マグネシウム合金の種類、特性や用途について

2013年8月24日更新

マグネシウムは非鉄金属材料の中でも特に「軽さ」に着目されて使われることの多い素材と言えます。純マグネシウムでは比重がわずか1.7程度しかなく(マグネシウム合金でも1.8前後)、軽量であるアルミニウムの2.7よりもさらに軽いことが分かります。

これは鉄の7.8から比べると4分の1ほどになります。引張強さを比重で割った比強度は高い材料ですが、伸びが小さく、マグネシウムそのものは鉄に比べると軟質の材料です。またヤング率もアルミの3分の2ほどになります。ただ実際にはアルミやチタン、銅等の他の非鉄金属と同様に添加元素をくわえた「マグネシウム合金」として使われることのほうが多いため、純マグネシウムにはない諸特性を備えた優れた材料の一つとして幅広く活用されています。

なお、マグネシウム合金にはJIS規格に定められた記号もありますが、実用上はASTM(米国)の記号であるAZ91DやAM100A、AM20A、AM50A、AS21A、AS41B、AE42A、AZ91C、AZ91B、EZ33A、QE22A、WE43、WE54などの記号がよく使われます。これはJISが制定される前は主としてASTMの規格記号を使っていたことの名残です。ちなみに、マグネシウム合金のJIS記号はMからはじまります(鋳物であればMCからはじまり、ダイカスト製法のマグネシウム合金であればMDCからはじまる)。

マグネシウム合金の種類

他の金属材料と同じく、製法の違いから展伸材と鋳造材、ダイカスト用があります。またそれぞれについて、添加されている合金元素によって様々な性質を持つようになります。マグネシウム合金材料を示す「記号」はJISに規定がありますが、実際にはASTMの材料記号がよく使われます。例えばASTMの記号としてはAZ91やAZ31などがありますが、これらはアルミと亜鉛が含有していることが一目でわかるため、一般によく使われています。

合金の成分から次のような分類が可能です。

  • AM系(Mg-Alの合金)
  • AZ系(Mg-Al-Znの合金)
  • ZK系(Mg-Zn-Zrの合金)
  • ZC系(Mg-Cu-Znの合金)
  • EZ系(Mg-希土類元素-Zrの合金)
  • QE系(Mg-Zr-希土類元素-Agの合金)
  • WE系(Mg-Y-希土類元素の合金)
  • AS系(Mg-Al-Siの合金)
  • AE系(Mg-Al-希土類元素)
  • M系(Mg-Mnの合金)

ASTM(米国材料試験協会)の材料記号は添加されている「元素」を表しており、各記号と元素の対応関係は以下の通りです。これらの元素は機械的性質や鍛造性、耐熱性、耐食性などを改善するために添加されます。

マグネシウム合金記号(ASTM)の意味
記号 元素
A Al(アルミニウム)
Z Zn(亜鉛)
K Zr(ジルコニウム)
M Mn
E 希土類元素
Q Ag(銀)
S Si(シリコン)
H Th(トリウム)
L Li(リチウム)
W Y(イットリウム)

合金元素の及ぼす影響

他の金属と同様に、物理的性質や機械的性質などを向上させるため、マグネシウム金属も合金の形で用いられますが、この際に添加される成分上の元素には次のような効果があります。

マグネシウム合金を構成する合金元素の効果
元素 マグネシウム合金に及ぼす影響
Mn 耐食性を向上させる効果を持つ
Al 強度が向上していく他、伸びや耐衝撃性は低下していく。鋳造性、耐食性も向上。
Si 耐クリープ性向上に効果
Zn 鋳造性が向上(但し2%まで)。2%を超え、5%まで増加すると鋳造割れ感受性が上がる。耐食性や強度を改善する。
Zr 結晶粒を微細化し、緻密化させる効果をもつ
Cu 機械的性質の改善、主として強度アップ
Th トリウムを添加するとZrの含まれる環境では、結晶粒を微細化して機械的性質を向上させる
Ag 銀を添加すると、耐熱強度がアップする。
Y イットリウムを添加すると、Zrの含まれる環境では、結晶粒を微細化して機械的性質を向上させる
希土類 機械的性質をアップ、改善

なお、不純物として一定以上含有すると悪影響を及ぼす元素としては、Fe、Ni、Cr、Cuなどがあり、いずれも耐食性を低下させるため、成分管理がうまくいかずにこれらが多く残留していると、早期劣化や腐食に見舞われる可能性があります。

マグネシウム合金の特性

先にも述べたとおり、最大の特徴はその軽さにある材料ですが、他にも、特徴はあります。まず、マグネシウムは電磁波を遮蔽する特性があります。高温で加熱しても形状が崩れにくく、形や精度を保つことができるため、寸法精度が温度によって狂いにくいです。

被削性がよく、切削するのに必要な力(切削動力)が少なくてすむ材料で、アルミの半分程度、軟鋼の5分の1といわれます。切削抵抗が低く、さらに切削速度依存性がないため、高速の切削加工でも能率的に加工が可能で、鏡面加工が容易にできます(合金にもよります)。アルミ同様に少ないエネルギーでリサイクルできる材料です。

電気抵抗は金、銀、銅、アルミに次いで電気抵抗率が低く、電気を通しやすい材料と言えますが、温度が上昇すると反対に高くなります。マグネシウムは軽い割に減衰能が高く、振動を吸収する性質を持ち、繰り返し運動に強い特徴があります。

マグネシウム合金の耐食性

軽くて強度に優れるマグネシウム合金は、コスト面を除くと軽金属としてはいいこと尽くめのように見えますが、一つの弱点があります。

それはマグネシウム合金は耐食性が低いとされ、腐食に弱いとされる点です。実際に何に対して腐食し、何に対してならば腐食しにくいかをまとめると下記の通りとなります。

マグネシウム合金の腐食に対する耐性(純マグネシウムの場合)
耐食性をもつ物質 耐食性が発揮されない物質
アルカリ性の薬品(苛性ソーダ、アンモニア水など)、鉱物油、動植物油、フッ化物、クロム酸、シアン化物、酸素ガス、水素ガス、一酸化炭素ガス、蒸留水、中性有機化合物など 無機酸(硝酸、塩酸、硫酸)全般、有機酸(酢酸、酒石酸、クエン酸ナトリウムなど) ハロゲン化物、塩化物、鉛、硝酸塩、メチルアルコール、沸騰水など

実用上は、耐食性を改善したマグネシウム合金も普及してきていますが、何に対する「耐蝕」なのかもよりますが、他の耐食性に優れた金属に比べるとそこまでは強くないというのが実情です。

マグネシウム合金の用途

開発された当初は、ごく限られた用途にしか使われませんでしたが、現在は使用量が飛躍的に増加しており、自動車のシートフレーム、ハンドル芯金、工具類の治具、電動工具、携帯電話、デジタルカメラ部品、デジタルカメラ筐体、モバイル機器、ノートパソコン筐体など生産や日々の生活で使うものや接するものの外装や内部には何らかの形で使われている金属となっています。

特に、テレビカメラ、デジタルカメラ、ノートパソコン、携帯電話機器などへの採用が一般的になるとこの用途での使用量が大きく増加しました。

ボリュームのある用途では、ほとんどが以下の鋳物やダイカストのマグネシウム合金が使われます。

マグネシウム合金鋳物

マグネシウム合金の材料規格は大別すると、棒材や板材などの展伸材、鋳物、ダイカストの3種類がメジャーなものとなりますが、このうち、マグネシウム合金鋳物の規格としては、JIS H 5203があり、2000年に改訂され、現在の規格は2006年版となります。対応するISO規格は、ISO 16220:2005, Magnesium and magnesium alloys-Magnesium alloy ingots and castings(マグネシウム、マグネシウム合金−マグネシウム合金インゴットと鋳物)となります。マグネシウム合金の鋳物としては12種類が規格化されており、MCからはじまる材料記号を持ちます。

12種ありますが、一般的に使われるマグネシウム合金鋳物はMg-Al-Zn系の合金となります。

「JIS H 5203 マグネシウム合金鋳物」に規定のある材料記号

マグネシウム合金ダイカスト

マグネシウム合金ダイカストはJIS上、7種類の材料が規定されており、合金組成別に見ていくと、3つに大別できます。一つがMg-Al-Mn系合金で、MDC1D等があり、伸びの大きいMDC2BなどのMg-Al-Zn(AZ系)系合金、耐熱性に優れたMDC3BのようなMg-Al-Si系合金(AS系)が続きます。

大量生産に向いたダイカスト製法によって作られるマグネシウム合金ダイカストの特徴は、マグネシウム合金と同様で、軽さのわりに強度があることを示すパラメータである比強度に優れる点や、圧縮強さにも強い点、比重が工業上実用化されている合金の中でもっとも低い1.74(密度1.74g/mm3)、エネルギー吸収性がよいなどの点が挙げられます。

ダイカスト製法を用いることで、大量生産のほか、高精度の仕上げが可能となりますが、マグネシウム合金そのものが耐食性に乏しいという欠点はダイカストを用いても同様で、昨今はこの弱点を補完するための高純度の耐食強化合金も開発されていますが、通常のマグネシウム合金には防食処理が必要となることが大半です。

比強度の強い材料ですが、これは重量に対しての強度である為、重量を無視した場合、機械的強度の面では、他の構造材料に比べて優れているわけではありません。ただ精密機器や携帯機器など小型が前提とされ、軽量化が必須となる部材としては非常に相性がよく、現在使用量が増加している材料でもあります。但し、コスト面ではアルミニウムに比べても高額となります。

電子機器や精密機器、光学機器などの部品や筐体などに使われる理由としては、以下のような特徴を持つことが理由と言えます。

  • 熱伝導性、放熱性に優れる(熱伝導はアルミの凡そ70%ほどの良導体)
  • 高動作温度への耐久性
  • 振動吸収性が高い
  • 軽量で減衰能をもつ唯一の材料
  • シールド性能、EMI/RFI遮蔽特性
  • 仕上げ特性の良さ、寸法精度が高く仕上げられる
  • 耐くぼみ性に優れる
  • リサイクル利用しやすい
  • 熱膨張係数は鉄の約2倍

「JIS H 5303 マグネシウム合金ダイカスト」に規定のある材料記号

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