試作イベントの流れ

2021年4月17日更新

自動車の開発は量産される2年前から始まっていると言われますが、これはサプライヤー側から見た場合、車両開発の日程が以下のようなステップ(フェーズとも呼ばれます)に基づいて進むことになる為、その最初のステップが2年前から始まることに起因します(営業の動きとしてはおおむね3年前からはじまります)。

各試作車イベントまでに何をしていなければならないのか、社内の関係者部署との調整、自動車メーカーとの折衝等やることは山積みですが、客先側でスケジュールが決められているイベントを遅らせることはできませんので、それに向けてスケジュールを調整していく必要があります。

イベントのスケジュールは、最終的にその車種がいつ市場にて販売を開始するのかという日程から逆算されています。部品が一品種足りないがために、試作イベントにて試作車の製造が遅れると死活問題となるのはこうした事情からです。海外で試作車が作られるようなケースで、部品供給が間に合わないというような場合、時にはハンドキャリーを用いてでも納入を完遂させることになります。

新車の開発情報というのは、電話や訪問などの営業活動で入手していきますが、サプライヤーを対象とした説明会などもありますので、これらでも情報を収集していくことになります。

トヨタであれば、新しい車を出す場合、車両開発大日程と呼ばれるスケジュールが組まれ、自動車に用いる「車両部品」はこれに沿って生産準備が進められることになります。

試作車イベントの各段階では、目的が決まっており、納品すべき部品がどのようなものかも決まっています。最初の段階では試作用の金型である試作型を用いてもよかったものが、イベントが進むにつれて、量産用の金型である本型を用いたものとなり、さらに本型に加えて本工程と呼ばれる量産工程にて製造されたものが求められるようになります。

試作用の型と異なり、量産用の型は納期がかなりかかり、トラブルも少なくありません。試作用と量産用とでは要求精度のレベルや要求仕様がそもそも異なるからです。また、金型は全般的に製作に数ヶ月の納期を要するものが一般的ですが、これら製作にかかる納期に加えて、実際にその金型でトライアルでの生産を行い、製品の性能・品質を確かめるプロセスも付随しています。これにもかなりの時間がかかりますので、その自動車部品メーカーもスケジュールがギリギリの状態になっていることが多いです。あるいはそもそも間に合わず、本来は本型での納入が必要にもかかわらず暫定型で納入させてもらう等の例外もあります。

本型イベント(英語ではオフツール)とも言われるこうした量産用の金型を使って生産した部品を納入するフェーズの次は、本工程イベント(英語ではオフプロセス)と言われるフェーズになります。これは量産で生産するラインで生産した部品を納入することになります。通常は、本型本工程と言われ、使う金型も生産するラインも量産のときと同じもので、という指定になります。モノづくりにおいては生産ラインが変わると品質が変わりますし、試作や初品段階のモノづくりと量産でのモノづくりは設備からして違いますので、こうした対応が求められます。自動車メーカー側のほうも、最終的には量産ラインで作った品確車をもとに判定しますので、「量産できる状態」にまで品質をレベルアップさせ製造する上での問題も解決しながら造り込んでいきます。

トヨタにおける試作車イベントの呼び方
試作車イベント 量産開始から逆算すると 概要
AS(Advanced Stage) 量産のおよそ24ヶ月前。 試作調達の段階。試作外設申が発行される。
FS (Final Stage) 量産の18ヶ月前。 号口外設申が発行。サプライヤー側では量産図を手配。この半年後には本型品を納入。
PCV (Confirmation Vehicle) 量産の12ヶ月前。 性能確認車を製造する。本型品を要求。生産能力確認。
1A 量産の6ヶ月前。 1次号試。本型本工程品のため、通常はサプライヤーの量産工場で対応する。生産能力の確認。
量確(MPT:Mass Production Trial) 量産の2ヶ月前。 量産確認。本型本工程品。
品確(QCS:Quality Confirmation Stage) 量産の1ヶ月前から量産直前 品質確認。本型本工程品。いわゆる量産開始直前の最終チェック。
LO(Line off) 量産 量産開始。SOPとも呼ぶ。本型本工程品。トヨタでは量産立ち上がりのことを号口ともいいます。

自動車メーカーごとの試作車イベントの呼び方の一覧

試作車イベントを経て量産を開始するというのは世界のどの自動車メーカーでも共通していますが、イベントの呼び方や名称は、メーカーごとに異なっています。以下に代表的な試作車イベントの名称を一覧にします。

試作車をつくるフェーズは、本当に初期段階のものであればそれに使用される部品も試作型などで作られた「試作品」を使って製作されます。それが徐々に、本型(量産型)での部品を使って品質確認をするようになり、最終的に本工程、つまり量産ラインで作られた部品を使って完成車を作り品質確認を行って量産立ち上げとなります。近年は品質確認の精度を上げるために号試の前のフェーズで実質的な号試の評価を行うケースも出てきています。

自動車の品質は操作感や見栄え、機能といった多くの基準をクリアすることに加え、数ある製品の中でもきわめて高いレベルでの安全性が求められるため、こうした多段階での品質確認を行って量産にまでこぎつけていく特徴があります。また使用部品点数と工程も多く、それぞれの部品や工程で品質を保証したうえで車両組付けしていく必要があります。一度試作車を作ってみてそこからすぐに量産、という具合にはいかない業種です。

カーメーカーごとの試作車イベントの名称:ホンダ、日産、三菱、スズキ、いすゞなどトヨタ以外
ホンダ 日産 スズキ いすゞ
段確,
品確,
量確,
L/O
QCV,
PT1,
PT2,
L/O
設試,
生試,
量試,
パイロット,
L/O
K研試→1生試→アセス→SOP
カーメーカーごとの試作イベントの名称:三菱、マツダ、ダイハツ、日野、スバル
三菱(三菱自動車工業) マツダ ダイハツ 日野 スバル
開発→PJ→PL→PT→PP(量先)→L/O(SOP) DCV→TT(本型)→PP(本工程)→MP(SOP) KS→号先→号試→量確→品確L/O 号試→品確→量確 K3→工試→生試→L/O
カーメーカーごとの試作車イベントの名称:BMW、VW、ポルシェ、AUDI、Ford
BMW VW ポルシェ AUDI Ford
PVL (本型),
VS (本工程),
L/O
BF (Purchasing Release),
LF (Launch Release),
VFF (Pre-series vehicle acceptance:
Standard off-tool parts, Series equipment),
PVS (Production series test),
0-S(Pre-series:Production, process and product approval),
SOP (Start Of Production)
VFF(Pre-series vehicle acceptance, 本型),
PVS(Production series test, 本工程),
0-S(本工程),
L/O
VFF(本型)→PVS(本工程)→0 serie(本工程) TT→PP→SOP
DCV→PEC→FEC→PPAP0→SOP

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