高炉と電炉の違い

2022年8月27日更新

高炉(読み方:こうろ)は鉄鉱石から鉄鋼を作る設備で、電炉(読み方:でんろ)は鉄のスクラップから鉄鋼材を作る設備という違いがあります。前者で作ったものを高炉材、後者を電炉材と呼びます。なお、正確には「電気炉」といいますが略して電炉と呼称されています。

鉄鋼材を製造しているメーカーには、高炉メーカーと電炉メーカーがあります。高炉は巨大な設備と敷地が必要で、高炉を新たに作るとなるとおおよそ5000億から1兆円程度かかるのに対し電炉は数百億から約1000億円程度で立ち上げができます。

高炉のほうが一から鉄を作り出すため新品で高級なイメージがあり、電炉というとすでに使われていた鉄鋼製品が溶かされて再び鋼材になるため、強度面や品質面では一段劣ると見られがちですが、精錬技術や製鋼技術の向上により製品種によっては実用上差異がないものも出てきています。

JIS規格では成分や強度の規格は定められているものの、高炉材でないといけない、電炉材でないといけないという規定はありません。

ただ実務上、建築や自動車、家電分野などでの高級鋼といわれる付加価値の高い鋼やハイテン材をはじめとする高スペックのものはほとんど高炉材が使われています。また大量生産が前提となる業界も同様に高炉材が高く、国内では約75%が高炉、残りの25%程度が電炉によるものとされます。

高炉材から電炉材に変更するには、例えば自動車分野では部品に使用するものであっても工程変更手続きにより両者の強度をはじめとするスペックが変わらないという証明が必要になり、コストダウン等大きなメリットと両立できないとハードルが高くなります。

というのも、同じ高炉材でも、同メーカー同スペックの鋼材を製造している高炉の「場所」(製鉄所の場所)を変えただけで、鋼材を使用している製品のスペックに影響が出る場合があり、材料というのは規格上の成分やミルシート等には見えてこないパラメータも製品に影響することがあるためです。

高炉材と電炉材の比較

下表にて高炉材と電炉材を比較してみます。

高炉材と電炉材の違い
高炉(材) 電炉(材)
  • 鉄鉱石から鋼材を作る
  • 鋼材の結晶構造や成分の調整ができる
  • 高付加価値の鋼材を作り出せる
  • 設備が巨大で生産能力が大きい、大量生産に強い
  • 原材料は電炉に比べると安価
  • 日本では日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所の3社12か所のみに存在
  • 国内粗鋼の4分の3は高炉材
  • コストの7割や原材料の為、原材料高騰や鉄鉱石などは輸入品になるため為替の影響も受ける
  • 鉄スクラップから鋼材を作る(鉄源となるのは高炉で作られた他の鉄鋼材)
  • 不純物の影響を極力なくす精錬技術が向上しているが高炉ほどの高精度の制御は難しい
  • 成分微調整等の鋼材開発は困難
  • 設備は高炉より小さく多品種少量生産に向く。いわゆる鉄屑のリサイクルとなるため、供給量には限りがある。
  • 原材料は高炉に比べると高い
  • 日本では60数社。高炉メーカーの傘下に入っている会社もある。
  • 国内粗鋼の約4分の1(25%)程度にとどまる
  • 高炉に比べ、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ないので脱炭素経営には追い風

強度をはじめとする物理的性質の違い

高炉材と電炉材の物理的な性質の違いにはついては種々の切り口がありますが、建築鉄骨構造技術支援協会の記事が参考になります。

ここではシャルピー衝撃試験で違いを見る内容が紹介されており、高炉材平均と電炉材平均とでは吸収エネルギーに差があることが記載されています。温度が100℃を超えると両者の差の幅も一定になりますが、常温に近い部分では差が大きくなっています。

吸収エネルギーが大きいということは、衝撃に対してより強い材料ということがいえます。材料のもつ靭性(粘り強さ)が異なるということになりますので、あくまで平均での比較文献とはなりますが、高炉材の信頼性は依然高いということが言えます。

鉄鋼材を使った製品にとって、材料にばらつきがあったり、強度が弱いということは致命的な欠陥となり、時に大規模な事故やリコールにもつながりますので、再評価の煩雑さもあり、調達できなくなる、購入価格が上がるといったマイナスの要因がない限り、どのメーカーもあまり頻繁にはかえたがりません。

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