抗菌加工の方法と原理
抗菌加工や抗カビ、抗ウイルスをうたった製品は抗菌マスク、テープ、化粧品、玄関マット、手袋、タイル、抗菌コーティング、プラスチック、衣料品、繊維、金属など数えきれないほど存在しますが、具体的な抗菌の方法、つまりどうやって抗菌性能と効果を持たせているのかその方法と原理についてはあまり知られていません。抗菌の基準や原料の毒性、安全性はどうなのか、効果期間はいつまで続くのか。そもそも細菌やウイルスに対して「抗菌」とはどのようなことなのか、殺菌や除菌、制菌とは何が違うのか、その効果は何を実現すれば抗菌と言えるのかその定義も含めて以下に見ていきます。
抗菌とは|その定義について
抗菌とは何を意味するのか一見分かりにくく、菌にあらがう力のことなのか、では殺菌や除菌効果をもつことなのか、「菌」とはどこまでを対象とするのか、細菌だけなのか、ウイルスやカビなどの微生物もすべて含むのか聞いただけでは定義の曖昧な用語です。
微生物制御工学の分野では明確に定義づけされており、抗菌とは「殺菌、滅菌、消毒、除菌、静菌、制菌、防菌、防腐、防カビなどをすべて含む」概念です。英語ではantimicrobialといいますが、学術的には微生物に対しての「抗菌」であるため、ウイルス、細菌、菌類(酵母、カビ、キノコなど)、微細藻類、原生動物などすべてに対して、それらの増殖に影響を及ぼすことができるものは「抗菌」の範疇に入ります。
抗菌と除菌、抗ウイルス、滅菌、静菌、制菌、殺菌、防カビの違い
学術的には抗菌とはもっとも広い概念で、殺菌、滅菌、消毒、除菌、静菌、制菌、防菌、防腐、防カビなどをすべて含みますが、他の用語との違いについて下表にまとめました。
用語 | 意味、定義 |
---|---|
微生物 | 細菌と真菌。細菌、ウイルス、菌類(カビ・酵母等)、藻類、原生生物、粘菌等の総称 |
抗菌 | 殺菌、滅菌、消毒、除菌、静菌、制菌、防菌、防腐、防カビなどをすべて含む |
滅菌 | 対象物内外の微生物すべてを殺す、あるいは除去する |
殺菌 | 対象物内外の微生物の一部またはすべてを殺す |
消毒 | 対象物内外の病原性微生物の殺菌 |
静菌 | 対象物内外の微生物の増殖阻止 |
制菌 | 対象物内外の微生物の種類を特定した増殖阻止 |
除菌 | 対象物内外の微生物を除去 |
防菌 | 対象物内外の微生物の増殖を阻止および殺菌 |
防腐 | 食品、医薬品、化粧品、その他材料の腐敗の防止 |
防かび | 対象物内外のカビの増殖を阻止および殺菌 |
上記のように抗菌が意味する範囲は非常に広く、例えば、防腐だけの効果がであっても、「抗菌」の意味の範囲に入っていることになります。滅菌のように非常に強い意味を持つ場合も抗菌ということもできる一方、制菌には「増殖阻止」とあるので、例えば、ある1種類の細菌の増殖を少しでも減らすことができたのであれば、「抗菌」を名乗れることになってしまいます。
これでは両者の「抗菌」の程度に著しい違いが出てしまいます。例えば健康に害を及ぼすレベルの細菌が残ってしまっていても、データ上は少し増殖が減った、というのであれば抗菌という名称を付けてもよいのかということになります。これだけではどれだけの細菌や真核生物などの微生物の増殖を減らすことができるのか分からないため、「抗菌」を名乗れる基準が不明な状況になってしまいます。
抗菌には意味がない?
上記のように広範な意味を持つことがわかりますが、ではどこまでの、あるいはどのような効果があれば「抗菌」を製品として名乗れるのかについては、抗菌加工製品ガイドライン(経産省)やJIS規格で、製品の種類ごとに定められています。
JISは国際規格であるISO(ISO 22196)に基づいていますので、国際的に「抗菌製品」の基準については共通のものが定められているということになります。企業によってはこれらを上回る、あるいは下回るものを供給していることもあります。一定の基準を満たした抗菌製品を使いたいということであれば、ガイドラインの基準を満たしたことを証明する業界団体のマークがついたものを選ぶ必要があります。
抗菌の基準
1990年代後半、食中毒等の頻発により抗菌を求める社会的風潮のなか、効果のある抗菌剤が添加されていないにもかかわらず抗菌をうたったものや、合成皮革製品に添加された薬剤が原因で炎症などを引き起こしたり毒性のある抗菌剤が添加されていたりする製品が玉石混交の状態で市場に出回っており、社会問題化したため基準が作られたものです。
抗菌と聞くとすべての細菌やウイルスに効果があるのかと誤認してしまいがちですが、実際の抗菌製品、抗菌グッズや抗菌加工については上記の学術的な定義のなかの「制菌」に近い意味で使われていることがほとんどです。
実際、業界団体における「抗菌」の定義は、学術的なものとはうって変わって、「製品の表面における細菌の増殖を抑制する状態」となっています。
抗菌加工にはどのようなウイルスと細菌が想定されているか
JIS規格では「繊維」「光触媒抗菌加工材料」「それ以外」で3つの製品カテゴリーでどの細菌に対してどの程度の抗菌性能があるといえるかを規定していますが、いずれの製品群でも、黄色ぶどう球菌、肺炎桿菌(肺炎かん菌、クレブシエラ・ニューモニエ)、大腸菌のいずれか2種が試験対象となっており、細菌にしてもすべての細菌というわけではありません。
JISの規格をクリアした抗菌加工製品は、正確にはこれらの限定された細菌に対して「抗菌」の基準をクリアした、ということになるため、すべてのウィルスやカビなどの真菌に効果があるわけではありません。このため、防カビや抗カビについては別途製品に表記している事例もあります。
黄色ブドウ球菌や大腸菌に効果のある薬剤と、カビなどの真菌に効果のある薬剤は必ずしもイコールではないという事情があります。
製品と抗菌性能の原料ともいえる薬剤は違う
また実際の抗菌加工が施された製品と、抗菌効果を付与するために製品に添加されている「抗菌剤」とは効果が異なることがあります。抗菌剤の効果は、ある菌に対しての最小発育阻止濃度(MIC、単位はppm=mg/Lやμg/mL)で示されています。
これはいってみれば抗菌剤の原液の性能であって、これを製品に添加した場合、同一の効果が発揮されるわけではない点には留意が必要です。
ガイドラインを遵守するのであれば、抗菌製品に付与できる分量は自ずと決まってきますので、個々の製品ごとに性能・効果を評価する必要があります。
抗菌剤に毒性はあるのか
業界団体で抗菌加工製品のガイドラインを基準として採用しているSIAAマークや繊維製品のSEKマークがついた製品については、経口毒性が一定以下であることや皮膚刺激性が弱いあるいは陰性、皮膚感作性も陰性、変異原性も陰性であることが求められており、毒性はないとされています。
一方、それでも24か月未満の乳児が使う衣類や玩具などの製品には抗菌加工をしてはならないとされています。厳密にいえば、何らかの影響が出る可能性があるということになります。
赤ちゃんが使う玩具などで同じプラスチック製でもカビが出やすいと感じることがあるのは、このガイドラインに従い、抗カビや抗菌性能を発揮させる薬剤を製品に添加していないためという場合があります。
また食器にも抗菌加工や防カビ、抗カビ加工をしてはならないとされています。カテーテルをはじめとする医療用具、呼吸器系・眼への影響が懸念される製品についても抗菌加工しないことになっています。医薬品に使われる抗菌物質については薬機法や食品衛生法で規制が設けられています。
抗菌剤には様々な種類があるため、一概にいうのは難しいですが、特定の薬剤にアレルギー等で反応する方もいますので、安全と言われているものについても万能ではありません。あうあわないを見極めて製品を選ぶ必要があります。
口にするもの、医療用のもの、赤ちゃんが使用するものについては、特に注意が必要ということになります。
業界団体に登録のある抗菌製品に使う抗菌剤の表示方法については、例えば繊維製品においてはSEKマークがつきますが、これには認証番号が付属しており、この番号で抗菌加工剤が何か検索できるようになっています。
抗菌加工製品の効果
抗菌加工を施された部位の表面で、細菌が増殖するのを抑える、というのが趣旨となります。例えば、浴槽が抗菌加工されているからといって中に入った古いお湯で細菌や雑菌が増殖しないわけではありません。同様に、保存容器が抗菌加工されているといっても、中身は普通に腐ります。効果があるのはその製品の表面だけです。
洗濯回数が減らせる?
抗菌繊維が使われた衣服だからといって洗濯不要や洗濯回数を減らせるということではまったくない点に留意が必要です。もっともたいていの抗菌繊維は、洗濯による効果低下はほぼないといわれています。ただし永続するかといえば抗菌剤の種類によっては徐々に抗菌剤が放出されていきますので、すべて出し切ってしまえば、効果がなくなることになります。
抗菌の効果はいつまで続く?
これはタイル・セラミックスなども同様で、無機系抗菌剤が使われているケースが多いですが、抗菌性能を持つ金属が徐放してなくなれば効果を失います。ただし無機系抗菌剤は有機系抗菌剤に比べて長期間効果を保持します。タイルの目地に抗菌剤が添加された樹脂が使われているようなケースでは、目地での細菌増殖や防カビ性能を持ちますが、永遠には続きません。
抗菌と消毒、殺菌は違う
また、抗菌繊維が使われた布巾で台所をふいても、ふいた箇所の細菌の増殖を抑えることはできません。殺菌にもなりません。これはあくまで布巾の表面での菌の増殖を抑えるという効果になります。
マスクも同様です。繊維に抗菌効果のあるものを使ったマスクをつけていても、細菌やウイリスの侵入を防ぎやすくなるかといえばまったく関係がなく、マスク表面での細菌増殖を抑える効果となります。自分の咳やくしゃみに含まれる菌が、自分のマスクの中で増えるのを防ぐ形です。こちらも入ってきた菌を殺すことはできません。
靴下に抗菌加工が施された繊維が使われている製品も散見されますが、抗菌のほか抗カビ加工されているものはカビの仲間である水虫の菌を靴下の中で増殖させることは防げますが、靴下をはいている人の足の水虫を除菌することはできません。
他の症状についても同じで、着用者の除菌や何らかの病状がよくなるということもありません。消臭についても同様で、菌の増殖に伴う悪臭というのは、抗菌効果によって増殖が抑えられる場合、連動して減りますが、これは防臭であって消臭加工とはまた異なります。
JISでは抗菌活性値で、効果・性能を分類
上記を踏まえたうえで、「抗菌」をうたう性能については以下の基準がJIS規格では設けられています。
抗菌活性値 | 効果の表記 |
---|---|
2.0≦A<3.0 | 効果が認められる |
3.0≦A | 強い効果が認められる |
抗菌活性値=無加工試験片(抗菌処理なし)の24時間後の生菌数の対数値の平均−抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均となります。
この値は「対数」であるため、2.0以上ということは2桁以上減少となります。つまり24時間後に細菌は増殖できずに99%以上死滅、ということになります。抗菌活性値が3.0以上ならば3桁以上(99.9%以上死滅)、生菌数が減っている、ということになります。
その製品の表面での細菌の増殖を抑える、という点においては効果が明確にある、ということです。
製品の種類ごとに下表のような規格が設けられており、対象となる細菌も定められています。
製品の種類 | JIS規格 | 評価対象となる菌 |
---|---|---|
繊維製品 | JIS L 1902「繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果」 | 黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌 |
光触媒抗菌加工製品 | JIS R 1702「ファインセラミックス−光触媒抗菌加工材料の抗菌性試験方法及び抗菌効果」 | 黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌 |
プラスチック、金属、セラミックス | JIS Z 2801「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」 | 黄色ブドウ球菌、大腸菌 |
例えば、抗菌繊維の試験対象となる微生物は、黄色ぶどう球菌と肺炎かん菌となります。これら2種の細菌での抗菌活性値が2.0を超えれば、抗菌効果があるということを製品としてうたうことができます。規格内では試験方法について、菌液吸収法、トランスファー法、菌転写法、ハロー法の説明があります。
もっとも、業界団体である一般社団法人繊維評価技術協議会が定めている抗菌繊維製品の認証マークである「SEKマーク繊維製品認証基準」では、5種の細菌での評価としています。
抗菌加工の方法と原理|プラスチック、繊維、金属などに抗菌性能をどうつける?
一言で言ってしまえば、「抗菌剤」を対象となる製品の材料に練りこんでしまう方法と、表面につける方法があります。もとから練りこんでしまう場合は、材料全体が抗菌性能を持つことになりますが、材質によっては抗菌薬剤の効果が表面に上がってこず、効果が出にくいものもあります。
プラスチックの場合、成形時に材料を加熱して溶かしますので、そのときに有機系抗菌剤を混錬してしまう方法や、プラスチックの添加剤、フィラーとして無機系抗菌剤を添加する方法が使えます。
材料そのものに薬剤を練りこむ方法は、抗菌まな板のように、表面に常時傷がついていくような用途でも効果を発揮します。表面に付与するコーティングタイプや、表面加工タイプはその面がはがれたり劣化すると効果が失われてしまうからです。ただし、材料に練りこむだけあって、抗菌剤の使用量が多くなる点(コストアップ)や、樹脂の種類にもよりますが250℃前後等ある程度の耐熱性がないと材料の成形時に熱で薬剤が変質してしまう点などに留意が必要です。有機系抗菌剤は特に熱に弱い性質があります。
表面に抗菌剤を付着させる方法は、何らかのバインダーで成形が終わった製品の表面に抗菌剤の粒子を付着させる方法や、圧着させる方法、転写箔での表面加工、蒸着・スパッタリング・CVDなどの表面処理加工で抗菌剤粒子を含む膜を形成する方法、金属であれば抗菌剤粒子を含むメッキを施すといった方法があります。この方法だと耐熱温度がない抗菌薬剤でもあとからつけることができますので使用することができます。
繊維の場合、一本の繊維のまわりに接着効果のあるバインダーをつけ、そこへ抗菌剤を付着させる方法や抗菌効果を持っている酸化チタン、銀などを繊維に織り込んで性能を発揮させる方法などがあります。
金属材料の場合は、もともと抗菌性能をもつ金属を材料に加えてあるものか、抗菌効果をもつメッキや樹脂コーティングで表面処理したものとなります。前者には抗菌ステンレスがよく知られています。金属の製造時にかかる熱に有機系の薬剤は耐えることができず、プラスチックや樹脂の成形のようにはいかない問題があるため、有機系抗菌剤での抗菌性能を付与させる場合は、樹脂コーティングをあとから施す形になります。
難しいのは金属組成の成分に、単に抗菌効果の高い元素が入っているからと言って、高い抗菌性能を持つわけではないという点です。例えば抗菌効果の高い銅を例にすると、ステンレスでは、加工性向上を目的として銅を添加したSUS304J1があります。銅の濃度のばらつきが、抗菌性能に影響を及ぼすことが知られており、平たく言えば、成分の中に入っている銅が表面に均一に適切な濃度でうまく出てこないと抗菌効果を発揮しないということになります。
抗菌効果をもつ金属イオンがうまく金属の表面から出てくる必要がありますので、単に成分として含有させるだけではなく特殊な材料設計が必要です。
金属にしてもプラスチックや樹脂にしても、抗菌薬剤や抗菌性能をもつ金属を添加しても加工性能が低下しないことや、機械的強度をはじめとする物理的性質が低下しないことが求められます。
用途にもよりますが、抗菌効果を発揮させるために材料に亀裂が入りやすくなった、劣化しやすくなったという状況はほとんど許容されないかと思います。また、添加された抗菌剤が使用される環境によっては他の薬剤と反応としてしまうようなことも避けたいところです。
抗菌作用の原理|細菌、ウイルス、真菌の増殖を阻害する
抗菌の原理、つまり細菌や真菌、ウイルスに対して抗菌作用を及ぼす機構は使用される薬剤によりけりですが、大別すると以下のようなものがあります。微生物の細胞に対して何らかの悪影響をあたえて増殖をさせない、させにくくするというものです。直接的に細胞の一部または全部を破壊してしまうものもあります。
- たんぱく質の酸化分解
- 呼吸阻害
- 細胞膜の酸化分解、機能阻害
- TCAサイクルの脱水素酵素阻害
- 電子伝達阻害
- DNA合成阻害
無機系抗菌剤で使用される金属についても、未解明な部分もありますが、抗菌の原理は、金属イオンが細菌などの細胞膜、細胞表面、あるいは内部でタンパク質・酵素と反応することで、障害を引き起こし細菌・微生物に損傷を与えて、増殖を防ぐという原理が通説です。
抗菌剤の種類
上述のとおり、抗菌製品は「抗菌剤」が何らかの形で添加・付与されている製品のことになります。この抗菌薬剤は、原体で250種前後あるといわれています。大きく分けると、無機系抗菌剤、有機系抗菌剤、天然物系抗菌剤、ハイブリッド系抗菌剤があります。以下に主な抗菌剤の種類と特徴を見ていきます。
無機系抗菌剤
これは抗菌性を発揮する金属を用いたもので、担体と呼ばれる入れ物に、金属を入れてその成分を徐々にまわりに放出することで抗菌効果を発揮させるというものです。担体に金属をいれることを担持(たんじ)させるとも表現し、種々の担体に、抗菌効果の高い金属・金属イオンを担持させたものが無機系抗菌剤となります。
この担体の種類と、金属の種類の組み合わせにより下表のようなものが使われています。二酸化チタンのように、光(紫外線)を浴びることでヒドロキシルラジカル(OH)を生成して抗菌性能を発揮するものもあります。
無機系抗菌剤は、耐熱性や耐薬品性に優れているため、プラスチック・樹脂各種や、セラミックス、タイル、化学繊維、塗料や接着剤などとも相性がよいです。
総じて、無機系抗菌剤の特徴を述べると下記のようになります。抗菌スペクトルが広いとは、より多くの細菌に対して抗菌効果を発揮するという意味です。
- 熱に対して安定(〜600℃)
- 加工性がよい
- 抗菌スペクトルが広い(効果を発揮する菌の種類が多い)
- 人体への安全性
- 耐久性が高い
- 加熱しても有毒ガスが出ない
- 微生物が薬剤耐性を得にくい
- 有機系に比べると量あたりの効果は出にくい
無機抗菌剤名 | 最小発育阻止濃度(MIC, ppm) |
---|---|
銀 | 2.5から6.0%で抗菌効果を発揮。細菌(125〜500) 真菌(500〜1000) |
なお、同じく抗菌効果の高い銅や亜鉛の場合、銀の5倍から10倍の濃度が必要となり、銀がいかに強力な抗菌性能を持っているかがわかります。近年は、ニッケルめっきに高い抗菌効果を持たせた神戸製鋼所のケミファインといった製品も出てきており、担体金属の元素だけでの性能比較は難しくなっています。
担体 | 担持金属 |
---|---|
ゼオライト | Ag, Zn |
Ag | |
Cu, Zn | |
シリカゲル | Ag錯体 |
Ag, Zn, Cu | |
ガラス | Ag, Zn, Cu |
Cu | |
リン酸カルシウム | Ag |
リン酸ジルコニウム | Ag |
Ag, Zn | |
珪酸カルシウム | Ag |
メタ珪酸アルミン酸マグネシウム | Ag, Zn |
チタン酸カリウムウィスカー | Ag |
酸化亜鉛ウィスカー | Ag |
二酸化チタン | なし |
有機系抗菌剤
有機系抗菌剤はとにかく種類が多種多様で、下表の通り、様々な系統の薬剤があります。特定の用途や最近に特化したものもあります。特徴を述べると以下のようになります。熱に対する弱さや光に対する弱さは加工する上ではかなりネックとなるポイントです。
- 種類が豊富
- コストが安く少量でも効果が出る
- 熱安定性に乏しい(熱に弱い)
- 効果が長期間持続しない
- 抗菌スぺクトルが狭いものが多い(1種の薬剤で抗菌効果をだせる菌の種類が少ないものが多い。特定の菌に強い特化型が多い)
- 耐性菌が発現しやすい
分類 | 物質名 | 対象となる菌・微生物 | 最小発育阻止濃度(MIC 表記ない場合の単位はppm) | 形態、性状 |
---|---|---|---|---|
アルコール系抗菌剤 | エチルアルコール | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(5%)、大腸菌(5%)、アオカビ(5%) | 液体 |
チアゾリン系抗菌剤 | 2-n-オクチル-4-イソチアゾロン-3(スケーンM-8) | 細菌、真菌 | 枯草菌(2)、大腸菌(125)、クロコウジカビ(8)、カンジダ・アルビカンス(2) | 黄色液体 |
1, 2-ベンゾイソチアゾロン-3(BIT) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(8)、大腸菌(9)、クロコウジカビ(70)、カンジダ・アルビカンス(19) | 褐色粉末 | |
イミダゾール系抗菌剤 | 2-(4-チアゾリル)-ベンズイミダゾール(TBZ) | 真菌 | クロコウジカビ(10)、黒カビ(5)、蜘蛛の巣カビ(50) | 白色、淡黄色粉末 |
メチル-2-ベンズイミダゾールカーバメート(プリベントールBCM) | 真菌 | クロコウジカビ(10)、黒カビ(<1) | 白色、灰色粉末 | |
エステル系抗菌剤 | グリセロールラウレート(モノグリセリド) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(78)、大腸菌(5000)、緑膿菌(>1000)、カンジダ・アルビカンス(312) | 白色粉末 |
塩素系抗菌剤 | トリクロロイソシアヌル酸 | 細菌、真菌、ウイルス | 3%で殺菌効果(次亜塩素酸ナトリウムよりも強い) | 白色粉末 |
次亜塩素酸ナトリウム | 細菌、真菌、ウイルス | 0.3から1 ppm、3から5分で水の殺菌 | 水溶液 | |
過酸化物系抗菌剤 | 過酸化水素 | 細菌、真菌、細菌芽胞 | 35%ですべての微生物を殺滅 | 無色液体 |
二酸化塩素 | 細菌、真菌、細菌芽胞 | 5から10 ppm(細菌および真菌の最小致死濃度) | 無色液体 | |
過酢酸 | 細菌、真菌、細菌芽胞 | 35%ですべての微生物を殺滅 | 無色液体 | |
カルボン酸系抗菌剤 | ソルビン酸およびそのカリウム塩 | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(100)、大腸菌(100)、クロコウジカビ(500)、カンジダ・アルビカンス(50) | 白色粉末 |
カーバメート系抗菌剤 | 3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート(グライシカル) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(156)、大腸菌(100)、緑膿菌(625)、クロコウジカビ(5)、カンジダ・アルビカンス(39) | 白色粉末 |
スルファミド系抗菌剤 | N-ジクロロフルオロメチルチオ-N', N'-ジメチル-N-フェニルスルファミド(ジクロフルアニド) | カビ、藻 | 大腸菌(15)、クロコウジカビ(20)、黒カビ(5)、青カビ(6) | 白色粉末 |
N-ジクロロフルオロメチルチオ-N', N'-ジメチル-N-p-トリルスルファミド(トリフルアニド) | カビ、藻 | クロコウジカビ(20)、黒カビ(10) | 白色粉末 | |
第四アンモニウム塩系抗菌剤 | N-ラウリル-N, N-ジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンザルコニウム) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(15)、緑膿菌(5)、クロコウジカビ(625) | 淡黄色結晶性粉末 |
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド(DDAC) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(0.5)、緑膿菌(50)、大腸菌(5)、クロコウジカビ(5) | 結晶性粉末 | |
ヘキサデシルピリジニウムクロライド(CPC) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(15)、緑膿菌(64〜128)、クロコウジカビ(60)、カンジダ・アルビカンス(0.5) | 淡黄色結晶性粉末 | |
3, 3'-(2, 7-ジオキサオクタン)ビス(1-ドデシルピリジニウムブロマイド)(ハイジェニア) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(1.1)、緑膿菌(8.8)、大腸菌(2.1)、クロコウジカビ(2.5)、青カビ(1.0)、カンジダ・アルビカンス(3.1) | 結晶性粉末 | |
ビグアナイド系抗菌剤 | ビス(p-クロロフェニルジグアナイド)ヘキサンジグルコネート(グルコン酸クロルヘキシジン) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(0.5)、緑膿菌(5〜60)、大腸菌(1)、クロコウジカビ(200)、カンジダ・アルビカンス(10から20) | 無色水溶液 |
ポリ(ヘキサメチレンビグアナイド)ハイドロクロライド(PHMB) | 細菌、真菌、ウイルス | 黄色ブドウ球菌(10)、緑膿菌(100)、大腸菌(25)、クロコウジカビ(750)、カンジダ・アルビカンス(50) | 液体 | |
ピリジン系抗菌剤 | (2-ピリジルチオ-1-オキシド)ナトリウム(ナトリウムピリチオン) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(1)、大腸菌(8)、カンジダ・アルビカンス(4)、クロコウジカビ(2) | 褐色溶液 |
ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛(ジンクピリチオン) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(4)、大腸菌(16)、カンジダ・アルビカンス(0.25) | 灰白色粉末 | |
フェノール系抗菌剤 | 3-メチル-4-イソプロピルフェノール(ビオゾール) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(200)、大腸菌(100) | 白色結晶性粉末 |
4-クロロ-3, 5-ジメチルフェノール(PCMX) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(250)、大腸菌(1000)、カンジダ・アルビカンス(50) | 白色結晶性粉末 | |
3-メチル-4-クロロフェノール(PCMC) | 細菌、真菌 | 黄色ブドウ球菌(625)、大腸菌(1250) | 白色結晶性粉末 | |
ヨウ素系抗菌剤 | [(4-クロロジェノキシ)メチル]3-ヨード-2 プロビニルエーテル(IF1000) | 真菌 | クロコウジカビ(0.1)、青カビ(0.5)、トリコデルマ(0.1) | 淡黄色液体 |
固定化抗菌剤 | 3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド(DC-5700) | 細菌、真菌 | 緑膿菌(100)、大腸菌(100) | メタノール溶液 |
ハイブリッド系抗菌剤
ハイブリッド型の抗菌剤は上述した、有機系抗菌剤と無機系抗菌剤で使われる技術である「担体」に、金属などで抗菌効果のある無機素材を担持させるのではなく、かわりに有機系抗菌剤を担持させたものや、両者を併用しているものなどがあります。
無機系抗菌剤は、抗菌作用をもつ金属を、その入れ物となる担体へ載せて、徐放によって少しずつ抗菌作用を発揮するよう設計されていますが、ハイブリッド型もこの方式で、抗菌作用をもつ金属のかわりに種々の有機系抗菌剤を入れ物となる担体へ載せる設計です。
無機系は熱に強く、有機系は種類が豊富でわずかな量で細菌、真菌、ウイルスに対応可能という特徴があり、これを活用した技術です。プラスチックはそもそも成形時に熱をかけますので、その熱で有機系抗菌剤がだめになってしまうものがあります。また、耐光性に劣るものなど、薬剤の効果が外的条件に左右されるため、こうした点を補うのがハイブリッド系が狙う目的のひとつです。
また、有機系抗菌剤を無機系抗菌剤のように、徐々に効果を放出させる「徐放」の機能を持たせるためにハイブリッド型にするケースもあります。有機系の抗菌効果は、無機系と違い長期間は持続しませんが、その持続性を少しでも高める工夫と言えます。
天然物系抗菌剤
近年注目されているタイプの抗菌剤で、天然物以来で馴染みのある物質が多いですが、有機系抗菌剤と似た弱点を持ちます。ただし、安全性についてはこちらに軍配が上がります。
- 比較的安全性が高い
- 熱安定性に乏しい
- 効果が長期間持続しない
- 抗菌スぺクトルが狭いものが多い
- 耐性菌が発現しやすい
原料名称 | 含まれる化合物(抗菌成分) | 効果のある対象 | 最小発育阻止濃度(MIC)()は(μg/ml = ppm = mg/L) |
---|---|---|---|
ヒバ | β-ツヤブリシン(ヒノキチオール) | 細菌、真菌、担子菌 | 大腸菌(100)、緑膿菌(200)、黄色ブドウ球菌(100)、二ホンコウジカビ(25)、フザリウム(100)、オオウズラタケ(25)、カワラタケ(25) |
ホソバヤマジソ | チモール、カルバクロールの混合物 | 細菌、真菌 | 大腸菌(125)、緑膿菌(125)、黄色ブドウ球菌(125)、クロコウジカビ(125)、フザリウム(125)、オオウズラタケ(125) |
孟宗竹 | 2,6-ジメトキシキノン | 細菌、真菌 | 大腸菌(400)、緑膿菌(800)、黄色ブドウ球菌(200)、クロコウジカビ(800) |
わさび | アリルイソチオシアナート | 細菌、真菌 | 大腸菌(100)、黄色ブドウ球菌(100)、クロコウジカビ(>100) |
茶 | エピガロカテキン | 細菌 | 大腸菌(>1000)、黄色ブドウ球菌(150)、腸炎ビブリオ(300) |
茶 | テアフラビン | 細菌 | 大腸菌(>1000)、黄色ブドウ球菌(500)、腸炎ビブリオ(300) |
ホップ | ルブロン | 細菌 | 大腸菌(80)、エンテロコッカス・ファエカリス(12.5)、ラクトバチルス・プランタルム(55)、シュードモナス・フルオレッセンス(30) |
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