FTA協定の活用のために

2013年3月2日更新

FTAとは自由貿易協定の略で、国同士や地域同士でこの協定が結ばれていると、貿易の際に支払わねばならない「関税」が削減できる可能性があります。日本の場合はFTAの上位版であるEPA(経済連携協定)と呼ばれる協定が海外のいくつかの国や地域と結ばれています。

国境を越えて製品、部品、原材料などを輸出すると、それらを受け取る相手国側の通関の際に、製品の種類によって取り決められた関税率に基づいて、関税を払う必要があります。関税は国の収益とするという側面のほか、物品によってかけるため自分の国の産業を守ったり、振興したりといったことも可能になります。

企業規模の大小を問わず、昨今、海外の取引先と全く無縁という工業分野の製造メーカーは珍しくなってきたのではないでしょうか。海外の顧客へ直接製品を輸出するにしろ、自社工場や提携先に部品や材料を供給するにしろ、輸出には輸送費だけでなく、現地受け取り側での関税、諸税など国内販売よりも余計に費用がかかります。価格は下げることはあっても、なかなか値上げというわけにはいかない今日日の状況では、いかにして原価低減に取り組み、利益を出すのかという点も無視できません。

顧客から直接値引きを迫られているといった逼迫した状況でなくとも、日ごろから原価を抑える活動は必須となります。こうした活動の中で意外と盲点となっているのが「関税」です。

輸送費も様々なフォーワーダーから見積もりを取って最適なルートと業者を選んでいるのでしょうが、関税の場合、低減できる場合は、文字通りゼロになることがあります。

工業製品の中でも国によっては10%〜20%程度の関税がかかる製品もあり、仮に100万円分を輸出したとして、関税率が20%ならば20万円になってしまいます。

具体例で言えば、自動車を韓国へ入れる際、日本の自動車メーカーは、日本から輸出するのではなく、米国やEUから自動車を輸出しています。輸送費のことを考えるとかえって高そうに思われがちですが、評価額300万円の自動車を5000台韓国へ送る場合、次のようになります。

FTAを使った場合と使わない場合のコスト比較:韓国へ自動車を輸出する場合(300万円の車を輸出)
アメリカから送る
(米韓FTAを使う)
日本から送る
関税率4% 関税率8%
関税額12万円/台x5000台 関税額24万円/台x5000台
関税総額:6億円 関税総額:12億円

これが高級車ともなればさらに影響が大きくなってきます。

FTA関連ではよく話題となる韓国ですが、同国ではEUと米国の双方とFTAを締結しています。上記例では米韓FTAを使った場合です。日本との間でも中国を交えてFTA交渉を開始することが決まっていますが、現時点では日本との貿易では通常のMFN税率と呼ばれる関税率が適用されます。韓国で自動車の場合、これが8%となり、米国と韓国のFTAを適用させた場合はその半分の4%となります。

自動車だけでなく、例えば単価は安いが数の多い量産部品や材料、あるいは製造設備や高価な機械を送るといった場合でも、単価に直接影響するほどの額となる場合があります。

関税は通常輸入側で負担しますが、見積もりの際は、当然相手もそのことを知っていますので、自分たちが関税分を支払うことを見込んだ見積価格を求めます。

海外との取引があるのなら、このFTAやEPAを活用して関税の減免の恩恵を受けることも一つの作戦です。

FTAを活用するための手順

1.輸出国との間でこうしたFTAやEPAの協定が結ばれているか調べる。
まずは輸出先と自国との間での協定が「発効」されているかを調べる必要があります。三国間貿易の場合は、発効されており、なおかつ三国間貿易にもFTAが対応しているかどうかも要調査です。またFTAやEPAといった名称他、CEPA(包括的経済連携協定)やPTA(特恵貿易協定)といった名称の協定も同様の関税減免の効果を持つものがあります。
2.輸出品のHSコードを調べる
すべての物品には、便宜上、HSコードと呼ばれる番号がつけられており、上から6ケタは世界共通の番号がつきます。
3.HSコードから、FTAの協定文に載っている「譲許表」を調べ、輸出品が関税の減免対象か調べる
FTAの協定文の中には、このHSコード別に、どの品目が関税減免の対象とするのかを定義しています。
4.上記からどのようなスケジュールで関税率が下がるのか調べる
譲許表には、各品目の関税率がすぐにゼロになるのか、あるいは数年かけて段階的に削減していくのか、削減の対象外なのか、といった情報が記載されています。
5.メリットがありそうならば、どういうルールで原産品が決まるかを調べ(原産地規則)、輸出したいものが該当するかを調べる。
原産地規則とは、その物品が自国産のものかどうかを判定するためのルールです。部品や原材料などが自国産のものでないといけないというわけではなく、非原産の材料を使って作ったものでも、この原産地規則を満たせば自分の国の「原産品」として、関税率の減免を受けることができる場合があります。
6.日本ならば日本商工会議所で手続きに従い、特定原産地証明書の発行してもらう
FTA(日本ならばEPA)による関税の減免には「特定原産地証明書」しか使えません。これは日本の場合、発給機関が日本商工会議所のみです。
7.輸入通関の際、この特定原産地証明書によって現地側で関税の減免を受ける
自国で輸入するなら相手国からの原産地証明書が、逆ならば自国の原産地証明書が必要で、FTAに使うものは上記の通り、「特定原産地証明書」といって通常のものとは異なります。

大まかに言えばこうした流れになります。特定原産地証明書には発行手数料がかかりますので、手間と関税のコストを天秤にかけつつ、適用するかどうかを検討していきます。価格の安いものであっても量があるのであれば、おおむね5%程度の減免であれば、適用させる企業が多いようです。

上記のように貿易を行う上で直接的に費用を削ることができるFTAは大きなメリットがありますが、実際に締結されている協定があったとしても、協定で取り決めた原産地規則を満たしていないと使うことができません。また譲許表をみて、関税が下がっていくスケジュールも確認の必要があります。一般には協定を締結してすぐに関税を撤廃する品目だけでなく、5年、10年など一定の期間をかけてゼロにするというものも多く、これらは毎年均等に低減していくというものや、率を変えて下げていくというものもあります。

原産地規則としては、代表的なものとして、付加価値基準、関税分類番号変更基準というものがあります。付加価値基準は、その製品の価格の中で一定割合以上が自国もしくは協定相手国で製造したもの、部品、原材料などで構成されていれば「原産品」として認めるというものです。

関税分類番号変更基準とは、ある製品を自国で作る際、必要な部材のHSコードが変わっていれば良いというもので、例えば「ねじ」「鋼板」「プラスチック材料」を組み合わせて、別のHSコードを持つ「A」というものになっていれば原産品として認めるというルールです。HSコードがどの程度変わっていなくてはならないかは協定によってまちまちで、4桁のレベルや6桁のレベルでの変更を求めるものが多いです。

原産地規則を満たしたものでないと、協定を結んでいる国以外の物品でも適用できてしまうため、このルールがFTAを使う場合に必要な原産地証明書取得にあたって肝となる部分です。

一見複雑そうなルールですが、使う協定が決まり、その基本的なルールがわかってしまえば、特定原産地証明書の発給申請もあとは決まったルールに基づいて行う定型業務になります。

日本と海外との貿易のほか、物自体が日本を経由しない三国間貿易でも使うことができる場合があります。関税のシミュレーションの仕方から、FTAの基本ルールまで幅広く紹介していきます。

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