鉄鋼における不純物の影響
鉄鋼材は「生まれ」ともいえるその成分をコントロールする必要があるため、製造時に混入する不純物や非金属介在物についても制御する必要があり、これが適切にできないと製品に悪影響を及ぼします。それは例えば、鋼材の表面欠陥や内部欠陥という形で表出し、製品になった際に、外観だけでなく靭性、引張強度、降伏点といった強度に関するパラメータや耐食性、成形性・加工性といった性質にも影響を及ぼすことがあります。
- 鉄鋼における不純物の影響|目次
不純物となる非金属介在物の悪影響と対策
非金属介在物は、鉄鋼材料に混入してくる酸化物、窒化物、硫化物、炭化物といった非金属の物質の総称です。例えば、硫化物系介在物であるMnSが混入していると、機械的性質の劣化が起きることがあります。
また鋼材中に含まれる製番に、Al、Ti、Zr、Vなどが入っていると窒化物や炭化物の介在物が生成される場合がありこれらは疲労特性やクリープ特性の悪化の可能性が指摘されています。他にも、ケイ酸塩、アルミナ、globular oxideと呼ばれる球状化した酸化物、マンガンシリケート、鉄アルミナシリケート等が有害な介在物として知られます。これらが一定の大きさで固まっていると品質に悪影響を及ぼす場合があります。
不純物(介在物)は鋳造する際に鋼に上記の硫化物、炭化物、窒化物、酸化物等が巻き込まれることで表面欠陥、内部欠陥として入る現象ですが、製鉄所などの鉄鋼メーカーでの製造工程は大きく分けて以下の2つの対策が取られています。
- 1.溶鋼の清浄化:鋳造の前工程(精錬工程)で溶鋼中の酸化物を減らす対策
- 2.鋳造時の巻きこみ抑制:鋳造時の溶鋼の流れを制御し、酸化物が巻き込まれないよう鋳造条件の最適化を行う。
ただ、こうした非金属介在物はミルシート等では分からず、ミル側の品質管理に一任する形になります。
鋼材に含まれる元素が及ぼす影響
一方、鋼材の成分に含まれる元素自体も種類と量によって悪影響を及ぼすことが知られています。例えば、鉄スクラップを溶かして鋼材にする電炉(電気炉)での製鋼では、こうした不純物の除去技術が肝になります。
鉄スクラップに以下のような元素が含まれるとどのような影響があるか下表に例示します。
元素 | 鉄鋼材への影響 |
---|---|
銅 | 連続鋳造時や圧延時に表面に集積すると割れの要因に。 |
錫 | 銅と同様の悪影響で銅と共存するとさらに悪化。 |
ヒ素 | 銅よりも有害で、冷間加工性を悪化。割れを助長。 |
鉛 | 連続鋳造時の断裂トラブルの元になる。量が多いと酸化蒸発し作業者に著しく有害。炉底の耐火物を損傷させることがある。 |
リン | 鋼材のなかで偏析しやすい。鋼材を脆弱化させる。低温脆性」に寄与する有害元素の一つと考えられ、多く含有していると溶接性にも悪影響。通常、少ないほうが良質な鋼材。 |
硫黄、 ニッケル、 クロム、 モリブデン |
高温・低温延性を低下。鋼の溶接性を悪化させる。硫黄は快削性をあげるために意図的に添加している鋼種もある。意図的に規定量を添加する場合、ニッケルは耐熱性、耐食性向上、クロムは焼入れ性、耐摩耗性、耐熱性、耐食性、引張強度、焼き戻し時の軟化を抑える効果がある。 |
シリコン、 マンガン、 アルミ、 チタン、 ボロン |
溶解・製錬中には酸素と反応しスラグに取り込まれ除去される。シリコンは多すぎると、鋼材がもろくなる。耐熱性にも影響。マンガンは靭性に影響。多すぎても脆くなり、他の元素との組み合わせが重要。 |
亜鉛 | 精錬中に気化して除去されるが量が多すぎると気化熱損失、歩留まり損失。 |
スポンサーリンク