JISでのゴムの公差|ドイツ(VDE)、ISOとのゴム公差規格の比較
JISにおけるゴム公差とISOやドイツVDEの公差規格との比較についてまとめました。ゴム製品は成形した後に収縮やバリが発生する材料であるため、金属のような寸法公差をそのまま適用することが難しく、実務ではドイツ技術者協会(VDE)やISO 3320-1、JIS B 0405、各社の社内における独自規格が使い分けられています。ゴムの公差には長さ等の寸法のほか、ゴム硬度に関するものもあります。ゴムのみから構成される製品と、他の素材と組み合わせて作られる製品といった違いによっても図面上の公差指定にはバリエーションがあります。
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ゴムの公差表はなぜ使い分けられるのか
ゴム製品は未加硫の配合ゴムを金型に入れて加圧と加熱によって形を作っていく製法が取られます。熱を加えるのは加硫を進めるためですが、ゴムはこの加硫が終わると自由に形状を変えることができなくなります。
加硫が終わり、金型から製品を取り出して一定時間経過後、寸法を計測すると、図面と異なる寸法になるのは主としてゴムが時間経過とともに収縮するからですが、金型はこの収縮も見越して設計されています。寸法だけでなく、ゴムが持つ「ばね特性」も製造後の時間によって変化することが知られています。このように時間の経過でスペックが変動する製品であるということを念頭に置いておく必要があります。
同じ高分子材料でもあるプラスチックと比較しても、ゴムの成型品の収縮率は約1.5%〜3%前後と高めで、変動差のバラつきも大きいうえ、製造時に発生するバリの厚みでも寸法精度が変わってくるという性質があります。ゴムは製品形状や金型の種類によってはバリ発生をなくすことが困難な素材でもあります。バリの寸法も常時同一というわけにもいかないため、その分の寸法には狂いが出てきます。
一般にゴムは金型の取り数が少ないほど高精度のものができますが、収縮率のコントロールという面ではコンプレッション(圧縮成形)とインジェクション(射出成形)によっても影響する要素が異なってきます。圧縮成形が主として温度が収縮に影響するのに対し、射出成形はゴムを金型に注入する際の流動距離や流れ方向も影響する製法
ゴムの収縮の程度は、ゴムの種類や配合の違い、製品の形状、使用する金型の種類・設計、製造条件によっても変わってきます。ゴム製品の専門メーカーの場合、この辺りのデータを大量に持っていますので、図面通りの製品を作るには金型の寸法をどうしなければならないのかノウハウをもって設計に活かしています。ただし、これでも寸法が合わないということはあり、金型を修正、改修、微調整することは珍しいことではありません。寸検と呼ばれる寸法検査はその金型を使用して作った製品に対して行います。
このように、ゴム製品の場合、出せる精度に限界があることから、一般の普通公差表とは異なる前提で図面が描かれることが多いといえます。金属製品で使われる高い精度の公差をそのまま使うと図面通りのものが作れないといわれる理由はここにあります。
以下に代表的な3種類のゴムの公差表とその特徴を紹介していきます。
ドイツ技術者協会VDEによるゴム製品の寸法公差
VDEのゴム製品の公差はかなりの頻度で図面で見かけると思います。1級、2級、3級の3段階のレベルがあり、級が小さいほど精度が高くなります。運用のしやすい寸法公差で、次に紹介するISOほどには厳しくないという特徴があります。また、500mm以上の箇所については、パーセンテージで公差が定められます。
この規格での寸法公差を図面で指定する場合は、規格番号での指定ではなく、適用させたい級の公差表を図面そのものに記載することが多いといえます。というのも加工者がJIS規格とは違い、VDEの規格を手元に持っていない可能性も高いからです。
VDEにさらに手を加えた社内専用の公差規格を設けて運用している会社もあります。
また製品によっては、特段の精度がいる箇所は個別に公差を指定し、それ以外の部分でこの公差表を使うという運用もよくなされますので、ある部分だけの精度が極端に厳しいという設定がなされることもあります。
寸法区分(mm) | 1級(精級) | 2級(中級) | 3級(粗級) |
---|---|---|---|
0.3以上3未満 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.4 |
3以上6未満 | ±0.2 | ±0.4 | ±0.5 |
6以上10未満 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.6 |
10以上18未満 | ±0.3 | ±0.6 | ±0.8 |
18以上30未満 | ±0.4 | ±0.8 | ±1.0 |
30以上50未満 | ±0.5 | ±1.0 | ±1.5 |
50以上80未満 | ±0.6 | ±1.2 | ±2.0 |
80以上120未満 | ±0.7 | ±1.4 | ±2.5 |
120以上180未満 | ±0.8 | ±1.6 | ±3.0 |
180以上250未満 | ±1.0 | ±2.0 | ±4.0 |
250以上315未満 | ±1.2 | ±2.5 | ±5.0 |
315以上400未満 | ±1.5 | ±3.0 | ±6.0 |
400以上500未満 | ±1.8 | ±3.5 | ±7.0 |
500以上 | ±0.4% | ±0.8% | ±1.5% |
ISO 3302-1によるゴム製品の寸法公差
このISO規格では、ゴム製造時にバリの厚みや上型と下型、あるいは入れ子に接することで寸法が変わりやすい部分(C)とそうではない部分(F)によって公差のレベルを変えるという措置が取られています。つまり、バリの厚みや金型の変位により、影響を受けるゴム製品の箇所は、Cの基準を用いて少し公差がゆるくなるということです。
規格原文では以下のように定義されています。
- Fixed dimensions (F)
- Dimensions which are not affected by deforming influences like flash thickness or lateral displacement of different mould parts(upper and lower parts or cores).
- Closure dimensions (C)
- Dimensions which can be altered by variation in the flash thickness or lateral displacement of different mould parts.
また、ISOでのゴム製品の公差はClass M1からM4まであり、定義は次の通りです。つまり、製品に求められる寸法精度と、上記で述べた部位の組み合わせによって公差を使い分けることができます。M4は寸法精度が重要となる用途ではない為、CとFの区別がありません。
クラス | 対象品 |
---|---|
Class M1 | 精密成形品 |
Class M2 | M1に似た管理・制御が必要となる高品質成形品 |
Class M3 | 良品質成形品。 |
Class M4 | 寸法精度が重要とならない成形品。 |
精密成形品になると、高精度金型が必要な他、キャビティも増やせず、高コストになります。また検査自体のコストも上がるデメリットがあります。したがって、精度の高い公差を使うのであれば、その必要性を吟味の上、コストがあがることも念頭に置いて指定する必要があります。これは他の素材にも言えることではありますが、キャビティ(金型の取り数=1ショットで何個製品が取れるか)が増えせないということは、1つの金型で出せる生産能力が限られますので、例えば、精度が低くてもよければ金型1面で生産できるものが精度アップによって金型2面必要という具合に、1面で300万円近くすることもある金型がもう1面、あるいはさらに必要という事態になります。
ゴム硬度についても規格内に規定があり、ショア硬さAとIRHDのいずれも±5°となっています。ただし実務上、ゴム硬度はゴムの持つ他の種々のパラメータと密接な結びつきがあるため、この部分は別の公差を使用しているケースもあります。
バリの厚みについてもクラス分けがなされており、X0からX5の6段階に分類されています。
クラス | バリの最大厚(mm) | 内容 |
---|---|---|
X0 | 0 | バリなし(No flash) |
X1 | 0.1 | 精密バリ(Precision flash) |
X2 | 0.5 | 高精度バリ(Accurate flash) |
X3 | 1 | 通常バリ(Normal flash) |
X4 | 2 | 粗めのバリ(Rough flash) |
X5 | 制約なし | 精度不問(Non-critical) |
※パーティングラインのない箇所のみに適用可能。
なお、製品(公差指定箇所)の寸法によって公差の値が異なるのは他の規格と変わりませんが、指定範囲がVDEと違い、寸法の範囲が「超」と「以下」になっている点に注意が必要です。各寸法範囲の上限は未満ではなく、以下となりますのでその値までを含む区分になります。
寸法区分(mm) | Class M1 | Class M2 | Class M3 | Class M4 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
F(±) | C(±) | F(±) | C(±) | F(±) | C(±) | F&C(±) | |
0超(above) 4.0以下(up to and including) |
0.08 | 0.10 | 0.10 | 0.15 | 0.25 | 0.40 | 0.50 |
4.0超(above) 6.3以下(up to and including) |
0.10 | 0.12 | 0.15 | 0.20 | 0.25 | 0.40 | 0.50 |
6.3超(above) 10以下(up to and including) |
0.10 | 0.15 | 0.20 | 0.20 | 0.30 | 0.50 | 0.70 |
10超(above) 16以下(up to and including) |
0.15 | 0.20 | 0.20 | 0.25 | 0.40 | 0.60 | 0.80 |
16超(above) 25以下(up to and including) |
0.20 | 0.20 | 0.25 | 0.35 | 0.50 | 0.80 | 1.00 |
25超(above) 40以下(up to and including) |
0.20 | 0.25 | 0.35 | 0.40 | 0.60 | 1.00 | 1.30 |
40超(above) 63以下(up to and including) |
0.25 | 0.35 | 0.40 | 0.50 | 0.80 | 1.30 | 1.60 |
63超(above) 100以下(up to and including) |
0.35 | 0.40 | 0.50 | 0.70 | 1.00 | 1.60 | 2.00 |
100超(above) 160以下(up to and including) |
0.40 | 0.50 | 0.70 | 0.80 | 1.30 | 2.00 | 2.50 |
160超(above) | 0.3% | 0.4% | 0.5% | 0.7% | 0.8% | 1.3% | 1.5% |
JIS規格によるゴムの寸法公差
JISにはゴム製品専用の規格がないので、JIS B 0405が準用されることになりますが、表を見ての通り、金属等と同じ基準になるため精度がかなり高く、ゴムの場合、部位や加工方法、材質によっては実現が難しくなります。
ゴムとそれ以外の複合的な材質を使用している製品の場合、JIS規格の公差を図面全体では指定しており、ゴム製品の部分だけを個別指定で別の公差にするという方法も使われます。
基準となる寸法の区分 | 公差等級 | |||
---|---|---|---|---|
精級(f) | 中級(m) | 粗級(c) | 極粗級(v) | |
0.5以上3以下 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.2 | - |
3を超え6以下 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.3 | ±0.5 |
6を超え30以下 | ±0.1 | ±0.2 | ±0.5 | ±1 |
30を超え120以下 | ±0.15 | ±0.3 | ±0.8 | ±1.5 |
120を超え400以下 | ±0.2 | ±0.5 | ±1.2 | ±2.5 |
400を超え1000以下 | ±0.3 | ±0.8 | ±2 | ±4 |
1000を超え2000以下 | ±0.5 | ±1.2 | ±3 | ±6 |
2000を超え4000以下 | - | ±2 | ±4 | ±8 |
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