納期遵守率の改善と計算式
納期遵守率(読み方:のうきじゅんしゅりつ)とは、英語ではon-time delivery rateやtimely delivery rateといい、顧客からの注文に対して、納期通りに納入した件数の割合から計算されるもので、生産管理部門や製造部門、営業部門、調達部門の代表的なKPIのひとつです。この数値の改善や向上が業務目標や重要な意味を持つことも多々あります。
納期遵守率の計算式
納期遵守率の計算方法は、次の通りです。
納期遵守率(%)=(注文件数−遅延件数)/注文件数 ×100
例えば、注文件数が100件あったとします。その中に遅延件数が10件あった場合、以下の計算になります。
(100−10)/100 × 100 = 90%
この注文件数100件というのを月間の総件数に置き換えたり、はたまた年間の総件数に置き換えたりといった方法で「集計期間」を決めて運用されています。したがって、より厳密には指定された集計期間内での注文件数に対して、納期を守ることができた件数の率というのが納期遵守率の定義ということになります。
業界にもよりますが、たいていは集計する期限を一カ月と区切り、その月間の納期遵守率を集計するケースが多く見受けられます。年間や週間、あるいは日単位で見ていく業界もあります。週間等で区切ると、納期遵守率を集計するほうも大変ですが、対策立案を求めるのにも時間がかかるので、実務上支障が出ることが多いという問題があり、多くの分野で月間での区切りが一般的です。最終的にそれら月間を期ごとに集計して仕入先に対する表彰を行っている会社もあります。
エクセルで納期遵守率を計算
納期遵守率の計算はエクセルを使っても簡単にできます。下表はシンプルにするために月間の注文件数を10件とした場合の納期遵守率を計算した事例です。このサンプルでは、3件が遅延となり、A列に遅延したものを〇で明示しています。
COUNTA関数を使って、遅延件数のカウントと、総注文数のカウントを行い、10−3/10×100で70%の遵守率という計算になります。
分納した場合の遅延カウントを分納の回数分だけ行ったり、分納予定がさらに遅延した場合をカウントするといった場合は、行を分けて遅延件数を集計できるように少し改造が要ります。
遅延の定義
納期遵守率の多くは納入している顧客から提示されることもありますが、この集計を難しくしている要因のひとつに遅延件数のカウント方法と遅延の定義が多様化していることが挙げられます。
どういうことかというと、顧客側のほうが無理な発注だとわかって発注をかけている場合、その発注に対する遅延は遅延件数とはカウントしないというルールを設けて集計されることがあります。
業界によっては受注してから準備に2週間は必ずかかる製品があるとして、顧客が今日発注して今日中に納入してほしいという内容だった場合、在庫がない限り対応困難です。こうした短納期の注文を遅延件数のカウントから除外するという措置を取っているところは意外とあります。昨今は発注をEDI等で電子化しているので、要求部門からの数量情報が更新されるとすぐに発注がかかってしまうケースもありますが、こうした場合でも、はじめから対応できない納期と発注側が認識している場合遅延にならないことがあるということです。
また、注文の変動差も同様で、内示情報に基づいて材料や生産を準備している業界だとしましょう。先月1000個と聞いていたので、それに少しプラスアルファして1500個ほどの材料を準備して注文を待っていたところ、20000個の発注が飛んできた、というような場合、これに応えるのにはそれなりの納期がかかります。こうした変動差が一定以上の場合は、遅延件数にカウントしないというルールを設けているケースもあります。
その他、注文データや注文書内で指定されている納期からは過ぎてはいるものの、事前に顧客側あるいは納入側と調整がついている場合も同じく遅延から除外されることがあります。
こうした遅延カウントにしない基準というのは各社ごとに異なるため、顧客遵守率の改善活動を行う場合、きちんと内容を知っておく必要があります。
平均値はあるのか
基本的に全か無かの世界です。注文件数が多く顧客の遅延カウント除外要件が厳しい場合は、100%達成は難しいのですが、結局納期を守っている会社か、そうではないのかという指標になるので、目標も100%以外ありえないという事情があります。
納期遵守率の平均というのは業界によりけりな部分がありますが、自動車部品のように顧客側が時間単位のジャストインタイム生産方式を使っているトヨタのような場合、100%を維持できなければ生産ラインが止まってしまうことがあります。こうした分野では在庫がありませんので、時間通りに納入がないと部品が足りずに生産ができないことになります。
したがって、そうした業界では100%ということになり、遅延が発生した場合には何らかのペナルティが課せられたり、対策を求められることになります。
納期遵守率の改善や向上はどのようにするのか
納期遵守率は顧客から「これ以上遅延するならば取引停止する」といった喫緊のものから、社内で自主的に取り組むもの、あるいは仕入先に対して遵守率向上を求めるものといった具合に異なるベクトルのものがいくつか存在しますが、究極的にはそのどれも顧客への納期遵守率の改善や維持につながっているという点には変わりないことになります。
自社から顧客への納期遵守率を改善したい
これは顧客によっては重要な取引要件となっているため、遅延する取引先とは取引しないという方針の場合は、仕事を失うことになります。
また、自社品の納入遅延によって顧客側の生産ラインを止めた時間に応じて損害賠償を請求されるケースや、顧客が海外へ輸出するものの場合、本来船便で間に合うべきものが航空便対応となり、その対応費用すべてを支払ってほしいといったことにもなりかねません。
多くは売買契約や取引基本契約で納期遵守についての規定が設けられていますので、納期を守らないことの報いは受けることになります。以下に代表的なチェックポイントを例示します。
遅れはいつわかっているか
実は知らないうちに遅延しているという場合や、協力工場を多数使っているような場合、そうした仕入先が遅延していることをタイムリーにつかむことができずに顧客に迷惑をかけてしまうケースがあります。当たり前のように思えるかもしれませんが、まずは遅延していることをいかに早くつかむ体制があるか、という確認が要ります。
情報がどこから入ってどこで気づけるのか、情報は停滞していないのかといった点がチェック項目です。
顧客へ報告する前に無断で遅延をし、あとから顧客や納入先からクレームを受けるというのは納入管理の分野で最もまずい例とも言えます。遅延に気づける体制がなければ、遵守率の改善に着手できませんのでまずはここからです。
何が原因で遅延しているのか
これは遅延発生の真因を抑えないと何度でも再発してしまう傾向があり、一体なぜ遅延しているのか発生した案件ごとに、内示情報や注文が入ってから材料手配、生産、出荷に至るまで何がどうなって遅れたのか簡単なフロー図に書いてみるとよいと思います。
目先の原因しかつかめていない場合、その対策をいくらやっても類似のもので遅延が発生したり、同じようなケースで何度でも遅延が起きます。
何らかの自社でのミスや落ち度によるものなのか、何のミスがなくても顧客からの発注に対応できる仕組みがないのか、あるいは綻びがあるのかといった点を明らかにしていく必要があります。
まずは遅延につながったミスや落ち度がある場合は、それがなぜ発生したかを掘り下げ、再発防止につながる対策を立案していくことになります。
そもそもミスがない場合は、例えば現状の運用で以下のような点をチェックしてみるのも一つの方法です。
- 製品在庫は必要十分か、基準在庫(安全在庫)は十分か
- 材料在庫は十分か、発注から入荷までを加味した発注点があるか
- 生産着手点の設定は正しいか(在庫がどこまで減ったら生産に取り掛かるか)
- 情報の変動をどの程度見ているか(±20%には耐えられるか、±30%ならどうか)
- 生産計画の変更等、需要変動に対してどこまで対応できるか
極論すると在庫を潤沢に持っていると目先の遵守率は改善されることが多いのですが、問題はその持ち方で、在庫も無限にあるわけではない為、どこかで補充していく必要があります。情報をキャッチし適切なタイミングで在庫補充ができないと結局欠品して遅延することには変わりないため、在庫運用含めた改善を行うというのが目の前の対応としては簡単に取り組める一つの方法でもあります。
仕入先からの納期遵守率を改善したい
調達部門の多くが管理項目として仕入先の納期遵守率をKPIとして掲げて改善活動に取り組むことは珍しくありませんが、この活動でもっとも大切なのは比較的小規模な仕入先の場合、経営層がどこまで納期遵守に対する意識を持っているかという点です。
納期遵守の結果については、毎月、仕入先の納入管理や納期管理を行っている責任者へ送付するのも一つの方法です。自社の位置づけがどのようなものかもわかると危機感を醸造しやすいかもしれません。また、定期的な表彰制度を設けることで、納期遵守率を重視している仕入先のモチベーション維持にもつなげることができます。
仕入先のオペレーションにまで入りこんで遅延の要因を突き止めて改善支援していくという方法もありますが、それにしても仕入先側のほうでの納期意識が極めて低いとなかなか定着しません。
荒療治ですが、新規発注停止や見積もり依頼停止等の措置を取り、パートナーとして取引継続していく意思があるなら納期をきちんと守る体制作りに協力してほしい旨伝えて功を奏したという例もあります。
そこで本当に改善しないのであれば、自社の被る遅延による損害と天秤にかけて(結果としてどこかの部門が遅延のしわ寄せを被っているか、顧客への遅延リスクが上がっていることが多々あります。その結果は自社の信用失墜と失注です)、別の仕入先への転注といった選択も検討する必要があります。
なお、あまりに無理な短納期での対応を強いる行為は下請法対象事業者に対しての場合、同法に抵触する場合があるため、運用には注意が必要です。こうした無理な対応にかかった費用は親事業者が負担すべきものとなりますが、中には費用を支払っても労働基準法上問題があるような対応をしいているケースもあり、発注側は慎重に対応すべき内容となります。
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