目的と目標の違い|トヨタの自工程完結における目的、目標、アウトプットを明確化する意味とは

2020年6月21日更新

目的と目標の違いについて、ここではトヨタ自動車の改善活動で使用されている自工程完結(JKK)に基づいて説明します。自工程完結は、英語ではZone controlと呼ばれることもありますが、Ji Kotei-Kanketsuの頭文字をとってJKKとも称される技法・思考方法です。

同社では品質を各工程で作りこむ自工程完結によって最終的な検査に頼らなくとも高い品質を保てる仕組みを構築してきていますが、この考えをホワイトカラーの仕事にも応用し、ダンドリをきちんと行う事で手戻りややり直し、漏れ、無駄のない効率的な業務を進められる実践的思考方法を提唱しています。

この中で、一番最初に重要となる考え方が、仕事の「目的」「目標」「アウトプット」を明確にしてから、その仕事の手順、判断基準、必要なものを明確にして進めるというものです。それぞれの意味についてみていきます。

はじめに目的があってそれに近づくための目標がある、目標を達成する手段がアウトプット

目的の意味

仕事の「目的」は目指す方向を示し中長期的、やや抽象的な用語となります。自分の仕事の結果を渡す相手は「後工程」となりますが、ここが最初のお客様ととらえ、そのお客様にどのような付加価値を提供するのか、お客様にどのようになって欲しいかを示すのが目的です。

もちろん、この後工程(お客様)は、自分のすぐあとの後工程だけを見ればよいというものではなく、エンドユーザーに至るまでそれぞれでお客様がいることになりますので、どこかに不都合がある場合は、バランスをとっていく必要があります。例えば自分のすぐ後の工程にとっては利便性があっても、その次の次の工程では不都合がある、という場合はすぐ後のお客様だけを見て「目的」を設定してはいけないということになります。

エンドユーザーに至るまでの各工程のお客様は、時には相反する要望となることもあります。材料を調達する側の都合、製造にとっての都合、製造したものを検査するものにとっての都合、販売するものにとっての都合、エンドユーザーにとっての都合、それぞれでバランスをとる必要があります。

目標の意味

一方、仕事における「目標」とは目指す地点であり、具体的、定量的に示されるべきものとなります。目標を達成することで目的に近づくことができるというのが前提にあり、「いつまでに」「どのレベルに」達している必要があるかを明確にするのが目標となります。QCD(量・質、コスト、納期)の観点で目標を考えると、分かりやすくなります。

定量的に設定できないものについては、できる限り、具体的に設定することが重要です。なお、トヨタ式の自工程完結では、前回どうだったのか?をまず調べてから始めます。続けて、仕事の背景との整合性や現状のレベル確認、予算・納期といった制約条件確認、エンドユーザーまでのつながりを理解、QCDの観点での視点、ベンチマーキングできる事例(他部門や他業種など)を見ていくことが目標を設定する際のノウハウとして挙げられています。

アウトプットの意味

そしてアウトプットは、通常は何らかの成果物や出力・表出することを意味しますが、トヨタの自工程完結や改善活動における意味では、「目標を達成する手段」となります。方法と言い換えてもよいかもしれません。

このアウトプットは一つの目標を達成するのに一つではないこともありますので、必要なだけ検討を行います。アウトプットを明確にする際のノウハウとして自工程完結では、やはり最初にまずは前回はどうしたのか確認し、仕事の依頼者に最終的なアウトプットイメージを聞く、また自分でも最終的なイメージを思い浮かべてみる、アウトプットイメージを書き出して関係者に相談してみる、複数案考えてみる、他の類似の仕事をベンチマーキングしてみるといった方法が挙げられています。

目的←目標←アウトプットのように、逆算して整合性がとれている必要があります。アウトプットを実施すれば目標達成となるか、目標を達成すれば目的に近づくことができるか。この観点で仕事をはじめる前に、まず最初に明確にしておくべきことになります。

業務改廃の進め方|仕事の目的、目標、アウトプットの明確化

業務改善の一つの手法に、業務改廃と呼ばれるものがあります。現状の業務をよりよく改善したり、不要な業務を層別して廃止するといった意味合いです。

この手法では、まず改廃しようとしている仕事の目的・目標・アウトプットを明確にします。そのうえで、その仕事を「やめられないか」「減らせないか」「変えられないか」の順番で検討を行っていきます。

目的に合致しない業務はやめられるかもしれない

このとき、やめるかどうかを決める際には仕事の目的が何かに立ち返って検討を行います。そもそも仕事の目的がない、良く分からないという場合はやめられる可能性があります。

また組織で仕事を行う場合、自部門のミッション・やるべきことがこの仕事の目的と合致しているかという点を見ていきます。そもそも自分の部署の役割と違う目的を持つ仕事であれば、本来の部署や担当へ仕事を移管するという思考です。

ただ、通常組織は別の組織から仕事を移されて手放しで歓迎されることはほとんどありませんので、業務を整理・効率化する、相手の部署にもメリットがあるようにする等の工夫は欠かせません。ともすると単なる仕事の押し付け合いになってしまう可能性に留意する必要があります。

目標が適切ではない場合、業務を減らせる可能性

やめられない仕事については、次に検討するのが「減らせないか」です。毎日行っている業務の頻度を週に1回にできないか、回数や間隔を調整できないか、必要のない部分まで仕上げている部分を省けないか、等工夫次第で様々な減らし方の検討ができます。このときに活躍するのが仕事の「目標」となります。

目標はいつまでにどのレベルにまで達している必要があるかを示すものですが、この目標が過剰に厳しいのであれば緩和するだけでも仕事を減らすことができる場合があります。

業務を変えることで効率的なアウトプットを

最後の目標を達成するための手段であるアウトプットですが、仕事を減らすことができない場合、アウトプットの中身をかえてみることで業務の効率化をはかっていきます。あるいは、目標を達成するアウトプットというのは今のものが最適ではないかもしれません。別の方法を検討してみるというのも一つの改善です。

言うまでもなく効果が最も大きいのが「やめる」であり、次に「へらす」として「変える」となります。変える為の方法としては、業務のフローの中に存在するムダを探し出して見直すといった方法から、人力で行っていた部分を自動化する、といったやり方まで様々な方法があります。

業務改廃を行う場合、やめることもへらすこともできない業務は、より効率的な形に変えていく検討を行います。ただこのいずれのステップにおいても、仕事の目的、目標、アウトプットは最初に明確にしておくべきことになります。

8つのステップですすむ自工程完結での仕事の段取り

仕事の内容の具体的な検討に入る際は、アウトプットを明確にした後、次は手順を明確にします。最終的なアウトプットを出すために、実施すべきことの順番が手順です。手順を明確にしたら、各手順ごとにその手順が終わったら次の手順へ進んでも良い判断基準を明確にします。その後、手順を実施し適切な判断をするために必要なものを「情報」「道具」「能力」「注意点・理由」の4つの観点から明確にしていきます。

ここまでが明確になってはじめてトヨタにおける「ダンドリ」が完了します。PDCAサイクルでいうところのPになります。自工程完結は段取りに非常に時間と労力を使い、プロセスを大事にします。結果よければすべてよしという考えとは真っ向から対立するものです。これは問題や失敗が生じたとき、振り返って問題を特定し原因を突き止め再発を防止するための対応策を立案する為です。

ダンドリが明確になったとは、「実施」のプロセスに入り、その後「振り返り」を必ず行います。ここで目的、目標、アウトプットが適切だったか、どのような課題があるか、良かったところ悪かったところを振り返り、次につなげていきます。

トヨタの自工程完結の最後には「知見の伝承」が入ります。まとめると以下の8つの工程を経て仕事はまわっていきます。

  • 目的・目標の明確化
  • アウトプットの明確化
  • 手順の明確化
  • 判断基準の明確化
  • 必要なものの明確化
  • 自信をもって仕事を進める
  • 振り返り
  • 知見の伝承

こうしてみると仕事における目的・目標がぶれてしまっていたり、設定に問題があったりすると後の手順や判断基準、必要な物をいくら整えても良い仕事にならないことが分かると思います。

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