貿易での輸送中の打痕や傷を防ぐには

2025年1月3日更新

貿易において輸送中の製品に打痕(ダコン)や傷がつくのは輸送品質の問題で、クレームにつながることが多い問題のひとつです。物流における打痕(ダコン)というのは、その部位により硬いものが強く当たることでできる凹み傷のことで、傷は表面を擦った際に発生する線キズのことです。打痕は凹み傷ではありますが、キズ周辺は盛り上がってしまいますので高精度が求められる面に発生してしまうとそもそも品質が保てなくなります。

打痕や傷はなぜ起きる?

どちらも原因は製品同士あるいは硬いものへの「接触」です。接触の要因としては主に以下があります。1箱に複数の製品が入っている場合、箱がフォークリフトの衝突等で貫通していない限り、基本的には製品同士の接触で発生します。

ラフハンドリング

 

荷物を乱暴に取り扱われることです。リフトの衝突や落下も含みます。常習的にラフハンドリングをしているグラハン会社の場合、フォーワーダを通じてクレームを入れることもできますが、空港や政府と密接な関係のある業者がグラハンを担当していることもあり、あまり期待はできません。ある程度のラフハンドリングでも耐えうる梱包を考えるほうが生産的です。時期的なものも影響し、長期の休み明け、例えば中国の春節やインドネシアのラマダン・レバラン、ヨーロッパのクリスマス等は貨物の混在状況から発生しやすくなることがあります。

輸送中の振動、揺れ

ラフハンドリングせずとも発生する振動です。海上輸送・航空輸送・鉄道輸送・トラック輸送いずれについても固有に振動が継続的に発生します。通常の揺れで発生してしまう場合は、梱包自体が不適か、そもそも輸送の耐えうる製品ではない可能性もあります。

 

不適切な荷材選択とパッキング

製品を入れる箱やその中の緩衝材の選択、梱包の設定・方法に問題がある場合におきます。国内輸送では問題がなくとも、海外輸送では打痕や傷ができてしまうということはよくあります。海上輸送の揺れは想像以上のものです。コンテナを固縛していても、箱内で製品が大きく動いてしまうこともあります。

積み付けや積載、コンテナ内の固縛不良(ラッシング、ショアリングの不良)

パレタイズの方法やパレットの固縛に不良があるとコンテナ内で大きく揺れて打痕や傷が発生します。これは個箱単位の梱包がしっかりしていても、パレット自体がコンテナ内で転送や衝突してしまうと発生する可能性があります。

軽減や回避の対策

対策としては大きく以下の方向性があります。

荷材・梱包方法の改善

まず打痕や傷が何によって引き起こされているのか推定する必要があります。その多くは製品同士の接触ですが、1つのダンボール箱に複数の製品が入っておりそれらがたびたび接触して起きているのか、箱がつぶれる等の大きな衝撃をうけて起きているのかによってとるべき対策が変わります。

仕切りや緩衝材を入れて製品同士の接触を防ぐ

箱の中に仕切りを入れてしまう、製品をプチプチなどのバブルラップ材でくるんでしまう、ウレタンシートを挟み込むといった方法があります。すでに緩衝材を入れているのに発生する場合は、緩衝材の材質を変えてみるとよいでしょう。

またダンボール(カートン製)の緩衝材を使う場合は、摩擦等でダンボール片が製品に付着し、それがクレームにつながることもありますので、ビニール等の使用も検討の余地があります。

箱内で製品同士が接触しないよう遊びを設ける

これは緩衝材や箱の仕切りなどを使ったり、製品同士を抱き合わせで入れたりして大きな振動が起きても製品同士が直接当たらないようにする工夫です。

圧力を分散する

箱内の特定の部位にあとがついていたり、決まった製品部位に打痕があるような場合で、緩衝材の効果が思うように発揮されない場合、特定部位に圧力が集中しないよう、緩衝材や仕切りを活用して圧力が分散するよう個箱内のパッキングを工夫します。

破損や傷が起きている箇所そのものの対策だけでなく、その周辺を固定したり圧力が分散されるように緩衝材を配置してみてください。

輸送方法の改善

海上輸送、航空輸送、鉄道輸送、トラック輸送があります。大きな揺れという意味では海上輸送がもっとも急角度での揺れが起きますが、通常貿易においては海上と陸送の複合輸送です(あるいは航空と陸上輸送)。

エンジンや路面から受ける小刻みな振動でダメージを受けるのか、海上コンテナのように大きな角度でゆすられるような振動によるダメージが大きいのか見極める必要があります。

どうしても振動に耐えられないというのであれば、航空輸送を使用し、空港からの陸送も特別な輸送を請け負う陸送便をチャーターして行うという方法もあります。

製品自体の改善

これは設計変更を伴うため、上記の荷材や梱包方法での改善ができない場合に行う検討となります。例えば表面に硬度の高い丈夫なコーティングや塗膜をする、材質を硬いものにする、あるいは衝撃を吸収してしまうものにする、傷がついてもよいような仕様に変更する、等です。

輸送トライの実施

輸送試験、transit test、packing trialや輸送テスト等とも呼ばれます。個装箱(個箱)やパレタイズの仕様が決まったら、販売先と相談し、輸送テストを実施してその荷姿で破損がないか確認するとよいでしょう。この際、輸送テスト用に荷姿を何パターンか準備しておくと効率的に荷姿の評価ができます。この輸送テスト・トライは想像以上に様々な情報が得られますので、品質を維持する梱包や荷姿決定に際してはぜひとも入れておきたいプロセスです。

販売先の同意が得られるなら実際に販売する製品でテストを行ってしまうこともできますが、例えば外観のキズや打痕だけを見るなら、機能的には不良であっても外観には問題のない製品を使ってテストを行うこともできます。

ショックウォッチと呼ばれるラベルを箱やパレットに貼り付けて輸送テストを行うこともできます。このラベルは衝撃を受けると色がかわる特殊なもので、横揺れや縦揺れなどの振動の種類はわかりませんが、貨物が受けた衝撃や振動が大きいとすぐにわかる仕組みです。ラベルは1枚当たり400円前後で、使い捨てですが、可燃ごみとして廃棄もできるのでパレットを分けて輸送テストをする際にはそれぞれにつけてみることもできます。また、個装箱ごとに輸送テストをするなら、それぞれの箱につけて振動や衝撃の度合いで中身がどうだったか推定もできます。

温度や湿度が輸送中にどのように変化したか、また詳細な振動の履歴が知りたい場合は振動ロガーを貨物につけて輸送テストを行う方法が効果的です。これはUSB型のもので約3万円前後、モデルによっては10万円前後と幅がありますが、繰り返し使用できるので相手方から提供を受けるか、あらかじめ返却の段取りを決めておく必要はありますが、かなり詳細なデータが取れます。

まとめ|貿易輸送の打痕・傷の原因と3つの対策

貿易における輸送中の打痕や傷を防ぐには、輸送方法に適した荷材・梱包方法、積み付け、製品の仕様変更等が有効です。

理由は、輸送中のほとんどの打痕や傷は振動や衝突等の外的な力が加わることによって、製品同士や製品と他の硬いものが「接触」することで発生する現象だからです。

具体例を上げます。

  • 1箱に4個の製品が入っていますが、輸送中の振動によりこれらの製品同士が接触して互いにキズがつく。
  • 積み付け時にパレットの強度が不足して荷崩れを起こし、下段の箱がつぶれて製品が出てきてしまい傷がつく。

対策としては以下の方法があります。輸送による振動やある程度の衝撃自体は取り除けない、という前提で対策を講じる必要があります。

荷材や梱包方法の改善

  • 仕切りや緩衝材を入れて製品同士の接触を防ぐ
  • 圧力を分散する

積み付けの改善

  • パレットの積み付け時に重量物は上に積載しない等のルール設定
  • 入り数の上限・下限設定
  • コンテナ内でのショアリング・ラッシングでパレットを固縛し動かなくする
  • 輸送中に移動する余地がないように積める

製品仕様自体の改善

  • 表面に硬度の高い丈夫なコーティングや塗膜をする
  • 材質を硬いものにする
  • あるいは衝撃を吸収してしまうものにする
  • 傷がついてもよいような仕様に変更する

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