炭素鋼と合金鋼の違いと使い分け
機械部品や構造物、建造物などに使う鋼として、炭素鋼を使ったらよいのか、合金鋼を使ったらよいのか迷うことがあるかもしれません。規格では、機械構造用として炭素鋼と合金鋼の双方が規定されていますが、双方に用途の指定がされているわけではなく、コストを見れば、炭素鋼を使ったほうがよいということになりますが、強度や硬度をはじめとする物理的性質や、各種耐性も気になるところです。
炭素鋼も合金鋼も、実用上は熱処理することで表面硬度、強度を上げて使うことが一般的で、生材をそのまま使うことはあまりないでしょう。
焼入れや焼き戻しといった調質を行った場合、鋼の物理的な性質は硬度に大きく依存することになります。極論すると、炭素鋼、合金鋼のそれぞれについて多数の鋼種が存在し、各々炭素量の大小はありますが、調質後に同じ程度の硬さであれば、細かい鋼材の種類については機械的な性質について大きな違いは出てきません。
こう書くと語弊があるかもしれませんが、通常の焼き入れ、焼き戻しの条件で熱処理した場合、たしかに合金鋼に分類される鋼材のほうが優れた機械的強度を持ちますが、これらは合金鋼に添加されている合金元素によるものというよりは、鋼材そのものの硬さに比例した値ということになります。
というのも、炭素鋼も合金鋼も硬度が同じになるように熱処理した場合は、引張強さや降伏点といった機械的強度を示す指標に大きな違いは出てきません。
そしてこの硬度というのは、炭素に最も影響されるパラメータであるため、炭素含有量の多いものがより強度に優れた鋼材ということになってしまいます。実際、小型の部品であれば、高価な合金鋼よりも、炭素鋼で同等の強度を出すこともできてしまうため、炭素鋼に軍配が上がることもあります。
但し、これが部品が大きな寸法となれば話が変わってきます。炭素含有量が多い鋼材が同じように焼入れ性がよければ結果として硬度は大差ありませんが、焼き入れは鋼材の大きさによって効果が異なってきます。これを質量効果と言いますが、部品が大きなものだとより焼入れ性の優れたものが結果として硬度が高くなるため、こうした点も考慮の必要があります。
合金鋼、炭素鋼では、よく焼きが入ったものは、焼入れが十分に入らなかったものに比べて、疲労強度、耐衝撃、伸び、絞り、降伏点といった強度面で優れる傾向にあります。
このため、大型の部材に使う場合は、焼入れがしやすい、焼入れ性のよいものが適していることになります。
− | 炭素鋼 | 合金鋼 |
---|---|---|
特徴 | 0.6%以下の範囲で廉価で幅広い炭素含有量をもつ鋼種が存在する。汎用性が高く、市場でも入手しやすい。 | 種類によっては高価。部品の大きさによって焼入れ性の良し悪しが変わってくる現象である「質量効果」の影響が小さい。したがって、大きな部品、部材について有効。 |
主な鋼種 | S20C, S30C, S45C、S50C, S55C,S60C,S65Cなど | SCM435(クロムモリブデン鋼), SCM415, SCM440, SCr440(クロム鋼), SNCM439(ニッケルクロムモリブデン鋼), SNC836(ニッケルクロム鋼)など。 |
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