硬度9Hはどれくらいの硬さのコーティングか

2019年9月2日更新 2024年8月10日最終更新 Written by 金属加工事業部

硬度9Hというのは、鉛筆をつかって塗料や塗膜、コーティングの強さを見るための指標のひとつで、具体的には9Hの鉛筆でこすっても表面に傷がつかない、塗料をつけた膜やコーティングに傷がつかないという意味の硬さです。この指標は、スマホの保護ガラスでよく知られるようになったものです。

この試験方法で示す硬度としては、9Hが最上位で最も強いということになりますが、10H、11H、12H、13Hといった表記を使うメーカーもあります。これらはJIS規格にはないもので、考え方としては10H、11H等の鉛筆を使って同じようにこすってみて傷がつかないかを見ています。海外の鉛筆では日本の上限9Hを超えるものもあるため、こうした表記をつけていますが、規格にあるものではありません。13Hの鉛筆でこすっても傷がつかなかったので、13Hという表記を使っているものと思われます。

9Hは塗料や塗膜、コーティングの密着や傷のつきにくさをみるための指標

注意が必要なのは、この9Hといった表記があっても鉛筆の芯自体の硬さというのは、JIS規格においても科学的には規定されていませんので、9Hの鉛筆の芯の硬さとこの9Hの表示がなされているコーティングの硬さは同じではないという点です。

この硬度の測定方法は、具体的には下図のような装置を使って行います。鉛筆を固定した小さな押し車のようなものを試験対象となる塗膜がついた上を走らせ、傷跡ができなかったもっとも硬い鉛筆の硬度を「鉛筆硬度」と呼んで、以下の鉛筆の種類によって硬さを順位付けしているものです。全部で17ランクあることになります。

鉛筆硬度の計測方法

ものの硬さを見る指標というよりは、コーティングや塗装をしたときに、それらに傷がつかないかどうかという指標であり、膜の強さを見るための指標です。なんらかの引っ掻き動作で傷がつかないかどうか、を調べるときに引っ掻いてきた相手の硬さによって、どこまで耐えられるかということがわかります。

鉛筆硬度の種類、曲げ強さの一覧
硬度記号 曲げ強さ(MPa) 硬度
9H  90以上 規定なし
8H  90以上
7H  90以上
6H 80以上
5H 80以上
4H  70以上
3H  70以上
2H  70以上
H  70以上
F  60以上
HB  60以上
B  45以上
2B  35以上
3B  35以上
4B  30以上
5B  25以上
6B  20以上

なお、鉛筆の芯として、曲げ強さは規定されていますが、硬度については規定されていません。したがってこの指標というのはあくまで、この鉛筆を使って膜に傷がつくかどうか、という意味での硬さを示しています。

スマホのガラスコーティングの9Hとは

スマホケースの硬さ(バンパー型や手帳型)、スマホコーティング、スマホフィルム、ガラスのコーティング指標として、この鉛筆硬度が製品に表記されていることがありますが、そもそも保護対象となるガラスと比べて硬さの面ではどうなのか、という点が気になるかと思います。

上述したとおり、9Hはコーティング剤や塗料の硬さをみるための指標であるため、たとえばポリカーボネートや他のガラス系の保護フィルムなどの硬さを示す指標としてはいささか場違いなものといえます。

スマホ用のガラスとしてシェアの高いコーニング社のゴリラガラスを例に見た場合、9Hの鉛筆でこすったところで傷はつきません。

9Hをビッカース硬度の換算してみる

硬さを見る指標がいくつかあり、これらが同列の基準に換算するのが難しいため、便宜的にビッカース硬度に換算してみます。

スマホのガラスや各種ガラス、代表的金属と9Hの硬度比較
硬度比較対象 ビッカース硬度(HV)※近似値・換算値含む
9H 160前後〜400前後(モース硬度4〜5相当)
ゴリラガラス 622から701
板ガラス(通常のガラス) 548(モース硬度で5.5〜6.5相当)
化学強化ガラス 570前後
サファイアガラス 2300
石英ガラス 1103
マルテンサイト系ステンレス 615
合金工具鋼 512
炭素鋼 201から269
      

物質としての「硬さ」で見た場合、ガラス自体が非常に硬いもので、一般的な金属を上回る硬さです。炭素鋼というのは一般的な鋼となります。

ものの硬さを計測する方法はいくつかあり、それにしたがって硬さをみるための指標もいくつかあります。代表的なものは、ビッカース硬さ(単位:HV)、ロックウェル硬さ(単位:HRC)、ブリネル硬さ(単位:HB)等がありますが、これらの硬度の計測手法というのは、ダイヤモンドや超硬などの圧子をある力で押し込んだとき、どの程度物質が凹むかという考えをベースにした押し込み方式の硬さ計測です。鉛筆で引っかいたら傷がつくか、という計測とは単純比較が難しい理由です。

ガラスの硬さを見る指標としては、ビッカース硬さ等が使われますが、そのコーティングになると鉛筆硬度が使われるというわけです。

では、スマホを保護するためのケースやシート類、コーティング類は意味がないかといえば、製品によっては傷や破損防止につながります。

硬い物質というものは、例外なく「割れる」性質を持っています。硬ければ硬いほど、割れるまでにいたる条件は変わりますが、割れたり、欠けたりすることに変わりはありません。ねばりがあるといわれる金属材料でもあっても、焼き入れによって硬さをどんどんあげていくことができますが、硬さをあげるにつれて、衝撃などの力が加わった際に割れる・折れるリスクもあがっていきます。

ガラスは切り欠けや衝撃に弱い

十分に強化されていないガラスを使用しているスマホの場合、ポケットに鍵等と一緒に入れて強くこすれたり、衝撃を受けると小さな切り欠け状の傷ができる可能性があります。iphoneが開発された初期のころ、これを回避するために今のスマホ用のガラスが開発されたというような経緯もありますので、強化ガラスを使用している場合はあまり心配がないですが、非常に強い力でこすれた場合と、落とした際、割れるリスクがあります。

こうした衝撃に対してはガラスはもともと弱い性質があり、スマホの場合、角から落ちるなどした場合、特に瞬間的に衝撃が強くなり、一気に画面に亀裂が入ってしまうことがあります。こうした場合に、角を保護するバンパー型や手帳型のスマホケースにおさめたものだと衝撃が幾分吸収され、破損のリスクが下がります。

ガラス面から落下して、尖った地面などに落ちたような場合は、ガラス表面にポリカーボネートやガラス等がはってあると、まずはそれらが衝撃を受けて壊れることで本体を守ってくれることがあります。つまり、本体のかわりに衝撃を受けて破損してくれる、ということになります。

したがって、スマホケースやフィルムに代表されるアクセサリーというのは、衝撃を吸収するという点に力点を置く、かわりに衝撃を受けることで本体を守るという視点で選ぶべきということになります。衝撃の吸収にはやわらかいものもあれば、かわりに破損することで本体の破損を防いでくれるものもあります。どの部分を保護したいか、という点を見極めたうえで製品を選びたいところです。

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