トヨタのSSAの意味とは
トヨタ用語のSSAとは、品質・性能適正化特別活動(Smart Standard Activity)を略したもので、トヨタが仕入れる部品の過剰品質を抑えるために同社が展開する活動です。
過剰品質を抑えるとは、あまりイメージがつかないかもしれませんが、端的に言えば品質・性能面では何ら問題のない部品であっても、図面に記載された通りのもの、あるいは記載されていないがそれを忖度して、実際にはまったく問題なく部品として使うことができるものも品質不具合で廃棄してしまっているものを救い出そうという品質上の限度緩和の一種です。
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性能・品質に問題がないが捨てているものが多数ある
トヨタの品質基準は市場からの信頼を勝ち得ている通り、数ある自動車メーカーの中でも特に厳格なものですが、実際には仕入先側で、品質・性能に影響はないが廃棄ややり直しが発生することで余分なコストがかかり、利益が十分に残らない、想定よりもコストがかかってしまっており価格にも転嫁できないという困りごとが以前からありました。
例えば、部品の寸法が図面通りでなければ、車両に組み付かずに明確な不良となりますが、表面についているわずかなスクラッチ傷や、組み立てに影響しない部分のバリなどがある場合はどうでしょうか。あるいは外から見えない部分の色むら、次工程で除去されてしまうことが分かっているのにわずかな錆がある、あるいはそもそも錆が品質に影響しないといった場合も同様です。
これに応える形で、トヨタと仕入先との間で、SSA対象リストを取り交わして、部品ごとに、この部品は錆があってもOK、バリがあってもOK、この程度のスクラッチ(傷)はOK等といったものを取り決め、使用できる部品の合格幅を広げて、仕入先の原価改善や生産効率向上に寄与する活動を展開しています。
要求仕様が分からないので忖度でも過剰品質になる
これは自動車部品のサプライチェーンの構造も一つの要因なのですが、一社ですべて部品を完結させて自動車メーカーに納入するということはあまりなく、二次請け、三次請けという具合に階層構造になっています。部品Aを作って自動車メーカーに納入するまでに、それに使う部品B、さらにそれに使う部品CやDを協力工場に生産させて一つの自動車部品が出来上がるというような仕組みがほとんどです。
こうなると、部品Aを直接自動車メーカーに納入するティア1と呼ばれる部品メーカーはある程度自動車メーカーの要求事項を理解しているとしても、その下の協力工場いわゆる下請先になると、品質上の要求事項は全か無かしかわかりません。
たとえばバリがここにあるのはOKなのかNGなのか判断がつきません。図面に指定があれば当然わずかでもバリがあればNGになりますし、図面に指定がなくても指示を受けている親事業者からバリなしと言われればそのように作らざるを得ず、何も書いてない場合も、品質のことを考えるなら「クレームがきても困るし、ないのが当然だろう」という憶測で過剰な基準を設定しがちです。
部品メーカーやその下請先にとっては、品質NGともなれば24時間納入工場や途中の倉庫へ出向いて自社で作ったもののNG品を選別して除外し、代替品を納入時間に間に合うように特急で仕上げてもっていかねばなりませんので、品質NGは非常にリスキーかつコストがかかります。もし品質NGが要因で代替品を時間までに用意できずに自動車の製造ラインを止めた、となってしまっては大損害が発生します。特にトヨタは在庫をほぼ持ちませんので、入ってこない部品があれば、そこで生産を止めることになります。
こうしたことを恐れて各階層ごとに忖度を繰り返していくと、部品の精度は過剰になりますのでコストがどんどん上がっていき、下手をしたら100個作っても半分しか合格しないというようなことにもなりかねません。自動車メーカーに直接納入するティア1がそのような工程能力(良品を作る能力)しかないと、量産納入を開始できませんが、そのメーカーの下請けや協力工場となるティア2やティア3、ティア4といったメーカーや内職者ではそういった制約もないので、生産効率や能力が落ちた状態で歩留まりが極めて悪い賃加工を継続してやっているということは珍しくありません。
発注元の親事業者が気が付いたり相談があったりして限度緩和を行う努力はしますが、すべては自動車メーカーからの承認が必要にもなるので、ティア1の品質保証担当が独断で決められる範囲はかなり限定的なものになります。
こうしたことを改善するために、トヨタの担当者が現物確認等まで行って過剰品質の限度を緩和する基準を部品ごとに決める活動がSSAです。下請けいじめ、仕入先いじめではないかとの指摘を受けることを緩和する狙いもあります。
緩和できる基準は複数ある
自動車部品に限りませんが、部品には必ず図面があり、図面で指定された通りのものを納入することになりますが、中には図面でそこまで指定する必要のない部分にも非常に厳格な基準が記載されているため、そのあとの工程や使用上にはまったく問題がなくても、その基準を満たさないがために不良として廃棄しないといけないという事例が実際には多く発生します。
あるいは、図面には明確に記載がないものの、部品メーカー側のほうでそうした基準を納入先に忖度して作り、はねてしまうこともあれば、納入先へ問い合わせたら記載がなくても守ってほしいといわれればその内容に合致する物しか納入できなくなります。
SSAによって納入できるようになるパターンは多種多様なものがありますが、例えば以下のようなもので承認を得られたものは納入可能となります。
- 表面のわずかな錆
- 表面の微細な傷
- バリが少しでも残っている
他の自動車メーカーの場合、こうした仕組みは持ちませんので、過剰品質を招いているものもある一方、はじめから図面にそこまで厳格な指定を行わない、品質基準を緩めることで防ぐ仕組みを持つところもありますが、錆などのは多くのメーカーで全か無かの判断となることがほとんどのため、自動車メーカーに聞くまでもなく、部品メーカー側で廃棄しているケースは多々あります。
バリについては、SSAのような取り組みがないため、設計担当や調達担当に持ち込み、個別に判断を仰ぎ、特採に近いような制度を使って納入するということが行われることもあります。
表面のわずかな傷というのも、塗装の持つ防錆効果に影響があるなら通常は問題ですが、そうではない微細なものでもNGとなると、輸送中にどうしてもついてしまうものもあり、梱包用の資材や荷材を使うことを考えるとかなりのコスト増になってしまいます。
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