包丁等にも使われるSLD鋼とは何か

2019年9月28日更新

SLD鋼は日立金属工具鋼が製造・販売する合金鋼で、JIS規格でのSKD11に相当する鋼です。これはダイス鋼とも呼ばれ、工業用のシャー刃、冷間金型、フォーミングロールにも使われる硬さや耐摩耗性を兼ね備えた鋼材です。ダイス鋼自体の加工は、CBNといった超砥粒が適しています。

SKD11は炭素量1.4から1.6%含有するため、高炭素鋼の部類になり、これに加えてクロムを11〜13%、バナジウム0.2から0.5%、モリブデン0.8から1.2%というのが基本組成となります。

SKD11の相当鋼となるSLD鋼の成分は、炭素1.5%、Si0.3%、Mn0.4%、Cr12%、Mo0.9%、V0.3%となっており、高炭素、高クロムに加えてモリブデンとバナジウムが添加されていることがわかります。

モリブデンは、焼入れ性、耐摩耗性、耐熱性、耐食性、引張強度の向上などに寄与することが知られており、バナジウムは耐摩耗性の向上に関与します。

焼き入れ性が良好であるため、熱処理により硬度を上げていくことができる鋼材です。

焼入れ後の変形が少なく、耐摩耗性の大きい鋼種であることから、高い精度の要求される金型はもちろん、シャー刃にも適しています。シャー刃は、鉄板の切断であるシャーリングに使う刃ですので、硬度に優れ、精度の高い刃である必要があり、こうした用途に適していることからも、強靭な合金鋼であることがわかります。

SLD鋼は、高級刃物や包丁の刃金の部分にも使われることがあります。包丁の刀身すべてをオールSLD鋼で作ってしまうのはコスト面や性能面で少々問題がありますが、芯材に相当する刃金の部分のみをSLD鋼にして、外側を錆に強いステンレス鋼で挟み込んだ複合材の形でよく使われます。

もともと鉄すら切断するダイス鋼ですので、その硬さや強度は折り紙つきであり、包丁に使われる場合、かなりの切れ味が発揮されます。ただし、ダイス鋼もクロムを含むといえども、オーステナイト系ステンレスのように錆には強くないため、扱いには注意が必要です。

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