めっきの種類と特徴

2013年11月25日更新

めっきとは何か

めっきは鍍金とも書かれ、数ある表面処理技術の中でも代表的なものの一つで、一言で言えば材料の表面に何らかの機能をつけるために行われる加工です。

具体的には、金属材料などの表面に、金属質の「膜」をつけることで、はんだ付け性や、電気抵抗、接触抵抗、磁気特性、耐食性、耐磨耗性、耐候性、耐薬品性、装飾性などの機能を付与するための技術となります。現在、日々の生活でも仕事でもメッキと全く無縁で過ごすのは難しいほど多用されている技術の一つです。

また、めっきの特徴として、今日、出回っている数多くの素材に適用できるため、例えば、鉄や鉄鋼材料をはじめ、銅、アルミや亜鉛などの非鉄金属、プラスチック材料、エンジニアリングプラスチック、セラミックス、粉末、繊維など導電性か非導電性かを問わず、適用可能です。金属材料には電気めっき、セラミックスや繊維、プラスチックなどの非導電性の材料には無電解めっきが用いられます。

表面処理技術におけるメッキの位置付け

他の薄膜加工に比べると、めっきはカバーできる膜の厚さの範囲が広いという特徴もあります。ただ、どちらかといえば、ミクロン単位やミリ単位の厚さをもつ膜に向いており、ナノオーダーでの均一な膜厚制御ということであれば、他の技術に軍配が上がります。薄膜を形成する技術の中では、膜をつける速度がはやいことにも特徴がある技術です。膜をつける対象の大きさも、小さなものから大型のものまで幅広く対応可能です。

無電解めっきは複雑な形状のものにも均一な膜厚制御での膜をつけることができます。

めっきの膜厚制御はめっきの手法によっても異なります。電気めっきの場合は、電流密度と時間により厚みが変わり、無電解めっきの場合は、時間と温度により厚みが制御可能です。

主な表面処理技術の比較

メッキと他の表面処理技術の違い
表面処理技術 特徴
メッキ 分類上は、液相成膜法に括られるウェットな薄膜形成技術で、装飾や耐食性・防錆向上など幅広く使われる技術です。極薄の膜の生成には向いていないのと、セラミックス膜や誘電体膜などにも向きませんが、金属系の皮膜は多用されています。銅メッキ、ニッケルメッキ、クロムメッキ、亜鉛メッキ、銀メッキ、金メッキ、ロジウムメッキ、黒色クロム、黒色ニッケル、黒色ロジウム、亜鉛−アルミ合金メッキ、亜鉛−鉄メッキ、亜鉛−ニッケル合金メッキなど。
PVD 物理的気相法とも呼ばれるドライな薄膜形成技術で、真空蒸着、スパッタリングなどの方法がメジャーになっています。ナノオーダーの薄膜を、高真空中でつけるため、非常に純度の高い薄膜が得られます。金属膜だけでなく、酸化物やフッ化物、窒化物の膜も作ることができます。手法としては、膜の材料に電圧をかけたり、電子ビームを照射することで分子レベルに分解し、それを対象となるものに付着させていきます。光学系では多用されており、レンズやプリズムなどの光学部品の表面につけられている反射防止膜や反射膜などはほとんどがこの手法によります。
CVD 化学的気相法とよばれるドライな薄膜生成技術の一つで、半導体への薄膜や、工具などへの耐磨耗性コーティング用などでよく見られる薄膜技術の一つです。チャンバー(窯)のなかでガス状にした気体を反応させることで、中に入れた物質の表面に極薄で高純度の薄膜をつけることができます。膜の材料を
溶射 金属材料の表面改質に多用される技術の一つです。セラミックスや金属などの物質を溶かしながら対象に吹き付けて膜をつくる技術のひとつで、例えるなら、対象となるものに、粘土を丸めて投げつけ、膜にしていくというようなイメージです。非常に硬い膜を作る際に活躍する技法ですが、薄膜の形成には適していません。また、耐熱性の乏しい対象についても膜付けが困難となります。
塗装 塗料を塗ったり、吹き付けたりする技法である塗装にはいくつか手法がありますが、一部を除くと設備も簡便で、手軽に実施できることや様々な塗装により装飾以外の機能性も付与することができることから、仕上げに使われる一般的な表面処理方法です。ただ、物理的に耐磨耗性を向上させたり、硬度をあげたりといった用途ではあまり効果が期待できません。適切な塗料と塗装の選択がうまくいかないと目的の効果が発揮されないことも多々あります。

めっきの手法別の特徴

メッキにはその付着方法にいくつかの方法があり、どのようなメッキが欲しいのかによって手法を使い分けていく必要があります。メッキ厚や、片面・両面なのか、対象となるワーク(品物)は電気を通すか、大きさや重量は対象となる手法のメッキ槽が使えるものかどうか等によって変わってきます。

電気めっき
溶液で満たされたメッキ槽の中に、メッキそのものとなる金属(+極の電極側)と、メッキを付着させる対象(−極の電極側)とを同時に中にいれ、直流電源につないで電気をかけます。+極側の金属が溶け出して、−極側に金属が析出する現象を利用した最もポピュラーなメッキ手法の一つです。膜厚の制御に強く、とくに薄い膜を均一につけたいときなどに力を発揮します。板の場合、片面だけにメッキをつけることができます。
無電解めっき
通常の電気めっきである電解を用いたメッキではないため、電源が要りません。また化学的な反応を用いたメッキ付けのため、メッキ付着の対象となるものが電気を通さないものであってもメッキをつけることができます。手法としては、さらに、置換メッキや触媒化学めっき、非触媒化学めっき、接触メッキなどの別があります。
溶融亜鉛めっき
亜鉛に限らず、溶融メッキ手法は、メッキとなる金属を溶かしたメッキ槽に対象となるものをテンプラのように漬ける技法です。亜鉛メッキや亜鉛−アルミ合金メッキで多用される手法で、メッキが厚くつくため、耐食性に優れた皮膜が作れます。大きな部材、面積が大きいものについてもコストパフォーマンスの優れたメッキ手法。大型の設備と高温でのメッキ浴が必要な点と、この手法が使えるメッキには種類が限られる点が難点の一つです。
化成処理
対象の表面に酸化物や硫化物の薄膜を作ることで耐久性や耐食性、防錆効果などを高めるための処理。メッキしたあとに実施されることが多く、メッキ鋼板などでは多用されます。塗装の下地を作る際や特定の色をつけるためにも実施されますが、後工程に相当する部分であり、厳密にはメッキそのものではないという見方もあります。
陽極酸化処理(アルマイト)
対象となるものの表面に酸化物の皮膜を作ることで、耐食性を大幅に向上させる技法です。通常、硫酸やシュウ酸などの電解溶液の中で通電させることにより酸化膜が形成されます。アルミの陽極酸化処理が大半の用途で、この処理を行った後に塗装もでき、酸化膜も厚めに形成されることから防食効果が高いですが、他の金属ではここまでの効果が出ないという問題もあります。

メッキの種類

代表的なメッキの種類とその役割、機能については下表の通りとなります。

主なメッキの種類と特徴
メッキの種類 概要
銅メッキ プリント基板のスルーホールメッキや防食用下地メッキ、装飾メッキなどでおなじみのメッキです。シアン化銅浴、ピロリン酸銅浴、硫酸銅浴などが用いられます。
ニッケルメッキ 仕上げメッキの下地層に使われることの多いめっきです。これは、ニッケルメッキが付着力・密着力の向上の役立つからで、ダイヤモンド電着工具などもニッケルメッキを下地にしていることが多いです。また、金や銀などのメッキの下地層に使う場合は、金・銀などが素材へ流れていったり拡散することを防ぐ狙いもあります。
クロムメッキ 大気中で変色せず、光沢のある平坦な膜に特徴があるメッキです。防食用と装飾用を兼用していることが多く、耐磨耗性の向上目的でも使われます。下地に上記のニッケルメッキを使うことで耐食性を確保しつつ、光沢も出すことができます。硬質クロムメッキは、このクロムメッキを厚くしたもので、下地メッキ抜きで耐磨耗性や潤滑性を得る目的でつけられるメッキとなります。
亜鉛メッキ 鋼板に多用される亜鉛メッキは、鉄よりも亜鉛のほうがはやく腐食するという特性を活かした「犠牲防食」を目的につけられることの多いメッキです。これは、鉄より先に腐食して亜鉛が犠牲になることで、本体の鉄の腐食を食い止めるというものです。表面に酸化物の皮膜もできるため、これも耐食性の向上に寄与します。また、見た目もよいため、装飾用にもよく使われます。
金メッキ 装飾用途を中心に、その名の通り高価な金をメッキするものです。古くから金箔をはじめ、貴重な金属である金を有効利用する技術はありますが、これもその流れを汲むものといえます。工業用途でも金の物性を見込んで用いることがあります。
銀メッキ 食器や楽器など日用品にも光沢銀メッキの形で使われます。殺菌効果があることから、これを目的にしたメッキが行われることもあります。
ロジウムメッキ 非常に高価な貴金属であるロジウムのメッキは、硬度の向上が見込めるため、耐磨耗性、耐食性の双方の効果を付与を目的につけられることがあります。銀メッキの上から変色防止や保護の目的でつけられることもあります。
白金メッキ 高価な貴金属である白金は触媒などにも使われますが、高い耐食性をもつため、装飾品や一部の工業用途で用いられています。
パラジウムメッキ 外観、光沢が白金に似ていますが、そこそこの耐食性もあり、白金やロジウムの代わりに用いられることもあります。

メッキの工程

メッキの工程は、その手法やメッキ付けをする金属などによっても異なりますが、代表的な流れとしては次の通りとなります。

メッキの作業工程
プロセス 作業工程名
前処理 脱脂
酸洗
研磨
脱脂
酸浸せき
後処理 めっき
水洗
乾燥
つやだし

メッキ付けの際に最も重要な要素ともいえる「前処理」では、脱脂と呼ばれる油の除去作業からはじまります。付着している油はメッキ付けに悪影響を及ぼし、一説には、メッキ不良の8割近くはこの前処理の不良にあるといわれます。

付着している油に応じて、脱脂液も使い分けられるのが通例です。仕上げとなる電解脱脂によって錆なども除去され、表面の錆や不純物、酸化物層など不要部分を研磨で除去していきます。

前処理が十分に終わり、実際にメッキをつけたあとは、水洗後に、湯洗して熱風により乾燥させていきます。また最後の工程でメッキに化成処理を行う場合は、対応する処理を実施します。

メッキ厚の計算式

電気めっきの場合、メッキの平均厚さを計算によっても求めることができます。

まず、メッキの化学物質の「電気化学当量」を調べます。一定の電気量によって金属がどれくらい析出する(膜となっていく)かは金属の化学当量に比例するためです。

金属の析出量は、理論上の析出量に電流効率をかけることで算出されます。

  • メッキ厚さ=金属の析出量÷(電極の表面積×析出金属の密度)

めっき関連のリンク

メッキは専門とする事業者数の数は減少していますが、比較的歴史もあり、インターネット上にもメッキに関するい技術情報を発信しているサイトはかなりあります。

全国鍍金工業組合連合会(ぜんとれん)
メッキ事業者の工業組合。組合員企業は凡そ1,474社(平成25年)。電気めっき業に関する指導、教育、情報・資料の収集・提供や、電気めっき業に関する調査研究、電気めっき技術に関する研究・開発を行う。サイトではメッキの種類別の特徴や他の表面処理技術の違い等についてもわかりやすく触れられている。
愛知県鍍金工業組合
127社が加盟する愛知エリアのメッキ工業組合。メッキに関する指導教育、情報提供、環境改善、労務改善、調査研究を行っている。
大阪府鍍金工業組合
大阪府鍍金工業組合の業者を検索できるシステムである「めっき専門街」も運営。DP部会、防蝕めっき部会、硬質クロム部会の三つの部会を擁する。
東京都鍍金工業組合
375社が加盟する首都圏エリアの鍍金工業組合。明治22年10月に設立されている。サイトでは、メッキの歴史や種類、データ集、関連リンク集など、メッキに関する情報が充実。
三和メッキ工業
福井県にあるメッキ業者。ウェブサイトやインターネットメディアを通じて、メッキに関する情報発信を精力的に行っている。
めっきデータベース|加工技術データベース
めっきに関する知識を深めたり、技能を向上させたりすることを目的に解説されている産業技術総合研究所によるデータベース。無料で行える会員登録後に利用することができるようになる。

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