自動車メーカーの稼働停止の影響
自動車メーカーが稼働停止するとサプライヤーにもその停止期間によって大きな影響が及ぶ場合があります。近年の大きな稼働停止としては、ダイハツの認証不正による稼働停止、トヨタディーゼルエンジンの認証試験不正、三菱の燃費不正、日野のエンジン認証不正による稼働停止、大雪などの天候、地震災害や火災事故に伴い特定の部品メーカーが被災し、部品が入らなくなることによる稼働停止、輸送網寸断による配送の影響、コンテナ不足により輸入部品や製品輸出に支障が出ている、半導体が不足している、特定の材料が入ってこない、特定の部材メーカーがFM宣言している、部材の生産ができなくなっている、発注システムがダウン、ハッカーによるシステムの乗っ取り、コロナ感染拡大により工場人員が確保できない等、枚挙に暇がありません。
小さなところだと、設備故障等や部品供給のトラブルでも停止しますが、個々の部材メーカーが要因の問題の場合、早期に自動車メーカーも再開に向けて介入する為、よほどの事故や災害等でない限り、あまり報道されることもありません。
- 自動車メーカーの稼働停止の影響|目次
自動車の生産が急に止まると何が起きるか
自動車メーカーの稼働停止の影響が大きいのは、取り扱う部品点数(取引先の多さ)、物量が多いほか(注文数の多さ)、納入が多回納入形式で、1時間単位や1日に何度か納入するパターンが多いこと(注文頻度の多さ)、納入までのリードタイムの短さに起因します。
自動車メーカー側のほうではあまり部品在庫を持ちませんので、その日やその時間に使用する分だけを時間指定で発注し、原則注文予定も内示によって事前にサプライヤーに出しておくため、各サプライヤーはそれに向けて準備や生産を行っています。部材の多くは1週間かそこらでは手に入らないものばかりで、3か月前〜6か月前から準備に入っているものもあります。
在庫を持たずに必要な分だけ、という大量注文と頻回納入が成立するためには、前もって内示情報により準備がされており、物が常時流れている必要があります。昨日の注文分がキャンセルによって出荷されずに残っていた、というような状況だと倉庫がたちまちパンクしてしまいます。物量が多いとそうした不測の事態のためのスペースを事前に確保しておくことがそもそもできないからです。
それが突然止まってしまうと、出荷によって次から次へと無くなることを前提としている在庫がたまりますので、「在庫置き場」がまずなくなります。そしてそれらを納入するのに使っている「箱」もリターナブルな通い箱を使いますので、こうした箱もなくなります。まるで多重衝突のような「大渋滞」が工場内、倉庫内、工場−倉庫間で発生します。時間単位で動いている在庫が出口で止まってしまうので、慌ててどこかで止めたとしても、あっという前に在庫の山が各所で出来上がっていきます。
サプライヤー側では在庫があふれかえり、箱が無くなりますが、材料や部品の購入は急に止められない為、それらも溢れかえってきます。また自動車のサプライチェーンの構造は自動車メーカーに直接納入するTier 1(ティアワン)からTier 1へ納入するTier 2、Tier 3と階層構造になっていますので、それら全メーカーで同様の現象が玉突きで発生していきます。
サプライヤー側のほうでまずやるのは、停止期間の見通しの確認と損害を最小限に食い止めるため、生産の停止、部材調達の停止交渉、あふれた在庫をどこか別の倉庫へ移送して品質が劣化しないよう保管しておく、といった措置を素早く講じることです。ただし、サプライヤーの中でも下請事業者に相当する会社の場合は下請法の保護を受けますので、そこへ発注している会社は自らその損害を被る必要があります。
また毎日作って、作った分だけを出荷することで成り立っている工場運営がたちゆかなくなるので、稼働停止していない他のラインに振り分けることができない場合は、工場の稼働停止や人員を休ませる等の措置を取る必要が出てきます。その際は労働組合との折衝も必要です。
国から休業補償を得られるケースもありますが、条件が適合しないと申請自体もできません。ただし多くのサプライヤーは一社に依存しているわけではなく、仕事が大きく減っても完全に工場や出荷場の操業を停止できない事情があり、非稼働日を作ろうと無理に動くとかえって残業や休日出勤が増えるという本末転倒な事態になることもあります。
逆に特定の自動車メーカーのみの仕事しかしていないサプライヤーの影響は甚大です。文字通り作るものがなくなるので、工場や会社にきてもやることがありません。早期に休業して損害を抑えつつ、経営層は資金繰りにも奔走することになります。
急には再開ができない自動車部品
自動車メーカーからサプライヤーへの注文形態は各社各様のところがありますが、受注した日の当日や翌日に出荷しないと間に合わないオーダーもあります。このため、再開に備えて最低限の在庫は確保しておかないといけませんが、いったん部材調達を止めて生産も止めると、今膠着している在庫がはけたあとに出荷するものが確保できませんので、それらを踏まえて日々情報収集に動くことになります。
この辺りはなかなかわかりにくいのですが、1週間分の在庫があったとしても、生産が一度止まり、その前工程の在庫がまばらになっていると、各工程や部材が入ってくるリードタイムを加味しないといけない為、1週間では納入再開できないということになります。仮にリードタイム不足で再開すると、稼働停止時に膠着していた在庫がなくなった後に、所定の数量を納入できなくなります。
これが理由で、多くの自動車メーカーでは大掛かりな稼働停止を行った場合、稼働再開にあたって対応可否や問題有無を各サプライヤーへ問い合わせ、確認してから発注・生産再開の動きを取ります。内示を完全に出しておかないと部材の準備もできなくなるため、再開の目途がたっていなかったとしても、内示だけは仮の数字を入れ続けているケースもあります。
こういうケースではサプライヤーは内示に基づいて準備だけしておき、出荷できずに損害が発生している場合は都度自動車メーカーへ対応を相談するという形をとっています。
発生原因
自動車メーカーの稼働停止にはおおむね類型があります。一般に理解されているリコールで停止するということは意外に稀です。リコールの場合、逆に部品の交換の為の特需が発生することがあります。これは問題を起こした部品だけを交換するのでは足りず、その部品を組み合わせて車に組み付けられるような部品の場合、NG品とは無関係の部品メーカーからも部品調達の必要があるためです。またリコールを出すということは所定の部品の供給目途が立たねばできないことなので、自動車メーカー側での組付け作業等がある場合は稼働を逆に増やすこともあります。
自動車は安全・環境に対する影響が大きい製品で、各メーカーが勝手に作って売るというようなものではなく、認証や認可に国が大きくかかわっています。このため、認証を得なければ基本、生産したり販売したりもできず、その項目が多岐にわたるため、納期や販売計画を優先すると思わぬ事態に発展することがあります。近年は特にメーカー内でブラックボックス化している部分の不正が明るみに出て問題となるケースが自動車に限らず多発しています。
サプライヤー目線では、品質に対する意識をしっかり持ちつつ、こうした不測の事態が起きた際にはいかに損害を軽減させるかといった対応策、BCP対応を対外的な見た目の形だけでなく実務に落とし込んだ形で運用できるようにしておくことが重要となっています。
災害や事故等による場合は、自動車メーカー、サプライヤーともに共通していますが、大きく違うのは車そのものの認証や認可にかかわる部分です。
自動車メーカー側の要因 | 部品メーカー・材料メーカー側の要因 |
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