船での抜港(ばっこう)の意味と理由

2020年10月11日更新

ばっこう、ばっこー(抜港)とは、船が入港を予定していた港を飛ばしてしまうこと、文字通り、寄港先を抜くことを意味しています。英語ではomitやskipと表現されます。

「The vessel omits CNSHA」とある場合は、この船は中国の上海港を抜港します、ということです。omits〜で表記のある港が抜港されることを意味します。

経由港も含めて英語で表記される場合は、以下のように日付と並べて書くだけでもわかりやすいかもしれません。もともとは上海港に10月12日に入港し、次の香港は10月16日によることになっていたものが、上海を抜港して香港へも2日遅延するという意味です。

Original:
SHANGHAI(10/12) HONGKONG(10/16)CATLAI(10/19) DANANG(10/22)

Revised:
SHANGHAI(OMIT) HONGKONG(10/18)CATLAI(10/21) DANANG(10/23)

なぜ抜港が起きるのか、どんなリスクがあるのかも含めて以下に述べていきます。

船便は各駅停車、多数の港を経由する

貨物を船便で輸送する場合、二つの港の間だけを行き来するという便や航路は稀なほうで、基本的にはかなりたくさんの港を順番に寄っていくことになります。それぞれの港で、顧客から依頼を受けた貨物をコンテナ単位で積み込んだり、積み下ろしたりして、航路を往復しているというパターンになります。例えば、インドのチェンナイから横浜まで荷物を運ぶとしたら、チェンナイを出てからまずシンガポールやポートケランに出るまでに何か所か港に寄り、シンガポールから横浜につくまでにも多数の港に寄りながら船は航行しています。

同一船会社で同一航路の船便のスケジュールはおおむね毎週1便というケースが多いですが、複数の船を使って決められたルートを行ったり来たりしているので非常に長い区間の海上輸送でもこうしたことが可能になります。航路が長くなれば、途中の経由港やハブ港などで、船を乗り換える、貨物を別の船に積み換えるということもあります。

抜港する理由

なぜ抜港するのかといえば、基本的には輸送スケジュールが遅延したから計画を挽回する、というのが最も大きな理由です。例えば、出発から終着の港まで、10の港を寄るルートをとっている航路だった場合、途中の寄港でバース混み等の混雑で入港が遅れてしまって予定通り船が入らず連動して出港も遅れたとします。途中で遅れを挽回できればいいですが、船の速度は決まっており、挽回できる時間や日数には限度があります。こうなると、10の港を寄る予定を、例えば途中1つの港を寄らずに飛ばせば、輸送日数を短縮できます。

遅延の理由は台風やハリケーンといった悪天候に起因するものが多いですが、地震、津波などのほか、火災や港での事故(貨物の積み下ろしの際)、単に港が混雑している、同一航路やその航路に影響を及ぼす他の船が遅延してるため、玉突きで遅延してしまう等様々な理由があります。

また、船自体が遅延せずとも出港前にもコンテナが不足している、船便のスペースがブッキングできない、といったトラブルが発生することも珍しくありません。

抜港だけではない注意すべき輸送リードタイムの変更

抜港を恐れるのは、そこで貨物を積んだりおろしたりする予定がある場合ですが、普通に寄港する港を使っている場合は、抜港によってスケジュールが短縮されるので遅延が縮まってかえって好都合というケースがある一方、注意すべきこともあります。

寄港順の変更

抜港を決めるのは、輸送スケジュールが大幅に遅延しているというような場合や気象条件等でそもそもその港に寄港することが難しいような場合です。こうした事態に遭遇すると、抜港と連動、あるいはそれとは別に寄る港の順番を近海エリアを中心に変えてしまうことがあります。

船便の場合、遅延が起きるリスクもあることから荷主の多くは余裕をもって輸送日数を見ていますが、想定外の遅延が発生することは珍しくありません。遅延が重なっていると、生産スケジュールに間に合わない、あるいは顧客と約束した納期に間に合わないといった事態になりかねません。

そうなると船便を今か今かと待ちわびている状況で、寄港順が変えられたことにより、入港が2日遅れ、結果として貨物到着が3日、4日遅れたというようなこともあります。

本来寄らない予定の港によることで航路が変わる

抜港されると、その港で積み込んだり、積み下ろす予定だった貨物はそのまま船で次の港まで行ってしまいます。そうなると、例えば顧客から荷物を預かる予定だった港には、別の船を立ち寄らせる必要があります。

こうした場合、類似の航路を使っていて遅延の程度が比較的ましな船に白羽の矢が立つことが多いですが、この本来寄る予定のなかった港に代打で立ち寄ると、その船も遅延してしまいます。これが抜港した船だけが影響するわけではない船便のリスクの一つです。

自分たちが頼んでいた船便はまったく遅延もしていなかったのに、途中で予定していない港に寄ってしまったがために遅延した、となった場合でも船会社に遅延責任云々は通常問えません。貿易の海上輸送においては遅延を常に念頭に置いておく必要がありますが、それはこうしたことにも起因します。

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