金属硬度の一覧表と硬度の比較
ここでは金属の硬度のみを一覧にして比較していますが、これは金属の強さを示す一つの指標に過ぎません。最強の金属への飽くなき追求は、いつの時代も盛んに行われてきましたが、あらゆる状況で最強というような万能な金属というものはなく、実用上は、どういう局面でどういう強さなのか、という使用条件・使用環境を明確にする必要があります。
金属は、種々の合金元素を添加し、合金化することで強度や硬度を高めるとともに、熱処理によっても硬度をあげることができます。 ただ、硬いからといっても、必ずしも強い金属というわけではないのが難しい点で、「強度」「硬度」「耐性」はそれぞれ別のものです。
例えば、衝突や落下など非常に大きな衝撃を瞬間的に受けた場合にその金属が壊れないかどうか、という点は硬さだけではなく、衝撃をどれだけ吸収できるのかという指標である「衝撃値」によって推計されます(衝撃への強さは耐撃性とも言い、靱性〔粘り〕が強いものほど衝撃に強くなります)。金属の場合は、一般に硬いものほど衝撃に弱くなりますので、外側だけ硬くし、内側をやわらかくしておくことや、硬度を上げすぎないように工夫することもあります。
またいわゆる金属疲労に代表されるような、「疲労強度」、繰り返し力がかかったときにどれくらい破断されにくいかを見るのも、硬度以外のパラメータが必要です。
さらに繰り返し大きな摩擦力がかかるような場所に使われる金属であれば、「耐摩耗性」が要求されます。この指標は、硬度とおおむね連動しており、硬度の高いものほど耐磨耗性も強くなります。
高温となる環境での使用では「耐熱性」が重要となります。多くの金属は、温度が一定以上になると軟化して強度が失われていきます。常温で硬度が高いものと、高温でも硬度が高いものは必ずしもイコールではありません。
反対に低温環境下では、「低温脆性」が問題となります。金属材料は氷点下などの極低温の環境におくと、脆くなってしまう性質があります。常温では大丈夫な衝撃でも、氷点下で受けると金属が割れてしまう現象です。いかに常温で強い金属であっても、低温環境で使うにはこの低温脆性が起きにくいことが必須となります。
錆や腐食への耐性を「耐腐食性」「耐食性」ともいいますが、いかに硬くてもある条件での腐食がひどいようであれば、金属が劣化して破壊や崩れの原因となります。
工業的に使うのであれば、海水の中でも強度を維持できるか、ある種の薬品がかかるような環境でも強いかどうか、といった「耐海水性」や「耐薬品性」も重要となります。
金属材料を扱う上では、硬度が重要なことは言うまでもありませんが、硬度のほかにも、上記のように衝撃に耐えたりするには靱性(粘り強さ)も大切です。機械的な特性を表すパラメータは、「引張強さ」「降伏点」「伸び」「絞り」などがありますが、伸びや絞りは靱性を表すパラメータとなります。
金属材料を選ぶ際には、上記のように硬度以外のパラメータも総合的に判断し、バランスをとった選択が肝要となります。あるパラメータだけを「最強」にすると、結果的に実用上問題があったり、本来の目的を実現することができないものになることもあるため、よくよく留意する必要があります。
素材の種類 | 硬度(ブリネル硬さ:HBW換算) |
---|---|
S45C(機械構造用炭素鋼) | HBW 201〜269 |
S55C(機械構造用炭素鋼) | HBW 229〜285 |
S30C(機械構造用炭素鋼) | HBW 152〜212 |
SCr435(クロム鋼鋼材) | HBW 255〜321 |
SCr445(クロム鋼鋼材) | HBW 285〜352 |
SMn443(マンガン鋼) | HBW 229〜302 |
SMnC443(マンガンクロム鋼) | HBW269〜321 |
SCM822(クロムモリブデン鋼、クロモリ鋼) | HBW302〜415 |
SCM440(クロムモリブデン鋼、クロモリ鋼) | HBW285〜352 |
SCM445(クロムモリブデン鋼、クロモリ鋼) | HBW302〜363 |
SNC815(ニッケルクロム鋼) | HBW285〜388 |
SNCM815(ニッケルクロムモリブデン鋼) | HBW311〜375 |
SACM645(アルミニウムクロムモリブデン鋼) | HBW241〜302 |
SK95(SK4)、炭素工具鋼 | HBW 203〜286 |
SKH56(高速度工具鋼鋼材、ハイス) | HBW 722 |
SKT6(合金工具鋼鋼材) | HBW 512 |
SUJ5(高炭素クロム軸受鋼鋼材) | HBW212 |
ばね鋼鋼材(SUP10) | HBW 363〜429 |
SF640B(炭素鋼鍛鋼品) | HBW 187 |
アルミ合金 | HBW 45〜50 |
アルミニウム合金 2000系(Al-Cu-Mg系) | HBW 100(自然時効) |
アルミニウム合金 7000系(Al-Zn-Mg系) | HBW 80(人工時効) |
アルミニウム合金 6000系(Al-Mg-Si系) | HBW 95(人工時効) |
銀 | HBW 25 |
黄銅 | HBW 80〜150 |
青銅 | HBW 50〜100 |
鋳鉄 | HBW 160〜180 |
コルソン合金 | HBW 247 |
ベリリウム銅 | HBW 219(時効処理後は〜400) |
クロム銅 | HBW 158 |
ジルコニウム銅 | HBW 140 |
便宜上、上記のブリネル硬さ(HB)と下表のビッカース硬さ(HV)はほぼ同じものとして扱います。
- ブリネル硬さ(単位:HB)≒ビッカース硬さ(単位:HV)
なお、上表の金属の硬さは、標準的な条件での熱処理による硬度で、焼入れの方法によってはさらに硬度を上げたり、下げたりといったことが可能です。
下表は金属としてはもっとも硬度に優れた超硬合金や、金属よりもさらに硬い材料の硬度を比較した一覧表です。金属材料については、熱処理(焼入れ・焼戻し)によって硬度を上げたものです。焼入れの条件によってはこれ以上の硬度になる場合もあります。
素材の種類 | 硬度(ビッカース硬さ:HV換算) |
---|---|
ダイヤモンド | 7140〜15300 |
炭化ケイ素(SiC、セラミックス) | 2350 |
サファイア(Al2O3) | 2300 |
サファイアガラス | 2300 |
超硬合金 | 1700〜2050前後 |
サーメット | 1650 |
石英(水晶) | 1103 |
SKH56(高速度工具鋼鋼材、ハイス) | 722 |
強化ガラス | 640 |
SUS440C(マルテンサイト系ステンレス) | 615 |
SKT6(合金工具鋼鋼材) | 512 |
SCM822(クロムモリブデン鋼、クロモリ鋼) | 302〜415 |
ベリリウム銅:時効処理後、C1720(T) | 350〜400 |
SUS630(析出硬化系ステンレス) | 375 |
チタン合金60種(64合金) | 280前後 |
インコネル(耐熱ニッケル合金) | 150〜280 |
S45C(機械構造用炭素鋼) | 201〜269 |
ハステロイ合金(耐食ニッケル合金) | 100〜230 |
SUS304(オーステナイト系ステンレス) | 187 |
SUS430(フェライト系ステンレス、18クロムステンレス) | 183 |
鋳鉄 | 160〜180 |
アルミ合金(7000系、超々ジュラルミン) | 155前後 |
チタン合金 | 110〜150 |
黄銅 | 80〜150 |
純鉄 | 110 |
ハードプラチナ | 100前後 |
青銅 | 50〜100 |
アルミ合金 | 45〜100 |
カーボニル鉄 | 56〜80 |
マグネシウム合金 | 49〜75 |
アームコ鉄 | 60〜65 |
プラチナ(純プラチナ) | 50前後 |
純マグネシウム | 46 |
ホワイトメタル | 15〜30 |
銀 | 25 |
金 | 22(熱処理により〜50) |
鉛フリーはんだ材 | 20前後 |
鉛 | 3.9前後 |
ダイヤモンドや炭化ケイ素、サーメット、ガラスなど金属以外の物質の硬度も比較のための参考値として記載しました。
超硬合金は、「金属」には違いませんが、炭化タングステンやコバルトなどの金属粉末を型に入れて高温で焼結して作るものです。このため、切ったり、削ったりする場合は硬度が高いこともあり、延性材料である金属というよりも脆性材料のセラミックスに近い挙動を見せます。
硬さの単位の多くは、ダイヤモンドやタングステンなどの圧子を測定対象に押付けて、その材料がどれくらい凹んだのかを計測します。このため、ダイヤモンドやセラミックスなどの高硬度の材料と、金属材料とでは計測に用いている硬度単位を正確に換算することが困難です。硬度の表記に用いた単位は、便宜上、近似値に換算したものです。
ダイヤモンドの硬度には、HVでも単位としてGPaを用いますが、比較のため、ここでは下記の式で概算に直しました。
- 1 HV(GPa)=102 HV(無単位)
上記の硬度の一覧から、金属として最も硬いのは「超硬合金」で微粒子タイプでビッカース硬さで実に2000前後となります。鉄鋼の中でも構造材や機械部品として使われる汎用の炭素鋼が250前後の硬さであることから、いかに硬いものか想像がつくと思います。また、ダイヤモンドはHV換算で7000〜15000(結晶方向による違いもあります。本来、ダイヤの硬さはHV:GPaもしくはヌープ硬度で表記)の硬さを持ちます。工業分野でなぜダイヤモンド砥石やダイヤモンド工具、ドリルなどが使われているのかよく分かるかと思います。
金属素材については、熱処理によって硬度を調整することが一般的なため、あえて硬度を上げない処理を行うこともあります。硬度は耐摩耗性と強い相関があり、また炭素鋼については、熱処理後の硬度と引張強さは相関します。ただし、ブリネル硬さが500を超えるレベルになると、引張強さは弱くなってしまいます。
冒頭にも述べましたが、硬度は金属の性質のひとつの指標に過ぎません。このパラメータが高いと、磨耗には強くなりますが、金属の場合は通常、粘り強さ(靱性)が低下するため、衝撃への吸収が弱くなります。耐撃性などが必要な「強さ」を検討する場合には、硬度以外のパラメータの比較と検討が必要です。
スポンサーリンク