包丁メーカーの一覧
日本には伝統技術の系譜を受け継ぐ包丁メーカー、刃物メーカーが新潟県の燕・三条や岐阜県の関市、大阪の堺市、兵庫県の三木市、高知県は香美市土佐山田などに集積しています。これらは日本の刃物名産地でもあります。高品質な包丁は世界でも評価が高いことで知られ、各社特徴のあるブランド展開を行っています。以下に包丁メーカーの一覧や包丁に使われる鋼材、選び方について見ていきます。
- 包丁メーカーの一覧|目次
包丁の名産地
国産の包丁の名産地や名品といわれる逸品を作る地域とブランドを表にまとめました。
名産地 | ルーツ・刃物名称・鋼材名 | 発祥・歴史 |
---|---|---|
新潟県の燕・三条 | 越後三条打刃物 | 江戸時代 |
岐阜県関市 | 関伝、関の刃物 | 鎌倉時代 |
大阪府堺市 | 堺打刃物 | 平安時代 |
兵庫県三木市 | 播州三木打刃物 | 古墳時代 |
高知県香美市 | 土佐打刃物 | 安土桃山時代 |
福井県越前市 | 越前打刃物 | 南北朝時代 |
島根県安来市 | 安来鋼(ヤスキハガネ) | 古墳時代に伝播 |
包丁と一口にいっても、日本製にこだわるメーカーや、求めやすさと品質のバランスをとるメーカー、地域独自の長い歴史を持つ鋼を改良した鋼材を使用するメーカー、斬新なデザインや未来志向にこだわるメーカー、職人が手作りするブランド、プロ仕様にこだわるメーカー等、多様な方向性を持ちます。
元来、日本刀自体が鋼材を精製する技術や鍛冶の高度な技術に裏打ちされたもので、諸外国の刃物と比較しても優れた性能を持つことはよく知られています。刃物の名産地というのは、こうした技術の系譜を伝統的に受け継ぎ、現代の技術も取り入れながら、刃物の製造・開発を継承してきた地域でもあります。そうした意味でも、包丁は日本の鋼材や鍛冶の技術力の高さを身近に感じられる製品ともいえます。
包丁の選び方
用途で選ぶ
まずは包丁の種類を選びます。和包丁、洋包丁の二大分類のほか、それぞれに細かく分かれています。用途によって使い分けることが想定されていますが、家庭用の包丁で何でも1本でこなすのであれば、三徳包丁や牛刀包丁がおすすめです。魚をおろすのであれば、和包丁のうち出刃包丁が活躍します。片刃で硬い骨や顎もすんなりきることができます。刺身をおいしく作るには、刺身包丁、フグ引包丁、タコ引包丁、野菜用には菜切包丁、薄刃包丁、中華料理には中華包丁といった具合です。
洋包丁であれば、骨についた肉をうまく削ぎ落とすには、骨スキ包丁、肉に筋を切るには筋切包丁、果物や野菜の面取りなど小さな作業用にはペティナイフ、汎用性が高くいろいろな用途に使うならば牛刀包丁が適しています。
調理する素材によって包丁を使い分けたほうが包丁自体の持ち味を活かせるだけでなく、長持ちします。たくさん持つのは負担という場合でも、骨や冷凍品、硬い食材を断ち切るのに使う包丁と、そうではないもので分けるだけでも刃こぼれや切れ味の持続の面では違いが出てきます。
本当によい包丁というのは使い捨てではありませんので、複数そろえて使い分けていくのがよい使い方といえます。
材質、鋼材で選ぶ
包丁の本体ともいえる「刃」を構成する、高付加価値の刃物鋼も日本メーカーのものは有名です。刃には切れ味、硬度、持ちのよさ、錆びにくさ、扱いやすさ、ねばり強さ(靭性)等、さまざまな性能が求められますが、どれか一点を高めればよいというものでもなく、これらのバランスをどこにとるかという点が重要となります。
包丁の刃は、鋼材が肝となる点は共通しており、よい鋼を選ぶ必要があります。ステンレス鋼が主流ですが、中でも刃物鋼として開発されているステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼には、合金元素と呼ばれる特殊な元素が鋼材に添加されていることがあり、オリジナルの鋼材にはない性能を引き出す工夫が凝らされています。
炭素鋼というのは、通常の「鋼」のことで平たく言えば鉄に炭素(カーボン)を添加したものです。鉄や鋼は「生まれ」となる成分とその後の熱処理や加工方法による「育ち」の二つによって性質が大きく変わる特徴があります。同じ材質の包丁で形状が一緒のものでも性能が異なるのはこのためです。
包丁に使われる鋼材というのは、他の用途に比べて硬さは必要となりますので、鋼としては硬いもの(熱処理によって硬くしたもの)が主流になります。
一口にステンレス鋼といっても主な刃物鋼として使われるステンレスだけで以下のように多様なものがあり、それぞれ硬さや錆びにくさ、ねばり強さ、耐摩耗性などが異なります
青鋼、白鋼と呼ばれる鋼材は、以下で言う青紙シリーズ、白紙シリーズのことになります。銀一鋼とも呼ばれるのは、銀紙1号のことで、いずれもヤスキハガネの流れを汲む日立金属の刃物鋼です。
刃物鋼の種類ごとの特徴についてはこちらの記事もご参考に。
鋼材の種類 | 主要な鋼材のブランド |
---|---|
ステンレス鋼 | SUS440シリーズ(440、SUS440A、SUS440B、SUS440C等)、モリブデンバナジウム鋼、V金1号、VG1、V金10号、コバルトスペシャル、VG10、AUS−10、AUS−7、AUS−8、銀紙1号、銀紙5号、銀紙3号、ATS34、ZDP189、スウェーデン鋼、INOX鋼、シャガール鋼、12C27、12C27M、13C26、19C27 |
合金鋼 | SLD鋼、青紙1号、青紙2号、青紙スーパー、O1 |
炭素鋼 | 白紙1号、白紙2号、白紙3号、黄紙2号 |
構造で選ぶ
包丁は、一つの種類の鋼材を鍛造して刃付けするというものもあれば、二種類、三種類の鋼材をはりあわせて使うものもあります。刃を断面で見た場合に、一層なのか、二層なのか、三層なのかという違いです。一層で構成されたものは、全鋼とも言われます。研ぐことによって末永く使えるメリットがある反面、どの鋼材にも強みと弱みがありますので、弱みの部分が出てしまうということはあります。
一般的には切れ味を追求すればするほど錆に対しては弱めになっていきます。また、硬さを追求しても同様です。同系統の鋼種でも、硬いものほど錆には弱く、ねばりや衝撃に対しては弱くなります。繊細で鋭利な切れ味を追求している包丁メーカーが、骨や冷凍品などの硬いものを切断するのは控えてほしいと但し書きしているのは、これが理由です。
なお、刃に独特の模様がつくダマスカス鋼を模したものについては、模様を構成する層と、ここでいう断面の層とは見る方向が逆になります。美しいダマスカス模様の部分は主として意匠にかかわる部分ですので、性能面については、刃の構造が断面で見たときどのようになっているか、という点に留意する必要があります。
全鋼か複合材か
二層や三層のものは、合わせ包丁、複合材とも呼ばれ、異なる種類の鋼材を一本の包丁に使いますので、さびに強い鋼種を外側に張り合わせ、内側の芯材には切れ味を重視している錆にはあまり強くない鋼種を使うというような設計ができます。また、高価な鋼材を芯の刃先部分だけに使うことでコストも抑えられます。
全鋼 | 一種類の鋼材で刀身が作られている。その鋼材の持つメリットもデメリットもすべて出てくる。メンテナンス、研ぎ方によって長いこと使える。硬度に優れたタイプなどは研ぐのに少々コツや力が必要。合金鋼等の一部では研ぎが難しくなる。 |
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複合材 | 一般的には二種類の鋼材をあわせて作られている。クラッド鋼、利器材、着鋼ともいう。二種の鋼材の組み合わせ方でそれぞれのデメリットを打ち消しメリットを享受することもできる。一般に、錆には全鋼に比べて弱くはなる。また割り込みの場合、刃金がなくなるまで研いでしまうと刃物の寿命が終わってしまう。 |
片刃と諸刃
片刃は、和包丁に多い刃の形状で、刺身などはもちろん、皮むきや薄切りでは特に威力を発揮する形状ですが、まっすぐに切断するには修練が必要とも言われ、プロに愛用されるタイプの刃です。魚の骨や顎を切断するのにも向く出刃包丁はこのタイプです。
片刃 | 食材の薄切りや皮むきに強い。切断面がきれいに仕上がる。食材がつきにくい。和包丁は片刃が基本。魚をさばくのに向いており大型魚はこのタイプでないときちんとさばく事が難しい。刃の方向が片方のため、垂直にまっすぐ切ることが難しい。右利き用と左利き用がある。研ぎ方にも少々コツが要る。 |
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諸刃、両刃 | 洋包丁は諸刃が多い。右利き、左利き関係なく使え、扱いやすい。垂直に切断するときの力は左右均等に入る。したがってまっすぐに切りやすい。これが理由で家庭用としては人気がある。昨今は切れ味の鋭い鋼材もあり、汎用性は高い。片刃に比べると刃の角度が若干広くなるものもあり、鋭利さでは及ばないところがある。 |
包丁の形状、握りやすさ|柄で選ぶ
素材を加工するには高度な技術が求められますが、使う人の手にしっくりする包丁をつくるのは、まさにこの加工技術のたまものです。また対象となる食材の調理のしやすさだけでなく、メンテナンスも容易であることは料理をするすべての人によって重要なポイントです。
いくら材質の品質が高く刃物の切れ味がよくても使うと手が痛い、重すぎる、軽すぎる、自分の料理や調理法で使いにくいといったデメリットが出てしまうと、自分にとってよい包丁とは言えなくなってしまいます。
昨今では人間工学を取り入れたデザインを行うメーカーもありますが、使いやすさ、握りやすさというのは侮れない点となります。包丁は柄を握って、引いたり押したりすることによって切断を行いますので、柄を持って動かした際に力がどのように伝わるかという点も切断には影響します。
サイズで選ぶ
包丁のサイズは大きければよいというものでもなく、家庭用であれば自分の手の大きさや扱いやすさで選ぶほうがよいでしょう。小さな包丁でも、極端に小さいということでなければ、ほとんどの料理で支障は出ません。ただ、食材が大きい場合は刃渡りが長いものが断然有利です。大きすぎると小回りは利きませんので、用途によって二種類持ったほうがよいということになります。今もっている包丁と比べて、小さいほうがよいか、大きいほうがよいかといった選び方もあります。
包丁のサイズの測り方
包丁のサイズの測り方というのは基本、ブレードの部分すなわち刃渡り、柄から出ている金属部位の全長で見ます。刀身の長さが包丁のサイズということになります。ただ、実際に切断できる刃の部位の長さのみでの測り方を採用しているのが、出刃包丁や鰻包丁です。
和包丁の場合、刃渡りの長さを尺(約300mm)、寸(約30mm)、分(約15mm)で測る慣習があるため、包丁のサイズがこれにあわせ、伝統的に30mm刻みや15mm刻みになっていることがあります。ただ昨今は和包丁、洋包丁、ナイフ類含め製造しているメーカーや工房が多く、サイズについてはこの刻みではないこともあります。
家庭用の三徳包丁だと、165mmから180mm前後のものが主流です。
サイズ(mm) | 尺貫法での名称(和包丁でのサイズ) |
---|---|
90 | 三寸 |
105 | 三寸五分 |
120 | 四寸 |
135 | 四寸五分 |
150 | 五寸 |
165 | 五寸五分 |
180 | 六寸 |
195 | 六寸五分 |
210 | 七寸 |
240 | 八寸 |
270 | 九寸 |
300 | 一尺 |
包丁メーカーの一覧
以下、主要な刃物の名産地ごとに包丁メーカー、ブランドをご紹介いたします。
- 下村工業
- 新潟県三条市にある調理・精密刃物メーカー。140年以上前から続く三条刃物鍛冶としての創業の歴史を持つ。職人の手による水研ぎ刃付け、オールステンレスのヴェルダンや、本研ぎ水砥刃付の角馬、コバルトを配合した高品質刃物鋼V金10号を使用し軟質と硬質のステンレスを交互に鍛造したダマスカス紋様を持つUN-RYU等の包丁のラインナップがある。
- 吉田金属工業
- 1954年に新潟県燕・三条地区の地場産業である洋食器メーカーとして出発。グローバルのブランドを持つ包丁メーカー。1960年、刀身がステンレス製の「文明銀丁」を上市、以降GLOBALシリーズを全世界に発売。 モリブデン、バナジウムを含むステンレス鋼を刀身に採用。刀身から柄にいたるまでオールステンレスで錆に強く、美しく握りやすい流線型をしたフォルムを持つ包丁。
- 藤次郎
- 新潟県燕市の包丁メーカーで、「抜き刃物」の技術に特徴。日本でも数少ない一貫製造の包丁メーカー。使用する鋼材も豊富で、ラインナップは多岐にわたる。芯材にコバルト合金鋼を用い、側面を耐食性に優れたステンレス鋼で挟む複合材を使用したラインナップが多い。
- パール金属
- 新潟県三条市に本社を構える1967年の設立のキッチン用品メーカー。広範なハウスウェアをラインナップに持つが、包丁としてはダマスカス調からオールステンレスまで毘光、毘剣、毘響、毘雄、毘嵐といったシリーズがある。
- タダフサ
- 新潟県は三条に工房をかまえる包丁工房タダフサ。薄く繊細に研ぎ上げている点に特徴。芯材(合材)に青紙鋼やSLD鋼(ダイス鋼)といった強靭な合金鋼を用いており、芯の両サイドをステンレスで包む複合材を主に使用。
- 貝印
- 岐阜県関市で創業したナイフメーカーをルーツに持ち、キッチン用品、菓子用品等も手がける総合刃物メーカー。全世界で500万本以上売り上げた「旬」や、刀匠 金子孫六氏による「関孫六」といった高級ラインの包丁を上市。
- スミカマ
- 岐阜県関市の包丁メーカー。関市は室町時代には刀匠が300人を超えたとされる土地柄。「折れず、曲がらず、よく切れる」といわれた関の刀は700年の歴史を持つ。霞KASUMIブランドで、ダマスカス鋼やチタンコーティング、VG10を無垢材として刀身に100%用いたVG−10 PROシリーズ等を展開。斬新なデザイン・色合いの包丁も上市。
- ミソノ刃物
- 岐阜県関市に本社・工場を構える包丁の専門メーカー。使用している鋼種名を冠した、UX10、440、440PH、モリブデン鋼、EUカーボン鋼シリーズ等がある。刀身に使用鋼材名が記載されている。
- 實光
- 大阪は堺で刃物を120年作り続ける料理包丁の専門メーカー。ショールームも展開。切れることはもちろん、切れ味の持続を探求したラインナップを持つ。
- 堺刀司
- 堺刃物を製造する包丁メーカー。堺刃物は600年の伝統を持つ伝統の調理器具。包丁の種類は一通り揃い、鋼材のバリエーションも豊富。プロの料理人からも信頼が厚い。
- 河村刃物
- 創業1926年の大阪堺の包丁メーカーで、堺菊守 重陽シリーズを展開。プロの料理人の声を細部にまで反映し使いやすさを追求、火造りから研ぎまで一流の職人が丹精込めて作り上げる。
- 龍泉刃物
- 越前打刃物で知られる福井県越前市の刃物メーカー。越前打刃物は、1337年(南北朝時代)京都の刀匠千代鶴国安が刀剣制作に適した地を求め、府中(現越前市)に来住したことを契機に根付いたとされ、長い歴史を持つ。
- 三木刃物製作所
- 創業70年を超える兵庫県三木市の刃物メーカーの老舗。三木市の刃物は、播州三木打刃物とも呼ばれる伝統工芸品としての指定も受けている。16世紀末頃、金物の町として発展を遂げる。
- 三寿ゞ刃物製作所
- 創業昭和21年以来、兵庫県三木市で本職も納得する最上級の切れ味と価格を両立させた庖丁を製造。播州三木打刃物の発祥は、5世紀の百済からの技術渡来にまで遡るとされる。
- 土佐刃物流通センター
- 400年にも及ぶ歴史のある土佐打刃物。柳刃包丁や出刃包丁で定評がある。土佐刃物は素材・製法において条件を満たす必要がある。鉄、炭素鋼を素材とし、鎚打ちにより打ち延ばし及び打ち広げをすることにより行うことを旨とする。鎌、包丁、鉈及び柄鎌の焼入れは、「泥塗り」を行い急冷するといった伝統製法。歪取り、刃付け、研ぎ、仕上げは、手作業。柄は木製。
- ツヴィリング J.A. ヘンケルス
- ドイツ発祥の老舗刃物メーカー。1731年に遡る伝統あるブランド。双子マークで知られるツヴィリングブランド、一人マークのヘンケルスブランドで有名。
- 柳宗理
- 著名な工業デザイナー柳宗理氏デザインのキッチンウェアシリーズ。佐藤商事による企画製造、共同開発の製品。包丁としては、モリブデン・バナジウム鋼がメイン。
- 京セラ
- 幅広い事業領域を持つが、元々高度なファインセラミックスの技術を持ち、セラミック包丁を製品化している。セラミックスは金属を凌駕する硬さを持つが、靭性(ねばり)にかけるため、割れや欠けの面では注意が必要。
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