為替におけるTTB、TTS、TTMの違いと計算方法
銀行等の為替レートを見ると、TTB、TTS、TTM、ACC、A/S、CASH S、CASH B、D/P、D/Aといった項目それぞれで異なるレートが設定されており、これらの違いとどういう状況でどのレートを使って計算すればよいかを見ていきます。
為替レートの種類はなぜあるか
外貨通貨との両替を「為替」(かわせ)と呼びますが、このとき、例えば1ドルが何円に相当するかの換算に用いるレートすなわち通貨の交換比率が為替レートとなります。為替相場ともいいます。
二つの相場
外国通貨を取引する外国為替市場は、大きく分けるとインターバンク市場(銀行間取引)と、顧客市場の二つになります(顧客市場もさらに大口と小口とでレート等の扱いが分かれています)。顧客市場は、銀行が企業や個人等に対して売買する市場で、インターバンク市場(銀行間取引市場)は、銀行同士で売買する市場となります。顧客市場のレートは、インターバンク市場の為替レートを基準に設定されています。
為替レートも他の金融商品と同じく、売り買いの需給状況等に応じて常に変動していますが、これでは銀行窓口での為替業務や、企業間の取引でもやり取りが煩雑になってしまいます。そこで、銀行は毎朝9時55分のインターバンク市場のレートを基準に顧客市場のレートを決めています。これが仲値といわれるもので、TTM(対顧客電信相場仲値)と呼ばれる為替レートです。
1990年まではTTMは日本におけるすべての銀行で一律のレートを適用していましたが、それ以降については各銀行で独自に決めてよいことになっています。このため、銀行によって為替レートが異なることがあります。実際には三菱UFJ銀行のレートを基準としているところが多いようです。
TTB、TTS、TTMの違いと計算
このTTMを基準に、銀行のマージンや利益を含む手数料を上乗せ、差し引いたレートがTTS、TTBとなります。これは銀行側からみて、通貨を売る(つまり顧客が買う)ときのレートをTTS(対顧客電信売相場)と呼称し、反対に銀行が通貨を買うときのレート、つまり顧客が通貨を売るときの為替レートがTTB(対顧客電信買相場)となります。
為替レートは、大きく分けると銀行から見た場合に外貨通貨を売却するときのレートと、購入するレート、その間を取った基準レートの三つが存在することになります。この三つがそれぞれTTS、TTB、TTMとなるわけです。
( TTS + TTB )/2 = TTM の計算式が成り立ちます。
- TTM - 手数料 = TTB
- TTM + 手数料 = TTS
TTSとTTBの差はスプレッドと呼ばれます。通貨を売買して利益を出そうとするときには、このスプレッドが小さいほうが有利に働きます。
銀行ではなく、ユーザー、つまり外貨から円転を行う個人や企業サイドから見た場合、外貨を購入するときはTTSレートを使い、銀行にはTTMとTTSの差額の手数料を支払います。反対に外貨を売るときはTTBレートを使い、TTMとTTSの差額の手数料を支払います。
このように、外貨を売る場合と買う場合それぞれで手数料が加算されますので、為替レートに変動がまったくなくても、元本を割り込んでしまうことがあります。
TTM、TTS、TTB、A/S、ACC、CASH B、CASH Sのレート模式図
TTM、TTS、TTB、A/S、ACC、CASH B、CASH Sをチャートにすると、下図のようになります。TTMを中心として、TTS、TTBの対応関係は売り買いにあたって銀行の手数料分を足すか引くかしたレートになることがわかると思います。この三つのレートを軸に、さらに、A/Sレート、ACCレート、電信ではなく現金で通貨を売買するときのレートがありますが、いずれもTTSやTTMに所定の金利や管理費用などを上乗せしたものです。
TTM、TTS、TTB、A/S、ACC、D/P、D/A、CASH B、CASH Sのレートの意味
以下に、それぞれの為替レートが何を意味しているのか見ていきます。
- TTM Telegraphic Transfer Middle rate
- 金融機関が毎朝9時55分の為替レートを参考に決定するもので、対顧客電信相場仲値となります。このレートを基準に、実際の外貨売買のレートが決まります。単に、仲値ともいわれます。
- TTB Telegraphic Transfer Buying rate
- 銀行から見た対顧客電信買相場のこと。個人や企業サイドから見た場合、外貨を売る場合の為替レート。電信(wire transfer)のため、時間的な差は発生せず、純粋に銀行の手数料だけがTTMレートから差し引かれたレートになっています。
- TTS Telegraphic Transfer Selling rate
- 銀行から見た対顧客電信売相場のこと。個人や企業サイドから見た場合、外貨を買う場合の為替レート。銀行の手数料がTTMレートに加算されたレートになっています。
- ACC Acceptance rate
- 一覧払手形売決済相場。信用状付一覧払い輸入手形決済相場ともいい、手形の一種であるL/Cを使って銀行から先に円を受け取り、銀行はあとから外貨を回収するため、その期間の立替コストが加算されています。輸入のL/C決済時に使われるレートです。TTSレートに加えて、メールディ金利分のコストがさらにかかったレートとなります。
- A/S At Sight Buying rate
- 一覧払手形買相場。信用状付一覧払い輸出手形買相場。輸出でのL/C取引における手形買取を銀行に依頼する際に適用される為替レートです。理屈としてはACCと同様で、TTBレートからメールディ金利分が減算されたレートです。
- 換金までにユーザンスが設定されているユーザンスL/C(ユーザンス手形)を使う場合は、その期間、例えば30日なり、150日なりの利息がさらに差し引かれたレートが適用され、こちらの相場は、期限付き手形買相場、あるいは単にユーザンスとも呼ばれます。
- CASH S Cash Selling rate
- 現金売相場。個人・企業から見た場合の現金で外貨を買うときの相場となります。現金を送金・輸送するコストや、保管コスト、保険コスト等がかかる為、TTS、TTBよりレートは悪くなります。
- CASH B Cash Buying rate
- 現金買相場。個人・企業から見た場合の現金で外貨を売るときの相場となります。現金を送金・輸送するコストや、保管コスト、保険コスト等がかかる為、TTS、TTBよりレートは悪くなります。
- D/P Document against payment
- L/Cなし輸出手形買相場(信用状なし輸出支払条件渡し)。D/P決済のときに用いる手形の買い取るときの為替レートとなります。L/Cよりもさらに条件が悪くなりますので、at sightでのA/Sレートよりも悪くなります。
- D/A Document against acceptance
- L/Cなし輸出手形買相場(信用状なし輸出引受条件渡し)。D/A決済の際に使う手形を買い取る際の為替レートで、原則、D/Pと同じになります。
- メール期間金利(メールディ金利、メールデイ金利)
- これはL/Cを用いた決済の場合、銀行が外貨資金を回収するまでの間、一時的に立替払いを行うため、その際の立替期間(約12日とも言われます)に応じた金利を顧客に対して請求するものです。TTS、TTBレートに対して、このメールディ金利を加算・減算したものがACCレート、A/Sレートとなります。
売上計上や仕入計上等の経理処理ではどの為替レートを使うか
日本での企業活動においては、外貨建てで売買が成立して外貨での入金があった場合、あるいは外貨で出金処理する場合、日本円に換算して会計上の処理を行っていく必要がありますが、こうした場合にはどの為替レートを使うべきなのでしょうか。
原則は、売買が成立した取引を行った日のTTM(仲値)での為替レートを使って円貨に換算することになっています。とはいえ、実務上は取引のたびに異なる為替レートで計上していると煩雑になるため、一定のルールを設けて運用している企業が多いといえます。
これには継続適用といって、同じルールで運用し続けるという条件付ですが、例えば、前月末のレートを次月一ヶ月間適用する、あるいは前月の平均為替レートを次月に用いるといったルールで日本円への換算を行うといったことです。この際、銀行によって為替レートが異なりますが、主要取引金融機関のレートを使うといったルールも満たす必要があります。
勘定・科目 | 使用レート |
---|---|
売上その他の収益又は資産 | TTBレート |
仕入その他の費用又は負債 | TTSレート |
海外取引で利益をも左右する為替レート
海外取引において売買に用いる通貨を何にするかは利益に直結する非常に大きな検討項目のひとつで、日本円での売買とすれば、日本側の企業は為替変動による差損を考慮する必要がありません。反対に、差益の恩恵も受けられません。もっとも、このように自国側の通貨を用いての決済が可能な場合というのは、自国側がよほど有利な取引でないと話がまとまりません。
取引の回数や金額が大きくなると、わずかな差でも差が開いてしまうため、売買条件を海外企業と交渉する際にも妥協点が見つからないこともあります。資本関係のない企業同士の取引であれば、米ドルを決済通貨にするのが割りと一般的に見られますが、その場合、売り手、買い手のどちらも米国企業ではない場合、双方で為替差損・為替差益が発生することになります。為替予約等を行って、為替差損のリスクをヘッジすることが一般的に行われていますが、レートの変動で差損・差益が発生することに変わりはありませんので、海外取引においては重要検討項目のひとつといえます。
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