金型の寿命と耐用年数
金型の寿命と耐用年数の問題は、製造業にとって原価やコストに直結する問題だけに種々の要因が関与していますが、年数にしろ、ショット数にしろ、なるべく長く持たせるための様々な技術的改良・工夫が積み重ねられてきています。
金型の耐用年数といった場合、主として帳簿上の減価償却を計算するために使われる用語であるため、ここでは寿命を金型が技術的に使用不能になる状態と定義し、耐用年数は税務上、いったい何年の間、取得価額を少しずつ経費として計上していくことができるかを示す指標として扱います。「耐用年数」というくらいなので、金型がどれくらい持つものと想定されているのかという意味と混同しやすいので、ここで明確にしておきます。
- 金型の寿命と耐用年数|目次
金型の耐用年数は2種類
金型の種類 | 耐用年数 |
---|---|
プレスその他の金属加工用金型、合成樹脂、ゴ ム・ガラス成型用金型、鋳造用型 | 2年 |
上記以外の金型 | 3年 |
工業製品で用途の多い金型のほとんどは2年償却が原則となる耐用年数2年です。
この場合は、計算方法によりますが、2年間かけて取得した金額を経費に計上できるので、一気に赤字になったり、といったことを減らせます。一方で利益が多く出た取得初年度に節税のため多めに計上したいということもできます。中古で取得したものについては、定率法を利用すると1年で償却可能になる場合があります。
自転車が2年、リヤカーが4年、小型車(総排気量0.66リットル以下)が4年、小型車ではなく貨物や報道通信用以外のもので運送やレンタカー、自動車教習所用のものではない車であれば6年での減価償却となる点を踏まえると、金型の耐用年数が2年か3年というのは少し違和感があるかもしれません。
繰り返しになりますがこの耐用年数は「耐えられる」年数ではなく、何年で減価償却できるようになっているかという意味です。
なお、この耐用年数2年というのは、例えば金型費をどのようにコストに入れていくかという点ともリンクしていることがあります。例えば、金型費用が500万円とした場合、これを24か月で按分してコストに入れる場合、24か月の見込み受注数(生産数)が24万個(月に1万個)とした場合、型費としては500万÷24万個で製品1個あたり20.83円となります。もっとも型費を一括で請求・支払いするというケースもありますので、その場合はこうした按分は無関係となります。
金型の寿命の定義
これはなかなか難しい問題で、一般にはその金型で生産している製品の寸法が当初の通り出なくなった状態ですが、製造上、その金型を使うとバリなどの不具合が出て型としての性能を発揮できない状態になっていることを金型寿命がきたと表現される場合もあります。
いずれにせよ共通しているのは、当初の設計通りの金型性能が出せない状態になっている、ということになります。金型は図面で指定された「寸法」通りに物品を生産するためのものですので、この寸法が出せないと目的を果たせなくなります。ただし、この寸法は図面でも公差が指定されている通り、どの程度の範囲におさまっていればよしとするのかによっても寿命が変わってきます。
例えば、極端な例ですが、±0.001mmの範囲まで制御してほしいというものであれば、金型の精度も高精度のものが要求されますが、金型を使っていくうちにわずかに摩耗し、この範囲に寸法がおさまらなくなった場合、金型の寿命となってしまいます。精度がゆるければ、それだけ寿命は長くなると試算できます。
金型は使っている際にメンテナンスが必要となりますが、これにも程度があります。洗浄や清掃だけですむものから、一定の使用期間やショット数を打った後は、表面処理(コーティング)をしなおす必要があるもの等、型の種類に応じていくつかのメンテが必要となります。こうした使用上のメンテが必要になるタイミングは寿命とは言わず、あくまで金型の修理や修正、改造、更新などが必要になっている状態が「寿命」となります。
金型の更新といえば、新たに同じ金型を製作することですが、金型の修理や修正、改造は程度によりその内容にはかなり幅があります。少し手を加えるだけの型から、下手をすると一から製作したほうが早いのではないかと言えるほどの修理を施す場合もあります。
金型の寿命を左右するパラメータ
内容 | 影響 |
---|---|
ショット数 | ショット数が多ければそれだけ摩耗し寿命が減ります |
金型の種類 | どのような方式で材料を送り込んでプレスするかという点も、金型の持ちに影響します。より過酷な摩擦がかかる構造のものは寿命が短くなりがちです。 |
金型の材質 | 耐摩耗性や硬度に優れた素材ほど寿命が延びます |
金型で生産している製品の材質 | 金型の摩耗は、材質の硬さだけで決まるわけではなく種々の要因があります。鋳造型であれば流し込む金属の融点が高ければそれだけ痛みも早くなります。プラスチックでもガラス繊維などの強化素材が使われている場合は、寿命が短くなります |
生産時に使用する薬品、製品に使われる薬品類、加工時の雰囲気 | 金型が特定の薬品やガスの雰囲気下で使われることで摩耗がはやまることがあります |
金型のコーティング、表面処理 | 離型性をよくする目的で使われるだけでなく、表面硬度を上げ耐摩耗性を高める目的でも使われます |
寸法精度 | より精度の高いものほど寿命は短くなりがちです。ずれてもよい寸法の許容度が少ないため |
具体的に実務の世界で耳にする金型の寿命ですが、それこそ実態は使用環境・状況により千差万別といったところです。
よく聞くというレベルの話では、アルミダイキャスト用の金型の場合は10万ショットで寿命をむかえることになっていますが、実際にはこれ以上打てる場合もあれば、これよりも早く寿命がきてしまうこともあります。
亜鉛ダイキャストならば50万ショット〜とされますが、これは溶解温度がアルミほど高くないため、寿命が長くなると想定されています。
一方でプラスチックの射出成型用の金型なら精度にあわせて3万ショット〜30万ショットが寿命とされます。先の述べた通り、FRPのような強化プラスチックにはガラス繊維などの強化素材が入っているため、金型の摩耗がはやく寿命は短くなります。
バリが出て修正に苦労するが40年間使っているという型もあります。だれてしまっていて、当初の設計通りではなくなっていますが、このように実務上使えている場合は金型の寿命がきていないという言い方もできます。
以上よりこういう金型の種類だから寿命は何年である、という言い方が難しいことがお分かりいただけたかと思います。長年金型の設計に携わっている方でも、明言が難しい内容となります。
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