コンテナの荷崩れの原因と責任
コンテナ船やコンテナ内で発生した荷崩れの原因と責任は誰にあるのかという問題は、そのままダメージを被った製品の代金をだれに請求すればよいか、あるいは保険をかけている場合、保険求償できるのかといった点につながっていきます。このため、荷物を受け取る側にとっては常に大きな関心事の一つといえます。ここでは貨物の輸送を依頼する側、貨物を受け取る側の視点(つまり輸送業者や船会社・航空会社ではなく、メーカーや商社の視点)を中心に見ていきます。なお、荷崩れを英語ではcargo shifting、collapse of cargo等と表現します。
多発するコンテナでの荷崩れ事故
荷崩れによる製品のダメージというのはかなりの数となります。よしんば製品が使える状態であっても、コンテナ輸送で荷崩れが発生したという報告は、貿易をやっているとそれこそ日常茶飯事に発生する事象の一つです。コンテナは特にFCL(フルコン)であれば、出荷側で封止してから受け取り側で開梱するまでコンテナ自体が閉じられており、いわば1本のコンテナを貸し切りで使っているうえ、税関での検査目的以外で途中で扉があけられることもないので安全なはずです。それがなぜ荷崩れが起きてしまうのでしょうか。
まずコンテナにおける荷崩れというのは以下の2つがあります。
- 1.コンテナ船に山積みされているコンテナそのものが崩れて落下。中身にダメージを負う。あるいは海上に落下等で滅失。
- 2.コンテナを受け取って中身をあけてみたら、コンテナ内の荷物がぐちゃぐちゃになっていた。
1の結果として2になっていることもありますが、輸送では特に事故もない状態でもコンテナの中身が荷崩れして製品がダメになっていることは珍しいことではありません。
コンテナ船の荷崩れ事故が発生するとこのように大惨事になることがある。洋上に落ちたものは回収は絶望的。残ったものについても回収できたとしてコンテナ破損で海水浸入や中身の異常なダメージで使用できないことがほとんど。また納期が大幅に遅延するため、輸入実務では使えないものと考えたほうが良い。
着荷場所でコンテナを開梱(デバン)すると同時に中身が飛び出てきたケース。コンテナ内のパレタイズ、ラッシング・ショアリング不備が原因。
コンテナ荷崩れの原因
荷崩れの主な原因について上述の2パターンごとにまとめると下表の通りになります。
コンテナ船の荷崩れ | コンテナ内の荷崩れ |
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荷崩れの原因は大別すると、コンテナそのものを固定する船側での器具や設備、作業、天候といった問題と、出荷側でのコンテナの中への積み付け・製品梱包・貨物固縛や重量の問題とに分けることができます。このうち、シッパー(送り主)やコンサイニー(荷受)側で対処できるのは、コンテナの中の話だけです。コンテナが落下したというようなことに起因する中身の荷崩れとダメージは事前防止が困難です。
船舶とコンテナ同士はラッシングロッドやツイストロックで動かないよう固縛される。器具に破損や劣化なく正しく運用されていればある程度の揺れでは荷崩れ起こさない。
送り主側ではいかにコンテナのバンニング時に貨物を適切な状態で積み付け、ラッシングやショアリングで輸送中に中身の貨物が移動しないよう固縛するかという点が肝となります。
荷受側、つまり買い手側は契約の中で貨物破損の場合の責任範囲や内容をきちんと取り決めておきます。また、発注時にもコントロール可能なのであれば、コンテナがある程度貨物でうまりスカスカにならないよう注文する、といった点も重要となります。
コンテナ船で取られている荷崩れ防止策
まずコンテナ船というのは、下図のようにコンテナを山積みして運びます。大きなものだと20ftコンテナ10000本を超える貨物を積載しています。最大級のコンテナ船になると15000本近くのコンテナを積むことができます。コンテナ船の大きさを積み込めるコンテナの数で見るTEU(twenty-foot equivalent unit)という単位で見ることからも、いかに数を積み込めることが重要になる要素ということが見て取れます。
このように、コンテナ船の外観からも甲板に山積みされている様子が見て取れます。これはコンテナ同士がラッシングロッドと呼ばれる金属の棒をX字型にしてつなげてあり、山崩れを防ぐ安全機構が設けられています。
船の甲板だけでなく、下部の船倉にも金属で丈夫なラックが設けられており、その中に大量のコンテナが積み込まれています。甲板の上がオンデッキ、船倉がアンダーデッキとなります。
このようにコンテナは段積みしていくことが基本になりますが、コンテナが落下したり、ドミノ倒しのように崩れていかないよう、ツイストロックやミッドロックといった締結器具を使ってコンテナと甲板(船舶)を固定させて動かないようにし、ラッシングロッドと呼ばれる鋼のロッドを使ってコンテナ同士をつなげていきます。
海上では波の揺れがあり、これが特には予想を超えるものとなって船体が大きく傾くこともあります。こうした繰り返しにも耐えられるようラッシング作業が行われます。また輸送中もラッシングが緩んでいないか点検や、再度固縛をし直すということも実施されることがあります。
荷主側でとれる荷崩れへの対応策
こうした輸送環境においては、落下が起きてしまった場合はいかに費用を回収しビジネスへの悪影響を最小限にするかという視点での処理になりますが、製品を梱包しコンテナに積み付ける側では、コンテナ内における荷崩れ発生を防ぐ手立てはいくつかあります。逆に言えばこれらを講じていなければ、海上輸送における通常の揺れでも貨物が破損することがあるということになります。
コンテナ内における荷崩れ、主として出荷する側における梱包不備やパレタイズの不備、コンテナのラッシングやショアリングの不備が原因の場合、責任は本来出荷側にあることになります。ましてやFCL輸送の場合は、出荷側でコンテナを封止した後、税関で検査でもない限り、着荷側でコンテナをデバンニング(開梱)するまでは誰もコンテナを開けていないことになりますので、コンテナ落下などの外部要因がない限りは、通常の揺れの範囲として耐えうる梱包を行う必要があります。
保険をかけて破損時に保険会社へ求償を行うという場合は、契約上危険負担がどこで移転するか、という点がポイントなります。FOB港の条件なら、FOBで指定した港にて船に積み込むと、出荷した側は破損時の責任からは解放されます。
ただ、梱包に不備がある等もともとおかしいというような場合、保険会社からの保険金は通常支払われません。梱包不具合が要因で破損した場合、貨物海上保険で填補できない免責事由の一つとなります。
したがって、売り手と買い手の売買契約でどういう場合にどちらが責任を負うか、賠償方法含め明文化しておく必要があります。
コンテナ荷崩れの責任と費用請求
損害賠償できるかどうかというのは貿易取引の契約内容と、輸送業者と輸送にあたっての免責事項などを締結している運送人約款によるというのが実態です。
請求先 | 請求できるケース |
---|---|
輸送会社 | 運送人約款でその責任が認められている内容が発生した場合 |
輸出者 | 梱包の不備等が原因で契約であらかじめ責任負担を明確にしている場合 |
保険会社 | 保険契約を結んでおり梱包不備などの免責に該当しない場合 |
実際のところ、輸送業者・輸送会社に損害賠償を請求できることはかなり稀で、ほとんどのケースでは保険を使って費用請求を行います。というのも、輸送業者は「運送人約款」にて免責の条項を設けており、自身でコントロールできない危険・リスクによるコンテナ破損や荷崩れ、貨物破損については責任を負わないとしていることが多いためです。コンテナが海上で落とされてしまって、荷物そのものが届かなかったというような場合はさすがに輸送業者に責任があるのではとなりますが、実務上は保険で処理されることも多々あります。
定められた手順で安全にコンテナをラッシングして、固縛方法や輸送方法も適切に行っていた場合にコンテナ荷崩れが起きたとしても輸送業者(船会社)には責任はない、ということになります。
では荷崩れの責任が輸送業者に帰することができないならば、どこへ費用請求すべきなのでしょうか。
実務上はほとんど以下の2つのパターンになるかと思います。
- 1.トレードタームに則り保険会社へ保険求償する
- 2.出荷側での梱包に問題があった為、出荷側に製品の代替や請求費用減額を要求する、あるいは損害賠償請求する
誰が誰に請求することになるか
保険会社へ請求する場合
日本に輸入しているものでFOB上海のトレードタームで取引を行っていると仮定した場合、危険負担は上海港で船に積み込んだ時点で、売り手(出荷した側)から買い手へ移転します。つまり、事故等で何かあった場合の対応窓口もこれに則って移る、ということになります。上海港で船積みするまでに何か事故があったと証明できるのであれば、保険求償の手続きは売り手(出荷側)が行います。
一方、事故発生が証明できない場合でコンテナの着地で開梱してみたら貨物にダメージがあった、というような場合はほとんど輸入側で保険求償の手続きを行うことになります。ただし、これは保険契約の内容にもよるのですが、コンテナ内の梱包作業、ラッシング、ショアリングなどに不備がないことが条件となることが多いです。
出荷側が製品梱包、ショアリングやラッシングをきちんとしていたのに、異常な状態で貨物がコンテナ内で破損しているような場合は、輸送中の事故も疑うべきですが、梱包が甘くて壊れることもよくあることで、費用負担や保険会社を交えての交渉ではこの辺りもポイントになります。
実際、多くの保険契約では、梱包やバンニング、コンテナ内のラッシングやショアリングが輸出側で適切になされていなかったというような場合、保険会社へ請求ができません。契約でこうした場合の責任の取り決めがある場合、輸出側と責任として製品の無償代替や費用減額、費用請求などを行うことになります。
したがって、貨物の破損の責任、危険負担がどこからどこまでかというのは売買する相手方と契約でしっかり内容を合意しておき、保険会社との契約についても免責(こうした場合は保険での支払いができないという条件)が設けられているので、どういう場合に保険が支払われてどういう場合には支払われないのか理解したうえで貿易を行う必要があります。
輸出(出荷)側、つまり売り手へ請求する場合
これは取引契約でどういう場合に売り手に費用を支払わないか、あるいは損害賠償を請求するか、製品の無償代替を要求するかといったことを明文化してあからじめ締結しておく必要があります。
多くの売買契約、sales contractのなかでは貨物が着荷してから何日以内に中身の確認・検収を行い、指定された期日までに問題がない場合には費用を支払うといった条項を設けていることがあります。
これは着荷してから中身のダメージがあった場合、その費用を支払わないということを意味しています。さらに、具体的にどういう場合にどちらの責任になるかという点も条文で規定していることが多いです。
コンテナ貨物は荷量が多いので中身が全損すると被害総額も製品によってはかなりのものになりますので、事前の契約内容、事故発生時の責任区分や解決手順をよくよく細かく取り決めておく必要があります。
貨物にダメージがあり、そのことについて買い手と売り手で費用やり取りが合意された後は、製品を返却する場合や、無償代替品を送ってもらう場合、売り手から費用請求を行わず輸送代金も返却する場合など契約内容により様々な方法があります。
国際輸送に耐えうる安全な梱包を行うことを契約内で明記することも可能です。例えば、パッキングスタンダード(梱包仕様書)をあらかじめ、売り手と買い手で取り交わし、買い手の合意を経てからその梱包での出荷とする、といった方法です。こうした契約合意がある場合、買い手側で開梱したときにラッシングやショアリングを行っておらず、梱包仕様も守られておらず貨物が破損していたというような場合、売り手側が破損の原因を作ったわけですから、売り手の責任とするという考え方です。
こうした場合は、ラッシングやショアリングを行うことも契約に明記しておくか、梱包仕様の中に盛り込むようにします。梱包仕様書は、製品を直接梱包する方法だけでなく、そのパレタイズ方法やコンテナへの積み付けについても言及することは可能です。
ただし買い手としては、品質に問題がなく破損がないものが欲しいのであって、梱包が正しく行われていても破損したものが着荷したのでは意味がありませんので、契約内容としては、品質に適合するものを送ってくること、という点に的を絞った条項にすることも多々あります。
売り手としては、梱包は正しく行うので、トレードタームに則って危険負担が移転してくれれば、仮に輸送上のトラブルで製品が破損しても保険会社での処理になるため損害が発生しないという方法にメリットがあります。
どこまでの責任範囲になるかを契約でしっかり線引きしておく必要があります。
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