生産移管とは|生産移管の意味と目的、リスクや手順について
生産移管とは、「生産場所を移すこと」を意味します。つまりは、ある製品をつくる工場を変える、ということです。英語でいえば、「production transfer」や「transfer of production」となります。
生産移管の目的
生産移管の目的には様々なものがありますが、製造業である以上、その第一義には様々なコストを落とす、市場へのアクセスを向上させるといったものが主流となります。より製造コストの安い国や工場へ移す、というだけでなく、ある品目の生産拠点を一箇所に集約させることで、コストを下げるということもよく行われます。
ことグローバルな視野で見た場合の自動車業界について言えば、関税を低減させるため、為替変動に対応する為、何らかの補助金を得る為、あるいは逆に優遇税制が受けられるため、部材が安く調達できる、市場に近く供給が容易、顧客工場への近くで製造することが条件といったことが理由として挙げられます。これらはいずれもコストに大きく関わってくる要素の一つです。関税一つとっても、貿易協定をはじめとする特恵貿易の恩恵が受けられる国同士のどちらかに製造拠点を作れば、仮に、1台数百万の車に対して掛けられる関税コストがそのまま原価から浮くことになります。その費用はすぐに億単位となります。
あるいは、国によっては自国に自動車産業のような巨大な産業によって雇用と技術を取り込みたいという思惑から、自国に組み立て工場や生産工場をつくることを推進しようと、完成車の輸入に多くの税金をかけたり、自国での操業を行うメーカーに大きな優遇措置を講じたりする国もあります。
なぜ生産移管が必要か
企業がグローバル市場に対応する為、様々な国に製造拠点を持つことは珍しいことではなくなってきましたが、こうした動きの中で最適な場所で生産するということは、一度決めたらそこが常に最適というわけではなく、条件によって最適な場所が変わっていく点に昨今の自動車や自動車部品をはじめとするグローバル生産の特徴が現れています。
自動車部品のメーカーに限って言えば、自動車メーカーの海外進出に伴い、その近くに工場を構えることで海外進出してきたケースが多々見られますが、いざ現地工場での製造を開始しても、顧客側となる自動車メーカーも、コストや市場の要因から生産場所を多々変更します。また、当初想定していた通りの売上に満たないことはよくあることで、新規開拓の難しい分野の場合、グループ内で最適調達・最適生産の考え方を取り入れ、グループ会社間での取引を活発化させて、グローバルで見た場合のコスト低減をはかろうとする動きもあります。
つまり、自動車メーカーについていって現地で生産工場を作ったはいいが、当初の計画よりも売り上げが低く、工場の設備や人員が遊んでしまい、赤字化してしまう、という現象です。このため、そうした工場へ仕事をさせるために、近隣に作った工場から品目を生産移管させることで、黒字化を達成するよう動く例が多々あります。
自動車メーカーへ納品する立場のティアワン(ティア1)と呼ばれる大手自動車部品メーカーも、製造場所を変えることでコスト低減をはかる動きを加速させています。生産移管によって、どのようなコスト低減が可能か試算を行い、考えられるリスクを考慮して生産場所の変更が検討されますが、その多くが、原価低減活動によるものです。
生産移管の手順
生産移管の手順の第一は、まず各工場の負荷を調べた上で、移管元と移管先との製造コスト比較により、それがどの程度のコスト削減になるのか、またリスクがどのようなものかを洗い出すことになります。工場における人件費や動力費、材料調達費用など、国によっても、また各工場によっても違います。それらのコストを割り出します。
また工場は、設立した以上、負荷率は限りなく100%にしておくことが最も効率がよいですが(設備や人を遊ばせることなく、100%活用するということです)、売れないものを作り続けても仕方がないため、しばしば需要に応じて減産をはじめとする生産調整を行います。減産を行うことで、人の数を減らしたり、原材料の調達量を減らすといった調整を行う必要もありますが、工場の維持にかかるコストや導入済みの設備については使わずにいれば、単なるコストになってしまいます。こうしたことで負荷が下がっている工場では、何か作らせる必要があり、高負荷になっている工場から、仕事を移すということも視野に入れる必要があります。
移管による効果を算定したのち、社内の企画として立ち上げ、工程変更申請を行う必要があります。自動車部品を例にした場合、多くの場合、顧客となる自動車メーカーの承認が必要となります。品質管理や品質保証を行う部門から、工程変更の申請が顧客へ提出され、承認されることがまず必要です。この際、顧客側に何らかのメリットがある提案になることもあれば、サプライヤーの都合での申請となることもあります。
工程変更の承認が得られた後(実際には並行して動いていることが多いですが)、移管スケジュールが組まれます。設備をどのタイミングで移設するか、金型は新設するのか、旧工場から新工場へ移設するのか、生産に必要な部材の調達はどうするか、各工場での負荷の計算、新工場での人員確保と教育、客先への納入経路、納入荷姿の決定、また切り替わりのタイミングで、旧工場では生産ができなくなるため、あらかじめ作りだめをして在庫をしておき、新工場での生産品の在庫と若干オーバーラップするようにスケジュールが組まれます。
これは自動車部品の場合は、納品がほぼ毎日ある点や、欠品や遅延が起きると顧客生産ラインを止めてしまうことになるためです。金型や設備を旧生産拠点から新生産拠点へ移設する場合、これらを輸送するリードタイムと、新生産拠点でこれらを使用できる状態にするまでにトライアル生産を行い品質確認をとる必要があります。その間、顧客への供給が止まってしまうため、その分を旧工場側のほうであらかじめ作っておく必要があります。
旧生産拠点側では、材料や構成部品を無駄にしないよう、在庫をカウントしつつ最後の生産を行い、新生産拠点のほうでは生産を開始しつつ、いつの納入分から「切り替え」となるかを生産管理部門や営業部門等が間に入って試算を行います。切り替え時には、新しい生産拠点で製造した初回品がどの分かわかるよう、識別のためのラベルやエフがつけられ、客先への宣言書などの提出書類といっしょに納入されることが多いです。
生産移管はどこの部署があるのか|多岐にわたる担当部署
生産移管を実施する部署というのは、グローバルで見た場合、本社でコントロールしていることが多いですが、かかわる部署は多岐にわたります。現有設備をそのまま使う、いわゆる設備移管を伴わないようなものから、設備をごっそり移設する必要のあるものまで、そのレベルも多様です。製造、生産技術、購買・調達、生産管理、品質保証、営業といった部門が連携して実施していくことになります。
主管部署、つまり音頭をとって進める部署はどこか、ということになると社内事情に左右されることが多いです。たとえば、日本側で輸入して顧客に納入している場合で、海外の生産工場を変える、というような場合は調達している製品の生産移管になるため、購買部門、調達部門が主管となり案件を進めたり、取りまとめたりすることが多いでしょう。
一方で、海外拠点間での生産拠点で、現地客先へ納入しているというような場合、現地客先へ納入する側の拠点が主管となるというようなこともあります。
あるいは、原価を統括している部署が率先して動いているケースもあります。
生産移管のリスク
生産移管にも既にある工場間で生産品目を入れ替えるというものから、新たに工場を新設して、生産移管する例もあります。生産移管におけるリスクには種々のものが考えられますが、例えば為替変動に対応するために移管したとたんに、再度為替が大きく動いて、効果が得られなくなったというようなものや、気候条件や工場の微妙な違いからなかなか再現がうまくいかず、移管元と同じ品質を維持できなくなった、というようなことも考えられます。あるいは、顧客側からの受注が急減してしまい、設立した費用も回収できずに赤字が累積していく、というようなこともあり得ます。
また、新設工場の場合は、人員の確保も苦労します。国や地域に差はあれど、工場のラインで働く人員やスタッフ部門ともいわれる事務部門・管理部門の人員の双方を確保する必要がありますが、人の定着率はどこも低くなっており、人材の確保は簡単にはいきません。
また海外での工場設立や移管にあたっては、それぞれの国でのカントリーリスクがつきまといます。政変やテロもそうですし、暴動、電力などの動力源の供給が不安定になる、通関上の問題で部材がなかなか入ってこない、国同士が政治的に衝突し、国交が難しくなってしまう、為替が大きく変動する、経済情勢が大きく変化する、制度が大きく変わる、ストライキが頻発する、インフラ面での事故がよく起きる等々、枚挙に暇がありません。
工場を新規に立ち上げた場合で、うまくいかなければその設立コストがそのままマイナスとして計上されることになります。これが最大のリスクのひとつといえます。いっぽうで顧客への供給責任もあるため、自社の損失だけではすまない問題もはらんでいます。
すでに稼動している工場間で、特定の品目だけを生産移管した場合、まず問題となるリスクのひとつが「品質」です。製品の品質もさることながら、梱包時の欠品や不具合、輸送時の破損などがないよう管理していく「物流」分野の品質も低下することがあります。ある国の工場では当然のようにできていた事が、別の国の工場ではなかなか難しい、といったことが現実的にはよく起こります。
また、海外で生産したものを日本に輸入して顧客に納入していく、というような場合、旧工場と新工場とで生産された品目自体を納入する客先は変わりません。ところが、国が違えば、貿易にかかるリードタイムもトラブルの頻度や種類にも違いがあり、思うように調達が進まないこともあります。
こうしたリスクがある点をかんがみても、生産拠点を複数持つ製造業では、「生産移管」を検討することは頻繁にありいます。工場の負荷と、生産コスト、輸送コストの問題は常に変化するものである以上、グローバル市場を視野に入れつつ、頻繁に精査を行っていく必要が出てきています。
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