませんが、特定は難しいと思います。天然ゴムひとつとっても、硬度を変えることができ、それによって物性は変わるからです。

専門家であれば匂いで判別することも可能といわれますが、ゴムにはさまざまな薬剤を添加しますので、その臭いがきつく、容易ではありません。また、工業の分野ではゴム配合の際、求める特性を出すために天然ゴムと合成ゴムをミックスさせて用いることがよくあります。合成ゴム自体も複数の合成ゴムを「ブレンド」することも一般的なため、ますます見分けは困難でしょう。

100%天然ゴムと、合成ゴムということであれば火をつけて確認するという方法もありますが、天然ゴムは燃え続けるのに対し、合成ゴムは自己消火性といって、放っておくと勝手に消えてしまう特性があります。しかし、前述のとおり、ブレンドしたものについてはよくわかりませんし、合成ゴムの中には燃やすときわめて有毒なガスを出すものがありますのでこの方法で見分けるのは現実的ではありません。

きちんと見分けるには、製造工程でのゴムの配合表を手に入れるしかない、といったところです。

天然ゴムと合成ゴムの強度の違い

天然ゴムと合成ゴムはどちらが優れているのか

機械的特性において、天然ゴムを凌駕する合成ゴムは開発されていません。合成ゴムが優位を持つのは、耐熱性や耐油性、耐候性など、天然ゴムにない性能を持っている点です。天然ゴムに近い性能をもつ合成ゴムもありますが、それを超えられない以上、天然ゴムの有用性は現代においても優れたものといえます。

ただ、ゴム製品の世界では、ゴムが天然ゴムと各種合成ゴムを二種類あるいはそれ以上をブレンドしたものが「ゴム」材料として使われていることも珍しくありません。このため、どちらが優れているという議論はあまり意味を成さなくなりつつあります。

引裂き強さ、反発弾性、圧縮永久歪、耐屈曲磨耗性など機械的強度に優れる天然ゴム

自動車用のタイヤに限って見た場合、天然ゴムの優位性は、接着性がよい、内部発熱の度合いが低い、破壊強度が強いといった点です。このため、大型車のタイヤでの天然ゴム比率が高いですが、乗用車には合成ゴムも多用されており、複数のゴムをブレンドした最適なゴム配合のものが作られています。なお、天然ゴムは耐寒性にも優れます。

タイヤであれば数パーセント程度の用途については、天然ゴムと合成ゴムの代替が可能といわれていますが、逆に言えば、天然ゴムでしか発揮しえない性能がそれだけ残っている、ということになります。

耐熱性、耐油性、耐老化性などで特異な性能を持つ合成ゴム

天然ゴムの代替用として作られたIRはさておき、他の合成ゴムの多くは天然ゴムにはない性能を持っています。

  • 300℃近い耐熱性をもつフッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)
  • 引張り強さに優れたウレタンゴム(U)
  • 耐油性に優れた多硫化ゴム(チオコール, T)
  • 高温での耐油性に優れたアクリルゴム(ACM)
  • 耐候性、耐オゾン性、耐熱性、耐薬品性いずれも平均的なバランスに優れたクロロプレンゴム(CR)
  • 耐候性、耐オゾン性、耐ガス透過性に優れたブチルゴム(IIR)
  • 耐摩耗性、耐老化性に優れたスチレン・ブタジエンゴム(SBR)
  • 弾性だけなら天然ゴムより優れたブタジエンゴム(BR)
  • 耐老化性、耐オゾン性、極性液体に対する抵抗性、電気的性質に優れたエチレン・プロピレンゴム(EPDM)
  • 天然ゴムに似た性能を持つイソプレンゴム(IR)

天然ゴムと合成ゴムの生産量

天然ゴムの需要と生産量|トップ5の消費国と生産国

天然ゴムは年間約1200万トンの需要があるとされます。生産量もほぼ同じ数量で、2001年頃から急増しており、ゴムの消費国のトップ5は、1位が中国(約39%)、2位がインド(約8%)、3位がアメリカ(約7.7%)、4位が日本(約5.7%)、5位がタイ(約4.9%)となります。一方、天然ゴムの生産国のトップ5は、タイ(シェア約36%)、インドネシア(約26%)、ベトナム(約8%)、中国(約6%)、マレーシア(約5%)といった具合に、ゴム樹がとれる地域に集中しており、タイとインドネシアで世界の半分をおさえてしまう形になっています。

需要増加の拡大は中国で顕著に見られ、伸び率も他国を圧倒しています。天然ゴムの需要は、約70%以上が自動車用のタイヤとなりますので、自動車工業や自動車需要が伸びている国で顕著な動きが見られます。

原油相場とゴム相場との相関係数は高い正の相関となっており、原油が下落するとナフサ安、合成ゴム安の動きとなり、それに伴い天然ゴムも連動して下落する確率が極めて高くなるという変わった動きを見せます。これは合成ゴムと天然ゴムの相互代替(100%ではない)の関係があるためにおきます。

ちなみに日本では天然ゴムは100%輸入になります。主として、インドネシア(97%はTSR)、タイ(約60%がRSS,約40%がTSR、約0.7%がラテックス)から輸入しています。日本国内では、約8割がゴム工業向けで、その中の約80%がタイヤといわれています。タイヤ以外では、自動車部品や産業用のゴムホース、ゴムベルトの用途で使われます。

合成ゴムの需要と生産量|トップ5の消費国と生産国

現在では消費量としては、天然ゴムが約40%〜に対して、合成ゴムが約60%〜となります。おおむね4:6の割合ですが、合成ゴムには多様なものが存在し、その合算値で見た場合にこの値となるのであって、天然vs合成という単純な二元論では比較が難しい実情があります。

ちなみに、天然ゴムと合成ゴムをあわせた消費量は年間約2700万トン前後。うち、天然ゴムが約1200万トンで、合成ゴムが約1500万トンとなります。世界需要の3割強は中国となり、生産・需要ともに毎年2%前後の拡大を見せています。

合成ゴムの生産国トップは、中国、アメリカ、日本、ロシア、ドイツとなります。旺盛な消費に連動して中国がトップに躍り出てきていますが、化学工業の強い国が上位に名を連ねています。一方、合成ゴムの消費国トップは、中国(約28%)、アメリカ(約13.5%)、日本(約6.2%)、ドイツ(約4.2%)、インド(約3.8%)、ロシア(約3.7%)となっており、中国が突出しています。

合成ゴムは、原油・ナフサを原料としているためこれらの価格状況に原料コストが大きく左右されます。先に述べたとおり、原油相場と価格が連動していますが、交換可能な天然ゴムもその影響を受けます。

天然ゴムと違い、合成ゴムは日本ではその90%近くが国産となります。

ゴムの種類と一覧

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