パーカー処理と黒染めの違い

2022年4月24日更新

パーカー処理も黒染めも錆びやすい鉄鋼材を腐食から守る防錆対策のための表面処理方法のひとつで、パーカー処理はリン酸塩皮膜を表面に形成し、黒染めは四酸化三鉄(黒錆)の皮膜を表面につくるという違いがあります。化成処理という点ではこの2つの技法は同じ分類ですが、仕上がりや膜の性能にはかなり違いがあるため、目的に応じて選択する必要があります。

パーカー処理と黒染めの違い|目次
  1. パーカー処理の特徴
  2. 黒染めの特徴

パーカー処理の特徴

パーカー処理はリン酸亜鉛皮膜処理とも言われます。実務上は他にもさまざまな呼び名があり、単にパーカーと呼ばれたり、パーカーライジング、リン酸マンガン被膜、リン酸カルシウム被膜、リューブライト(リン酸マンガン被膜のこと)、パルボンドと呼称されることもあります。使用するリン酸塩処理液の違いにより、形成される膜の材質、性質や厚みが異なります。耐摩耗性の付与にはリン酸マンガン被膜がよく使われます。

寸法変化少なく均一な膜

この処理で作られる膜は、厚さ約1μ〜約15μと1ミリにも満たない灰色のものですが(薄膜の世界では厚めの分類です)、膜厚はメッキ並みでも塗膜処理とは異なり化成皮膜ですので、対象の金属から膜だけが剥がれる心配がありません。

化成皮膜は化学反応により対象のワークの表面に膜を生成する技術であるため、複雑で入り組んだ形状でも、膜の厚さや重量を均一に保ちやすいというメリットがあります。これは寸法や重量に図面で公差が設けてある工業の分野では大きな強みのある技術です。厚みにバラつきがあれば、寸法の制御が困難になりますし、重量の下限と上限も制御が難しくなり、図面規格にあわせるなら加工費も上昇してコストアップに直結してしまいます。

リン酸塩皮膜処理では、処理液に浸漬した時に鉄の表面が溶解し、鉄のまわりの溶液のpHが上昇することで、溶液中の金属イオンが不溶性の塩となって析出することで鉄を被覆していくという技術です。つまり鉄の表面を少し溶かして漬けている液成分と反応させて表面に新しい膜を作ってしまうという技術です。

処理温度も通常は100℃を超えないため、処理を行う金属に熱による物理的な変化を与えません。膜が一定の厚さで均一につく上に寸法変化が少ないので、図面寸法通りに仕上げやすいという利点もあります。

防錆だけでなく耐摩耗と密着性を付与

耐摩耗性が要求されるピストンやカムシャフト等の摺動部品とも相性のよい表面処理加工です。パーカー処理は耐摩耗性アップの性能を付与しますが、対象品の表面にある凹凸も化成処理によってある程度ならすことができます。手触りは少しざらついた感触になるので光沢を出す用途には向かず、むしろ艶消しの効果があります。

表面の化学反応によるため、もともと表面の凹凸が大きい鋳物にも使用可能です。

鉄鋼製品の表面の防錆対策だけでなく、塗装をする前の下地処理としても使われます。リン酸塩被膜が金属表面にあると微細な結晶が金属表面に作られ、塗料との密着力を上げる効果を発揮するためです。強力な密着力と耐食性能を付与する為、自動車業界や自動車部品業界でも定評のある技術となっており、鉄鋼材料を使う必要がある様々な部位や部品に使われています。

浸漬法とスプレー法の2つの技法

パーカー処理を行う技法は大きく2つあり、一つは浸漬法というもので、いわゆる表面処理を行う対象物品を丸ごと溶液の入った槽に「どぼん」と「どぶ漬け」してしまう方法です。

もう一つはスプレー法と呼ばれるもので、液槽にまるごと対象品を漬けてしまうのではなく、スプレーで塗布するというものです。

どちらも表面調整や化成処理を行う際にどぶ漬けにするかスプレーにするかという違いのほかは工程に大きな差はなく以下の順で進んでいきます。

  • 湯洗
  • 脱脂
  • 水洗
  • 表面調整・下地調整 (行わない場合もある)
  • 化成処理
  • 水洗
  • 湯洗
  • 乾燥

黒染めの特徴

一方、黒染め処理といわれる化成処理は、薬品を使って黒錆(四酸化三鉄)を作り出す方法で、アルカリ性となる高濃度の苛性ソーダの液中(ガンブルーとも言われます)に酸化剤を混ぜ、140℃以上の高温に加熱し、鉄の表面を酸化させて四酸化三鉄(Fe3O4)を作り出す技術です。

デザイン性を重視した黒光り加工

四酸化三鉄はマグネタイトとも言われます。黒錆を強制的に作り出すという技術ですが、膜厚は1から3ミクロン程度とされ、緻密でしっかりとした膜厚を確保しづらいという課題はあるものの、コストが安いことと、見た目がよいため、着色目的で実施されることが多い技術です。

防錆効果はそこまで高くありませんが、こちらもメッキと違って剥がれる心配がありません。美しい黒い光沢が出せるということが最大の特徴とも言えます。

防錆対策を狙っての表面処理であれば、黒染めのみというのはかなり危険で、鉄表面を完全にカバーする皮膜が形成されていないことも多々あります。膜もパーカー処理の結晶性の膜ではなく、非結晶性の膜であるため、水がかかると四酸化三鉄の膜のわずかな目に見えない隙間から腐食や錆につながることがあります。

したがって、下地に黒染めを行った後にクロメート処理を行ったり、パーカー処理との併用を行うといった使い方がなされることもあります。

塗膜ではない為、剥がれる心配がない点とこの処理によって対象品の寸法の影響がほとんどなく、安定した着色ができるという点から重宝される表面処理技術ではあります。

なお、厚い層上の黒錆をスケール状で形成している鉄鋼材料ほどには防錆効果が発揮できませんので、錆や腐食から鉄を守るという意図がある場合は、他の防錆対策や表面処理との併用が原則となります。

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