ヘッドライトの黄ばみは研磨で除去できますか

2011年8月8日更新

結論からいえば可能です。

車のヘッドライト部分は昔はガラスがよく使われていたのですが、昨今はほぼ樹脂性です。1980年代にはこの傾向が顕著になり、今はガラス製のヘッドランプ(カバー)を持つ車を見ることはほとんどなくなりました。ガラス製はまずは重さに難があり、万が一衝突した場合の破損や形状が自在に作りづらいといった点なども課題でした。車体の軽量化は全ての車部品にとって課題となっており、ガラスから樹脂への転換は避けられない流れだったとも言えます。ただ、ガラスは傷が付きにくく、紫外線にさらされても黄ばんだりすることはない素材でした。

ヘッドライトが樹脂性になったことで重量はガラスの4分の1以下になり、アスペクトレシオ(横の長さが縦の何倍あるかの比。最近の車はヘッドライトが細長くなっているものがほとんどかと思います)もガラスよりも自由度が増しましたが、反面、樹脂の宿命でもある「(紫外線による)劣化」「耐侯性」「傷」「黄変」と向き合っていかなければならなくなりました。ヘッドライトのカバーの樹脂材料としては「ポリカーボネート(PC)」が最も良く使われ、メーカーによりフィラー等を添加することで一般の樹脂よりも耐侯性や劣化などに強いものが開発され、実用化されてはいますが、やはりガラスほどには強くありません。

ヘッドライトカバーの表面には耐侯性を向上させたり、紫外線を防ぐ目的の透明なコーディングが施されています。長い時間、風雨や塵などの衝突に日々曝されているうち、これらのコーティングは剥がれていき、また紫外線により樹脂材料であるポリカーボネートそのものが劣化していきます。黄ばみもその一つの現象で、黄変劣化とも言われます。ポリカの劣化は外側からはじまりますので、ヘッドライトを交換することなく黄ばみを除去することは可能です。また白い水垢のように、一見すると壁か何かに擦りつけたような白い傷がありますが、これらも除去可能です。通常の洗浄では落とすことができない汚れでも研磨によって落とすことができます。

動画サイトなどでは歯磨き粉を使ってヘッドライトの黄ばみをとる実験などの映像が投稿されており、それらでもある程度除去することはできます。ただ、研磨という作業は物体の表面を削り取る作用そのものであり、歯磨き粉のように砥粒サイズが一定していないものや本来樹脂の研磨用としてデザインされていないものを用いるのはヘッドライト表面に無数の傷を作ってしまう原因ともなります。ヘッドライトは見た目の美観だけでなく、夜間の視野を決定づける非常に重要な車部品の一つですが、黄ばんだ状態のものとクリアな透明な状態なものとでは、夜間の点灯時の視界がかなり変わります。特に街灯が少ない場所などではその差はさらに顕著になります。したがって、このヘッドライトをきれいにしておくというのは美観上の理由だけでなく、安全上も重要と言えます。凸凹の傷がたくさんできてしまうというのは望ましくありませんので、ヘッドライト用に設計された研磨材を使うことをおすすめします。

実際のヘッドライトの研磨作業はコンパウンドやペースト、液体研磨材などの形態で売られている専用の研磨材で磨いていくことになります。最近では手ごろな価格できれいに仕上げてくれる業者も増えているため、不安のある方は依頼してしまうのもよいでしょう。

まずヘッドライト表面のゴミや一般的な汚れを落としてから、研磨材をウエスなどのクロスにつけて磨いていきますが、たいていは複数工程を経る必要があります。製品によっては一工程ですべて仕上げてしまう画期的なものもありますが、一般には粒度の少し粗いものから順に細かいものに変えていき、最後は表面を丁寧に洗ってコーティングするという流れになります。また車体の塗装に傷をつけないよう、ヘッドライトのまわりをマスキングで覆うのも有効です。特にグラインダーやポリッシャー等の電動工具を使う場合は、これらで車体を保護したほうがよいでしょう。研磨材の種類としては、ポリカーボネートが被削材となるため、アルミナ系をベースにしたものが一般的ですが、他にもいくつかあります。ポリカーボネートは耐熱性(130℃以上)、難燃性も備えているため、回転工具による研磨で表面の温度が多少上昇しても短時間ならば問題ありませんが、あまり高温になると表面がうねったり、形状が崩れる可能性があります。

ポリカーボネート樹脂はガラスの約200倍の耐衝撃性を持ちますが、傷には弱いという特性があります。傷や黄ばみの深さに見合わない粒度の粗いものを使うと、目に見える傷ができますので、注意が必要です。もっとも、黄ばんだ状態のヘッドライトの表面には、砂塵などを巻き上げてぶつかった無数の傷がすでについていますので、磨いていくにつれて、それらがよりはっきり見えてくることになります。傷が出たという場合は、研磨材によるものなのか、もとからついていたものが黄ばみの落ちとともに身に見えるようになったのかを見極める必要があります。

単に機械的にヘッドライトの表面を削るタイプの研磨材よりも、CMPに近いような、化学的な反応が表面で起きるようなタイプのほうがきれいに仕上がります。

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