銀鋼とは何か|銀紙鋼、銀紙1号、銀紙3号、銀紙5号

2019年10月13日更新

銀鋼とは、日立金属が開発した刃物に特に適したステンレス鋼である銀シリーズの俗称で、銀1、銀3、銀5があります。同社のステンレス鋼系の高級刃物鋼としては、他にATS34やZDP189があります。銀シリーズは、同社の開発した刃物鋼である青紙、白紙に習い、銀紙と巷では呼称することもあります。

刃物鋼に向いたステンレスはマルテンサイト系

ステンレスとはクロムを12%以上含有する鋼のことで、特殊鋼の一種となります。この定義にはいくつかあり、ステンレスはクロムを10.5%以上含有しており、炭素量1.2%以下のものという言い方もできます。いずれにおいてもクロムが鍵となっているのは、この元素が耐食性の向上、つまり錆びにくさに寄与する元素だからです。

ステンレスにも多種多様な種類があり、系統としては5系統の種類がありますが、高級な刃物鋼として使われるステンレスは、マルテンサイト系ステンレスが主流となります。これは焼き入れにより硬度をあげることができることが刃物に向いている最大の理由です。ただし、硬さと引き換えに、他のステンレスに比べると錆びにくさの面である耐食性ではやや劣る傾向があります。

一部モリブデンが合金元素として添加されていますが、この元素はクロムとともに鋼の高温強度を高める性能を持ちます。また焼き入れ性を向上させつつ、焼き戻しの際の軟化や脆化を防ぐ効能も発揮します。モリブデンの効果は他に、溶接割れの防止、降伏点を高める、18-8ステンレスにモリブデンを添加すると耐食性がさらに増すことも指摘されています。

銀鋼=銀紙=銀シリーズの位置付け

この銀シリーズは、マルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS420系(JIS規格:SUS420J1SUS420J2)を出発材料として、銀5を起点として改良されている鋼種です。銀5はカミソリの替え刃として使われています。これら銀鋼とも呼ばれるシリーズはSUS440にも比肩する高炭素のステンレス鋼となります。

ステンレスに求める性能としては、第一にやはり耐食性という面が強く、銀1もしくは銀紙1号等と称呼されるグレードでは、クロムの増加とモリブデンの添加によりこれを果たしています。

一方で、合金鋼に対して硬さで劣るというわけにもいかず、硬度と耐磨耗性を高める進化も遂げています。銀3は炭素鋼に匹敵する硬度を実現しています。

刃物鋼の分野で注目を浴びているATS34や粉末冶金の技術を取り入たZDP189といった鋼種は、耐食性を大きく損なわず、この硬度を飛躍的に高めたステンレス系の鋼材です。高級刃物、ナイフ、包丁等、付加価値を高めたい用途で人気の鋼種で、ZDP189は、67HRC以上の硬度を持つステンレス系鋼材です。

銀紙、銀鋼

銀鋼、銀紙、銀シリーズの成分と硬度

銀シリーズの成分は高炭素量のステンレス鋼と類似します。

銀鋼、銀紙、銀シリーズの成分と硬度
鋼の種類 化学成分(%) 硬度
C Si Mn P S Cr Mo 焼き鈍し(HB) 焼き戻し(HRC)
銀1 0.80から0.90 0.35以下 0.45から0.75 0.030以下 0.020以下 15.00から17.00 0.30から0.50 272以下 57以上
銀3 0.90から1.10 0.35以下 0.60から1.00 0.030以下 0.020以下 13.00から14.50 - 272以下 59以上
銀5 0.60から0.70 0.35以下 0.60から0.80 0.030以下 0.020以下 12.50から13.50 - 272以下 57以上

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