溶融亜鉛メッキ鋼板の種類と規格|メッキ付着量や強度、比重などの特徴
亜鉛めっき鋼板は、その名の通り、鋼板の表面に亜鉛めっきを施した鋼板で、めっきをどのようにつけるのかによって、大きく、溶融亜鉛メッキ鋼板と、電気亜鉛メッキ鋼板の2タイプに分かれます。
溶融亜鉛メッキ鋼板の特徴
溶融亜鉛メッキ鋼板は、メッキをつける前の状態の板のうち、熱延鋼板に由来するものが6種類、冷延鋼板を原板(元)としたものが11種類、合計17種類が規格化されています。記号としては、前者はSGCからはじまり、後者はSGHからはじまります。
熱延鋼板のものは一般用と高強度用の二つが規定され、冷延鋼板のものは、一般用、硬質用、絞り用、高強度用のものがあります。
定義上は、「97%以上の亜鉛を含む浴において、両面等厚の溶融亜鉛めっきを行った鋼板」のことをいいます。規格での最新の改正は2012年に行われており、化学成分のうち、炭素、りん、硫黄について、報告の規定が追加されています。それ以外は2010年版に準拠した内容となっています。
鋼板は、いわゆる鉄の板であるため、加工性もよく、汎用品として廉価で出回っている反面、錆などの腐食の問題がありました。ステンレスや他の特殊鋼や非鉄金属の板となるとコスト面であわなかったり、他の物性によって適用が困難であったりと鋼板を使いたいケースでは必ず錆の問題が付き纏います。こうした問題を解決するのが表面処理鋼板と呼ばれる、鋼板の表面に金属や樹脂などを何らかの方法でコーティングしたものが実用化されており、亜鉛メッキ鋼板もその一つとなります。
同じく防食性の高い被覆鋼板であるガルバリウム鋼板は、アルミと亜鉛を混合した皮膜層を持つ鋼板です(条件にもよりますが耐食性はガルバリウムのほうが強いとされます。亜鉛メッキ鋼板の3〜5倍程度の耐食性)。また一旦、亜鉛メッキを付着させた鋼板に、さらに樹脂のコーティングを施し、加熱処理をして耐久性を高めた塗装溶融亜鉛メッキ鋼板もあります。
溶融亜鉛めっき鋼板は、耐食性、防錆効果を得る為にめっきを施した鋼板であることは述べましたが、なかでも「溶融亜鉛めっき」とは、溶かした亜鉛の中に鋼板を天ぷらのようにして漬けることで付着させる技法です。両面に厚く亜鉛メッキがつきますので、防錆効果が高く、腐食には強くなります。被膜が均一であれば、厚さのあるものほど腐食や錆には強くなります。
溶融亜鉛メッキ鋼板表面の模様−スパングル
溶融亜鉛メッキ鋼板の表面には独特の幾何学模様、花柄模様が浮き出ているものがありますが、これは不純物と亜鉛が結晶化したスパングルと呼ばれるものです。模様の大きさによって、ミニマムスパングル(模様が細かい)、レギュラースパングル(通常形状の模様)、ゼロスパングル(模様なし)といった種類があり、塗装する場合は、塗料の下からこのスパングルの模様が浮き出てしまうことがあるため、ゼロスパングルが好まれる傾向があります。
模様の有無そのものが耐食性にはほとんど影響しないとされている為、塗装や美観、好みの問題となります。
溶融亜鉛メッキ鋼板と電気亜鉛メッキ鋼板の違い
前述の亜鉛メッキ鋼板のうち、それぞれの特徴と違いを列挙すると次のようになります。
溶融亜鉛メッキ鋼板 | 電気亜鉛メッキ鋼板 |
---|---|
表と裏でメッキ厚を変えるのが難しい | 表裏で厚みの異なるメッキができる |
メッキに厚みがあるため耐食性に優れる。建材をはじめ屋外使用等にも適する。 | メッキの膜厚が均一で薄く出来る。塗装用途や、室内利用の家電外板、自動車用外板・内板などに適する。 |
メッキの量は電気メッキの6倍から10倍程度。 | メッキ量が溶融亜鉛の6分の1から10分の1程度。 |
表面にスパングルと呼ばれる模様が出てくるが、ある程度コントロール可能。 | スパングルは出ない。 |
メッキの合金化も可能。 | メッキには合金層ができない。密着度は高い。 |
溶融亜鉛メッキ鋼板はどれくらい錆に強いか
亜鉛メッキ鋼板の表面には、酸化亜鉛やその他亜鉛由来の酸化物(塩基性炭酸亜鉛)の薄い膜ができますので、これが保護膜として作用します。別の視点から見ると、この膜の防食性が失わると鋼板の耐食性も失われることになります。亜鉛メッキ鋼板にとっての防食性は、表面のメッキ層に依存していると言い換えることも出来ます。
ただ被膜が何らかの原因で部分的に壊れた場合、例えば亜鉛メッキ層を突き抜けるような傷やピンホールがついても、鋼板より先に亜鉛メッキ部分が溶け出して腐食するため、鋼板の犠牲となることで錆の進行を遅らせることができます。これがいわゆる犠牲防食と呼ばれる機能です。
公表されている資料によれば、大気曝露試験の場合の推定寿命は次の通りとなっています。板厚が0.30mmのものについて、錆により破壊されるまでを経過観察したものです。いずれも使用環境により、大きな違いがあることが見て取れます。
使用環境 | 推定耐用年数 |
---|---|
重工業地帯 | 1〜2年 |
工業地帯 | 3〜4年 |
都市地帯 | 7〜9年 |
海岸地帯 | 6〜10年 |
田園地帯 | 10〜12年 |
また、水中での耐食性については、pHが中性に近いものでは腐食の進行は遅いですが、酸性、アルカリ性のいずれの方向に動いても腐食や溶解が起きます。亜鉛の酸化物で構成されている皮膜が溶解すると、この亜鉛メッキ鋼板の腐食が先に進んで溶解することで、原板である鋼板の腐食を遅らせる「犠牲防食」の働きをしますが、これらが腐食しきってしまうと、次は鋼板そのものが腐食されることとなり、穴があく等の被害が出てしまいます。
溶融亜鉛めっき鋼板の水中における耐食性には、pHのほか、水中の不純物や水温、溶け込んでいる酸素の量、水の流速などが大きく影響します。錆や腐食が大きくなる条件としては、例えば、流速が大きい、水温が高い、軟水、水中の不純物が多い、酸性・アルカリ性のいずれ、酸素の溶け込んでいる量が多い(溶存酸素)といった環境だと、より腐食が速くなります。
溶融亜鉛メッキ鋼板の比重
比重については、亜鉛メッキをつける前の状態の鋼板について、7.85をベースにすることになっています。つけたメッキ量を加算することで、製品としての単位質量を計算することができます。
溶融亜鉛メッキ鋼板の成分
成分については、17種類すべてについて炭素、マンガン、リン、硫黄の4物質の上限値の規定があります。
このうち、炭素、リン、硫黄については小数点以下3桁まで報告してもよいという規定が2012年に追記されています。鋼板や鋼帯であるため、もっとも炭素量が多いものでも0.30%以下となっています。
溶融亜鉛メッキ鋼板の製法と工程
一言で言えば、溶かした亜鉛のなかに鋼板を漬けて表面をコーティングさせます。具体的に見ていくと、大枠は以下のような工程となります。
メッキでは表面についている油が大敵となる為、まずは鋼帯についた油分を除去する脱脂と呼ばれる工程から入り、脱脂に用いた液体を水洗であらい落とします。
次に酸洗によって、めっき対象の表面に出ている錆やスケールといった酸化物などを除去して、表面を露出させます。再度、この工程に使った酸洗液を水洗します。
この次に、めっきと鋼板との密着力をあげたり、錆の発生を抑える為にフラックス処理と呼ばれる工程を行います。フラックスとは塩化亜鉛アンモニウム水溶液を加熱したもので、これに鋼板をつけることで板の表面にフラックスの被膜ができます。
鋼板を乾燥させたのち、溶かした亜鉛のなかに板を丸ごと漬けます。取り出した後、冷却させて完成となります。
なお、鋼板の表面にはスパングルと呼ばれる亜鉛の結晶による独特の紋様が浮き出てきます。これは亜鉛の結晶化による現象であり、含まれる成分によっても紋様の程度が変わってきます。
溶融亜鉛メッキ鋼板に使われるめっきの種類と付着量
JIS規格では、合金化メッキと非合金化メッキの二種類をこの鋼板に用いられる亜鉛メッキとして定義しています。平たく言えば、合金化めっきは、メッキした後に加熱することで、メッキ層を亜鉛-鉄の合金に変えたものです。
なお、この鋼板の規格では、めっきは両面に同じ厚みでつけられているものとなっています。
鋼板にどれくらいのメッキがつけてあるかどうかについても規定があります。
Zからはじまる記号が非合金化メッキ、Fからはじまる記号が合金化メッキとなります。
めっき記号(付着量の記号) | 3点平均最小付着量 | 1点平均最小付着量 | 相当メッキ厚さ(鋼板の厚みの規格値にはこの値を足して小数点以下2桁に丸める) (ミリ) |
---|---|---|---|
Z06 | 60 | 51 | 0.013 |
Z08 | 80 | 68 | 0.017 |
Z10 | 100 | 85 | 0.021 |
Z12 | 120 | 102 | 0.026 |
Z14 | 140 | 119 | 0.029 |
Z18 | 180 | 153 | 0.034 |
Z20 | 200 | 170 | 0.040 |
Z22 | 220 | 187 | 0.043 |
Z25 | 250 | 213 | 0.049 |
Z27 | 275 | 234 | 0.054 |
Z35 | 350 | 298 | 0.064 |
Z37 | 370 | 315 | 0.067 |
Z45 | 450 | 383 | 0.080 |
Z60 | 600 | 510 | 0.102 |
F04 | 40 | 34 | 0.008 |
F06 | 60 | 51 | 0.013 |
F08 | 80 | 68 | 0.017 |
F10 | 100 | 85 | 0.021 |
F12 | 120 | 102 | 0.026 |
F18 | 180 | 153 | 0.034 |
溶融亜鉛メッキ鋼板の記号
材料記号の他、化成処理の記号と、めっきの付着量を示す記号、寸法を示す記号を明記することが出来ます。
材料記号 | 表面仕上げ記号(めっき)、化成処理記号、塗油の記号 | めっきの付着量 | 寸法表記 |
---|---|---|---|
SGCC | NC (クロメートフリー処理) |
Z25 (0.040mm相当のめっき厚さ、非合金化メッキ) |
1.2x914x1829 表示厚さx幅x長さ |
亜鉛メッキ鋼板の防食性能を左右する「めっき」部分については、以下のような化成処理に応じて、実施した記号をつけることが出来ます。
化成処理の種類 | 記号 | 内容 |
---|---|---|
クロメート処理 | C | メッキ後に加熱をしない非合金化メッキの場合は、指定がなければクロメートか、クロメートフリーが一般的。 |
リン酸塩処理 | P | 耐食性をあげるため、この処理の上にクロメート処理を行うことが一般的。 |
クロメートフリー処理 | NC | 六価クロムを含まない化成処理。 |
クロメートフリーのリン酸塩処理 | NP | リン酸塩処理の上に、上記のクロメートフリー処理したもの |
無処理 | M | 合金化めっき(メッキ後に加熱してメッキを合金化したもの)の場合は特に断りが無ければ無処理 |
溶融亜鉛メッキ鋼板の厚さと長さ、幅などの寸法の規格
標準とされる板厚や長さ、幅についても規定があり、メッキ厚を加算して算出することになります。
標準厚さ |
---|
0.27 |
0.30 |
0.35 |
0.40 |
0.50 |
0.60 |
0.70 |
0.80 |
0.90 |
1.0 |
1.2 |
1.4 |
1.6 |
1.8 |
2.0 |
2.3 |
2.8 |
3.2 |
3.6 |
4.0 |
4.5 |
5.0 |
5.6 |
6.0 |
溶融亜鉛メッキ鋼板の長さ、幅などの寸法、サイズ
標準の幅 | 標準の板の長さ |
---|---|
762 | 1829, 2134, 2438, 2743, 3048, 3353, 3658 |
914 | 1829, 2134, 2438, 2743, 3048, 3353, 3658 |
1000 | 2000 |
1219 | 2438, 3048, 3658 |
1524 | 3048 |
1829 | 3658 |
溶融亜鉛メッキ鋼板の用途
鋼板の短所であった耐食性、防錆面に優れたものということで、加工性、低コストや流通性などから様々な産業で多用されています。塗装されて用いられることも多く、この場合は溶融亜鉛メッキ独特の幾何学模様であるスパングルが少ないものの方が塗装の下から見えることもないため、好まれる傾向があります。
主な用途を列挙すると、自動販売機、屋外設置機器、自動車部品(外板、内板)、ダクト、ガソリンタンク、シャーシー、壁材、自動車用排ガス部品、家電部材、防音壁支柱、ガードレール、標識柱、照明柱などの道路設置用、腐食環境の厳しい場所における鉄筋コンクリートにて、溶融亜鉛めっき鉄筋として使うケース、ブラケットや、電力鉄塔などの架線金物、ボルト・ナットなどのファスニング用途の部品、納屋や温室などの構造材の一部、農業施設の外装の一部などがあります。
強度についての規定や、耐腐食性を決定付けるメッキの厚さ、板厚の寸法公差などが規定されていることから、扱いやすい規格材のひとつでもあります。
「JIS G 3302 溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯」に規定のある材料記号
溶融亜鉛メッキ鋼板の記号 | 板厚、表示厚さ | 原板(元になる鋼板) |
---|---|---|
SGHC | 1.6mm以上6.0mm以下 | 熱延鋼板(熱間圧延) |
SGH340 | ||
SGH400 | ||
SGH440 | ||
SGH490 | ||
SGH540 | ||
SGCC | 0.25mm以上3.2mm以下 | 冷延鋼板(冷間圧延) |
SGCH | 0.11mm以上1.0mm以下 | |
SGCD1 | 0.40mm以上2.3mm以下 | |
SGCD2 | ||
SGCD3 | 0.60mm以上2.3mm以下 | |
SGCD4 | ||
SGC340 | 0.25mm以上3.2mm以下 | |
SGC400 | ||
SGC440 | ||
SGC490 | ||
SGC570 | 0.25mm以上2.0mm以下 |
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