自動車分野もCBAMの対象製品となるか|対象品目のCNコード(HSコード)一覧
CBAMとは「Carbon Border Adjustment Mechanism」の略称で、日本語では「炭素国境調整措置」と訳されています。EU域内の企業がEU域外から製品やエネルギーを輸入するときに、その輸入物の生産過程で排出された温室効果ガス(GHG、Greenhouse Gasの略)に応じた炭素価格の支払いを義務付けるというEU固有の新しい政策です。鉄鋼製品やネジ、ボルト、ナットといったファスニング部品も対象製品に含まれるため、自動車業界や自動車部品、機械、輸送機器全般など関連する企業の裾野が広い分野で俄かに対応が必要となっている制度です。現時点では6分野の製品・エネルギーのみですが、今後適用対象が増える可能性があります。
日本企業にも影響があるのか
日本では特に影響があるのはEU域内に海外子会社や生産拠点を持っている企業で、現地で調達できない対象製品を日本から送っている場合です。原価が単純にアップすることになります。またEU域内の会社はEUの輸入者からは体化排出量に関する情報提供を求められるため、そのデータのモニタリングや記録システム、計算や運用に関する事務に負担が強いられることになります。
これだけ聞くとEU外で作られたものを輸入する際には新たに炭素価格を上乗せして、EU域内で生産したものには炭素価格の上乗せがないのかと思われるかもしれませんが、EU内の企業はすでにEU-ETS(炭素価格)は負担済みであるため、要は輸入品との間でその炭素価格に差がある場合、輸入者に費用を負担させて価格差を是正させるというのがこの政策の意図です。
具体的には、輸入する物品が温室効果ガスを多量に出しておりEU域外でも炭素価格を負担していない場合、EUの輸入者はCBAM証書を購入して、差額を埋める必要があります。つまり温室効果ガスを多量に出すものをEUの外から輸入してコストダウンの抜け道にするというようなことはできない、ということです。
開発途上国を中心に、炭素価格の負担をEU域外に強いるということで批判も出ており、短期的にはEU内の事業者にとってもダメージがあるとの主張も出ています。
価格上昇については、温室効果ガスをより少なくする製法にて生産されたものについてはコストアップ抑制ができる、という仕組みです。待ったなしの温暖化対策を経済的にもつなげてしまう政策です。
対象となる製品は大きく6分野
EU企業が輸入するときにはHSコードの代わりにCNコードを使用しますが、基本的にはこのCNコードによってCBAMの対象品が特定されます。
現時点では以下の6分野が対象となります。
- セメント
- 電力
- 肥料
- 水素
- 鉄鋼
- アルミニウム
公開されている対象製品のCNコードは下表のとおりです。
セメント
- 2507 00 80: その他のカオリン粘土
- 2523 10 00: セメントクリンカー
- 2523 21 00: 白色ポルトランドセメント
- 2523 29 00: その他のポルトランドセメント
- 2523 30 00: 粘土セメント
- 2523 90 00: その他の水硬性セメント
電力
- 2716 00 00: 電気
鉄鋼
- 72: 鉄鋼(一部除外品目あり)
- 7310: タンク、樽、ドラム缶、缶、ケース(容量300リットル以下)
- 7311 00: 圧縮ガスまたは液化ガス用のコンテナ
- 7318: ネジ、ボルト、ナット、枕木ネジ、ねじ付きフック、リベット、割りピン、ワッシャー
- 7326: その他の鉄鋼品
CNコードが上記のコードよりも多くの数字で構成されている場合でも、上4桁となる項(heading)が一致すれば、その製品はCBAMの対象となります。
アルミニウム、肥料、水素も対象製品ですが、具体的なCNコードは現時点では明らかになっていません
注意すべき点として、同じCNコードでも「製品」と「生産」で範囲が異なる場合があります。例えば、鉄鋼の場合、CNコード72類が幅広く指定されており、その生産全体が無償割当削減の対象となりますが、CBAMの対象となるのは「製品としての鉄鋼」のみです。
また適用除外についても定められており、150ユーロ以下の輸入品には適用されません。
他、以下のEU-ETSに完全にリンクした制度を持つ国からEUに輸入するものについてもCBAM適用除外されます。
- ノルウェー
- アイスランド
- リヒテンシュタイン
- スイス
この制度が適用される時期
2023年10月1日から2025年12月31日までが移行期間と定められており、この期間中のEU域内の企業がEU域外から対象製品の輸入をしている場合、炭素排出量等の情報を四半期ごとに報告する義務があります。2025年からやり取りが活発化することになります。
2026年1月1日から本格適用されます。CBAMの適用は通関日を基準としています。2026年1月1日に輸入通関されたものからCBAM証書購入の対象となります。
- 輸入に先立ち、輸入者は「認可CBAM申告者」としての認定を受ける必要があります。
- 輸入品の炭素排出量に応じて炭素証書(CBAM証書)の購入が義務付けられます。
- 各暦年の翌年5月31日までに前年分のCBAM証書を納付する必要があります。例えば2026年分は2027年5月31日までが納付期限となります。
- また各四半期末までに、その年の輸入品の排出総量の80%以上に相当するCBAM証書をCBAM登録簿の口座に準備する必要があります。
EU域外の企業へ求められるデータ提供
EU内の企業以外でこの制度を直接的に調べたり、見聞きするパターンとしては、欧州にグループ会社があってそこからの要請でデータ収集を始めているという場合、取引先がEU圏内でそこからの情報提供要請があった、という場合が多いかと思います。
このサイトで取り扱いの多い工業製品の場合、機械や自動車分野等では鉄鋼やアルミ製品がダイレクトに影響します。
CBAMでの情報収集・提出が求められる情報は以下となります。
- 製品の体化排出量データ
- 直接排出量:対象製品の生産過程から直接生じる排出量
- 間接排出量:生産過程で消費される電力の発電時に排出される量
- 輸入製品の詳細情報
- 製品の種類とCNコード(HSコード)
- 輸入量
- 生産者情報
- 製造施設の詳細
- 生産国
- 排出量算定方法に関する情報
- 原産国で支払われた炭素価格に関する情報
- 検証報告書
- 認定検証者による対象製品の排出量の検証結果
これらの情報は、EU域内の輸入事業者がCBAM申告書を作成し、CBAM登録簿に提出するために必要となりますが、内容からEU域外の企業つまり輸入元から情報提供を受けないと記載できない内容が含まれています。
日本の生産者は、EUの輸入者からの要請に応じて、欧州委員会が公表しているExcel表によりこれらのデータを提供する必要があります。
スポンサーリンク