展伸材と鋳造材の違い

2021年9月12日更新

金属材料における展伸材と鋳造材の違いについて見ていきます。アルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム・銅合金などでよく使われる表現ですが、他の金属でも使います。両者はそれぞれの用途にあわせて最適になるよう成分規格や形状に違いがあります。なお、アルミ合金の展伸材は英語ではwrought aluminum alloy、鋳造材はaluminum casting alloyとも呼ばれます。

展伸材と鋳造材とは

展伸材の意味

展伸材(読み方:てんしんざい)とは、金属材料を圧延したり鍛造したりして加工した材料です。形状は、板、条、棒、線、管、形材などで入手可能です。材料としてユーザーへ納品できる形態になるまでには組織や成分は均一であることが求められ、展伸材の製造時には圧力をかけて延ばす、引っ張る、叩く、丸める、引き抜く、押し出すといった方法で形を作っていきます。展伸材は、その後、使用者側で切断や切削、研削、研磨、プレス、絞りなどの機械的な加工を施されて実際の製品になっていきます。

鋳造材の意味

一方、鋳造材(読み方:ちゅうぞうざい)は鋳物材(いものざい)ともいいますが、熱をかけて溶かし、溶湯とよばれる液状になった金属を金型に入れて冷やし固めていくことを前提にした材料です。つまり溶かして使うことを想定された材料です。アルミ合金や亜鉛合金では鋳造材の種類がさらに分かれ、高速での鋳造技術であるダイカストに適したグレードの材料規格も存在します。鋳物を選択されるシーンを想像するとイメージがつきやすいのですが、鋳造を使う場合というのは複雑な形状のものが多かったり、鋳造した後は製品表面の加工を行わず型から取り出した鋳肌のまま製品になるというものが多いです。したがってこうした加工に適した材料のスペックが求められます。

何が違うか

用途が違う

上述した通り、展伸材は切断・切削・研削といった加工で使う材料であり、鋳造材は溶解して鋳物製造用に使う材料という違いがあります。もっとも、鋳造材を板状や棒状などに加工して展伸材のように使うこともできます。ただしこうした材料はいったん鋳造で鋳塊と呼ばれる金属の塊をつくってそこから削り出していくのですが、鋳物の中には鋳巣とも呼ばれる空洞ができますので、展伸材とは根本的に違うものと理解して使う必要があります。

出発材料が違う

展伸材も鋳造材も実際の使用者のもとへ届く形状・規格になる前の材料があります。出発材料、元材ともいわれますが、展伸材はスラブやビレットのうちシンプルな形状のものを圧延したり鍛造することで形を作っていきます。この元材は均一な成分になるよう半連続鋳造と呼ばれる製法で作られます。スラブは圧延用の鋳塊で、ビレットは押出用の鋳塊となり、どちらも展伸材に加工されるため成分調整されています。スラブとビレットのことをインゴットと呼ぶこともあります。

一方、鋳造品はインゴットあるいは地金と呼ばれる塊を溶かして作っていきますので、例えばアルミの鋳造材のもとになっている地金は新塊の場合、諸外国から100%輸入しています。このインゴット=地金をそのまま溶かして鋳造製品を作ることもあれば、用途にあわせてまた別の鋳塊に加工することもあります。二次地金、再生地金と呼ばれるものは日本国内での生産のほうが輸入よりも多く、スクラップやリサイクル原料から作っているインゴットです。

アルミの場合、インゴット=地金には普通純度地金、高純度地金、合金地金の区別があり、1つの重量は20キロになるように作られています。

鋳造材の形状のバリエーションはインゴットがほとんどですが、試験片用として鋳塊から削り出して板状や棒状などにしたものや、粉末などもありますが、鋳物はすべて溶解炉で溶かして液状にしてから形を整えるので、溶解炉に入れやすく扱いやすい形状であれば寸法精度などは要求されません。JIS規格でも成分の定めがあり、品質が均一であることや、表面が汚れていないこと、異物が入っていないことは条件となりますが、形状については規定がありません。

鋳造品はそもそも鋳造加工を行っているメーカーが納入先との間で図面を取り交わし、その図面形状にあわせて自在に形を作ることができます。鋳造材つまり地金自体を購入するというメーカーは、自ら鋳造することができるメーカーということになります。

成分が違う

展伸材と鋳造材はまず成分規格が違います。ざっと見るとあまり大差ないように見え、実際大きな違いはないのですが、鋳造に使う材料は、材料と溶かしてから型に流しいれて凝固されるという工程があり、このときに溶解、鋳造、凝固といった工程に悪影響を及ぼす可能性のある成分が邪魔になりますので、極力除去されています。例えばスズが入っていると、融点が低いため割れの問題が出ることがあります。また逆に鋳造性を上げるためのSiのような元素も存在します。

リサイクルで展伸材と鋳造材を混ぜて双方を溶かして鋳物にしてしまうということもありますが、これをやるには成分管理についての技術・ノウハウが必要です。

形状が違う

鋳造材には決まった形が規定されていませんが、鋳造メーカーが買うときは、インゴットや粉の形になっており、ほとんどはインゴットになっています。溶解炉にはリサイクル材料を投入することもありますので、その場合は削りくずやリサイクル用として回収されたままのアルミの場合もあります。

ただし、出発材料の部分でも述べた通り、いったんインゴットを溶かして別の鋳塊をつくり、それを削り出して板や棒などの展伸材によくある形状に加工したものもあります。これらは鋳物ではあるため、中に巣がある可能性もあり、展伸材と同じように使うことは難しいですが、試験用やトライ用として使われることがあります。

展伸材には板、条、棒、線、管、形材といった形状が規格化されており、成分のほか、寸法や機械的強度の定めがあるものもあります。

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