ばねとゴムの違い
バネとゴムはそれぞれ鋼と高分子材料という異なる材質から作られており材料レベルで見た場合、弾性の性質が違います。どちらの素材も力を加えると元に戻ろうとする性質を持ちますが、ゴムは材料自体に加えられた力を元に戻るためのエネルギーとして蓄える性質がありますが、ばねの材料となる鉄鋼材料や金属自体には加えられたエネルギーをためることができませんので、コイルばねのように螺旋形状に鋼線をまくことで「ねじり応力」 を発生させ小さな変形を集めてばね全体としてエネルギーの蓄積と放出を行うよう設計された製品になります。
- ばねとゴムの違い|目次
ゴムと金属は弾性の性質が違う
ゴムには、元に戻ろうとする性能のほか、衝撃や力を吸収する性能が備わっています。これを減衰性能といいます。また力が加わったとき、それを吸収して元に戻るためのエネルギーとして蓄えて使用することができますが、一定量力が力が失われます。これら性質から、粘弾性とゴム弾性を併せ持つという言い方もできます。粘性と弾性の双方を持ち、衝撃を吸収する性能は粘性、ばねのようにもとに戻ろうとする性能は弾性ということになります。
対して、金属は力が加わっても金属自体にはエネルギーを蓄えることができず、形状が変わってしまいます。前者のゴム弾性のことをエントロピー弾性といい、後者の金属での弾性のことをエンタルピー弾性または結晶弾性といいます。
鋼を加工したばねの特性として、復元力をもつ、固有の振動数をもつ、エネルギーの蓄積と放出ができるという三つの要素があり、これを三大特性ともいいます。例えば、コイルばねの場合、力が加わる方向があり(入力方向)、対応する振動数、つまり揺れの種類や周波数の帯域が製品ごとに決まっているので、外から加わる振動数よりも固有振動数をかなり小さく設計すれば振動を抑える用途にも使用できます。
一方、こうした振動軽減用途では、ゴムも多用されています。ゴムの場合、複数の周波数帯域に対応でき(いろいろな揺れの波に対応可)、振動の方向も多方向に対応できるという特徴があります。また、ばねが基本的にエネルギーを蓄積して放出するという機能を持つに対し、ゴムも同様の動きをしつつ、減衰性能によって力を吸収しますので、入力と出力を同じにするのではなく、入力に対して出力を抑えたいという用途に適しています。
ばねとゴムの使い分けと複合使用
実際に自動車が走行する際に、路面から受ける振動をどのように軽減して乗り心地をよくしているかという点から見ると、両者の役割の違いがよく見えてきます。以下サスペンション(懸架装置)の部分で見てみます。
上図のばね(コイルスプリング)の周辺をさらに細かく見てみましょう。下図のように車のサスペンションの部分には、ショックアブソーバー(ダンパーとも言います)、コイルスプリング、ストラットマウントが使われています。
この方式のサスペンション部位では、路面からタイヤが受ける大きな振動はばねに伝わりますが、そのばねも振動エネルギーがなくなるまで振動し続けますので、ばねを通じて車体に振動が伝わってしまいます。このため、このばねの振動を抑える目的でショックアブソーバーがつけられています。
ばねがあることで路面凹凸の衝撃をそのまま車体に伝えないようにするとともに、ばねが伸縮するときに発生する振動によって車体が揺れ続けてしまうのでそれを吸収するためにショックアブソーバーがついているという塩梅です。
さらにばねの上部にはストラットマウントという防振ゴム部品がつけられていますが、これはゴムによって異音や振動を車体に伝えないよう遮断する性能を持ちます。
方向が一定で大きな衝撃振動には「ばね」、揺れ続けるばねの振動にはショックアブソーバー(中にオイルが入っています)で制御し、細かい振動や騒音、多方向からの振動にはゴムで対処するという合わせ技で車体への振動や騒音を軽減しているということになります。
なお、車のエンジンからくる振動に対しては、ばねではなく、エンジンマウントと呼ばれる防振ゴム製品が使用されていますが、これはゴムの場合、直交する3つのばね主軸があり、ばね要素と減衰要素を併せ持つという性質から採用されています。
エンジンの振動は路面から受けるものと違い、車の速度によって変わってくるうえ、同一の周波数帯でも同時に低剛性と高減衰という相反する性質を両立させないといけないという難しさがあり、独自のゴム製品が開発されてきた歴史があります。
ゴムとばね鋼材の違い
以下に素材レベルでの違いの詳細を見ていきます。物理的性質を比較すると、ゴムと鋼のヤング率、比重、ポアソン比、弾性限界(可逆弾性領域)、損失係数は下表のように異なります。
比較項目 | ゴム | 鋼 |
---|---|---|
弾性タイプ | エントロピー弾性 | エンタルピー弾性 |
ヤング率(kgf/cm2) | 10から50 | 2,100,000 |
比重 | 1.05から1.20 | 7.86前後 |
ポアソン比 | 0.46から0.49 | 0.27 |
可逆弾性領域 | 約100%から300% | 約1%以下 |
損失係数(ロスファクター) | 0.05から0.3 | 約0.0003 |
前述した通り、弾性にはゴム弾性(エントロピー弾性)と結晶弾性(エンタルピー弾性)があり、前者は力が加わるとその力を吸収して元に戻るときにエネルギーとして蓄えることができる性質のもので、後者はエネルギーがためられず、変形や破壊に変換されてしまう性質のものです。
ヤング率の数字が大きいと、剛性があることになり、外から力が加わってもより変形しにくい材料ということになります。 ただしこれは変形のしにくさであって、破壊されにくいという意味ではありません。
可逆弾性領域は、力をくわえても元に戻る領域です。ゴムは300%変形(つまり3倍に引っ張っても)元に戻りますが、鋼の場合は、1%超えるような変形を加えると元に戻らなくなります。もちろん、ばねの場合は鋼を加工してこの弾性領域をかなりの幅で自由に設計できるようにした製品ですが、元の素材自体にはこのような違いがあるということになります。
損失係数とは減衰の大きさを表します。ロスファクターともいいます。減衰が大きいと共振倍率を小さくすることができるので、共振領域での振動を抑えることができます。共振とは、ある振動数の振動が外から加わった際、いっしょになって(大きく)振動することを意味します。これはなかなかイメージがつきにくいのですが、物体によって揺れることになる周波数(揺れの波)が違うので、建築物でたとえると、地震のタイプによって揺れ方が異なることがありますがこれは共振しているかどうかの違いでもあります。
損失係数はtanδで表され、動的バネ定数を静的バネ定数で割ったものです。
ゴム材料には高い減衰効果がある点が鉄鋼材との大きな違いです。ただし、減衰の大きさは静動比の大きさ、ゴムの耐久性にも影響するため、減衰だけを高めるというわけにもいきません。
鉄鋼材を加工して作る「ばね」自体には減衰性能が付与されていますが、前述の自動車のサスペンションの例からわかる通り、受けた力でしばらく振動を続けますので、それ自体が揺れの原因になります。したがって、さらに強い減衰性能を持つパーツと組み合わせて使われることになります。
スポンサーリンク