鉄の錆の種類と成分、化学式について|鉄錆が発生するメカニズム
鉄や鉄鋼には大きく分けると赤錆、黒錆が見られますが(稀に白錆、緑錆)、その成分を見ると錆にも複数の種類があることがわかります。どの錆の化学式にも、Feが入っていることは確かなのですが、同じ赤錆であっても、どの段階の錆なのか、その素性や化学式が異なり、また錆のある部分を取り出すと、その部分に複数の種類の錆が混在していることが多々あります。
また、錆の成分の難しいところは、組成は同じでも結晶の形が違うものが多数ある点です。一般に、こうしたものは同質多形、同質異像と呼ばれたりしますが、組成が同じため、鉱石名で呼んで区別しています。
錆とは、腐食によって作られた「腐食生成物」のことで、腐食が進んでいけば錆が作られるということになります。この錆自体は、もともとの金属と、各種イオンが反応し、酸素と結びついたり、失われたりすることによって作られていきますが、その生成過程は、一方通行ではなく、複数の方法・ルートを行ったり来たりすることもあります。わかりやすい例で言えば、鉄の赤錆と黒錆は、最初から最後までどちらかだけということもあれば、赤錆から黒錆、黒錆から赤錆へ変化することもあります。また同じ赤錆にも段階や結晶形の違いによっていくつかの種類があることが知られています。
つまり、鉄の赤錆だからといって、単一の種類の錆だけが出ているというわけではないということになります。
さらにいえば、今日、鉄は製品や部品、様々な物品に使われていますが、その種類も多くなってきています。純粋なFeとして使われる「純鉄」は逆に用途としては珍しいくらいです。
一般には炭素を加えて強度や硬度を上げた「炭素鋼」の形で使われ、さらに合金を添加することで炭素鋼では持ち得なかった性能をもつ「合金鋼」や耐熱性や耐候性、耐食性を持たせた「特殊鋼」(錆びにくいことで知られるステンレスもこの一種です)などがあります。鋼ではなく、鉄としては鋳鉄の形でもよく使われます。
鉄鋼製品が置かれた環境だけでなく、こうした素材のもつ組成や特徴によっても錆の出方やその成分に違いが出ることがあります。
鉄錆が発生するメカニズム
一般的な環境である大気中や、水中などで鉄や鉄鋼材料が錆びていくメカニズムは次のようなものです。
錆は水酸化鉄からオキシ水酸化鉄、酸化鉄へと変化する
まずは、鉄の表面にて水酸化第一鉄と呼ばれる腐食生成物が作られます。これは鉄イオンと水酸化物イオンが反応してできるといわれるもので、色も白色から緑色をしています。この物質は非常に酸化されやすいため、すぐさま水酸化第二鉄に変わってしまいます。この水酸化第二鉄がさらに結晶化してオキシ水酸化鉄となり、これらが脱水すればさらに酸化第二鉄であるヘマタイトになり、還元すれば、黒錆である四酸化三鉄に変わっていくというサイクルです。
- 水酸化第一鉄→水酸化第二鉄→オキシ水酸化鉄→四酸化三鉄→酸化第二鉄
- 水酸化第一鉄→水酸化第二鉄→オキシ水酸化鉄→酸化第二鉄
ある錆を見た場合、どれかひとつの錆だけが残っているというよりは、上記のように進行する様々な過程の錆びがいずれも残っているというほうが正確かもしれません。
なお、新品時には銀色だったフライパンや中華なべ等を高温で熱し、表面を黒くすることで錆びに強いものにすることができますが、これは表面を高温酸化させることで、黒錆を意図的につくりだし、その黒錆で鉄表面を酸化膜にてコーティングして錆から守ろうとする発想です。この黒錆は酸化スケールともいい、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄によって生成されたものです。このように、高温に熱することで意図的に作ることができる錆もあります。ちなみにこの黒錆は良性のものであるため、錆びの進行を逆に防いでくれる効果があります。
鉄に見られる錆の種類と成分、化学式の一覧
以下、鉄や鉄鋼が腐食した際にできる錆の種類ごとの特徴と、錆の成分と化学式について見ていきます。
水酸化鉄
鉄や鋼においては、最初にできる錆がこの水酸化鉄のうち、水酸化第一鉄です。初期は白色や緑色とされていますが、空気に触れるとすぐに赤へ変色するため、錆瘤のなかを割ってみると、稀に緑錆やグリーンラストと呼ばれる緑色の状態の錆を見ることができることがあります。
水酸化第一鉄が酸化すると、赤色の水酸化第二鉄となりますので、初期の赤錆はこの水酸化第二鉄と呼ばれるものとなります。
オキシ水酸化鉄
最初の赤錆ともいえる水酸化第二鉄が結晶化したもので、ゲーサイト、アカガネイト、レピドクロサイトといった鉱物名でも呼ばれる錆です。一般には非晶質の状態で観察されます。
下表にあるとおり、アルファ、ベータ、ガンマの結晶形の違う3つのタイプは、いずれも色がそれぞれ異なり、これらが混ざり合っていることもありますので、鉄の錆が一様に「赤錆」といわれる赤褐色だけでないのは、これが理由です。
酸化鉄
上記のオキシ水酸化鉄が、酸化鉄に変化します。還元によってマグネタイトとも呼ばれる四酸化三鉄に変化する場合は黒錆に変わり、ヘマタイトと呼ばれるα−酸化第二鉄に変化した場合は、赤錆となります。
通常の環境では、これ以上組成が変化しないという意味での赤錆の最終形態というのは、このヘマタイトですが、マグヘマイトと呼ばれるγ−酸化第二鉄が混ざっていることもあります。これは色が褐色のため、こげ茶色のような錆として認識されます。
鉄錆の成分名 | 別称 | 化学式 | 色 | 錆名(通称) |
---|---|---|---|---|
水酸化第一鉄 | 水酸化鉄(II) | Fe(OH)2 | 白色、淡い緑色、緑色 | 白錆、緑錆、グリーンラスト |
水酸化第二鉄 | 水酸化鉄(III) | Fe(OH)3 | 赤色、赤褐色、黄色、黄褐色 | 赤錆、黄錆(塩基性の場合) |
オキシ水酸化鉄 | α、β、γの3タイプの形で存在。水和酸化第二鉄 | FeOOH、Fe2O3・H2O | α、β、γの型によって異なる | 赤錆 |
α−オキシ水酸化鉄 | ゲーサイト(針鉄鉱) | α-FeOOH | 黄色、褐色 | 赤錆 |
β−オキシ水酸化鉄 | アカガネイト(赤金鉱 | β-FeOOH | 黄赤色(色は明るめ) | 赤錆 |
γ−オキシ水酸化鉄 | レピドクロサイト(鱗鉄鉱 | γ-FeOOH | 黄褐色、茶色 | 赤錆 |
酸化第一鉄 | ウスタイト、酸化鉄(II) | FeO | 灰色、黒色 | 黒錆 |
α−酸化第二鉄 | ヘマタイト(赤鉄鉱)、α−酸化鉄(III) | α-Fe2O3 | 赤褐色 | 赤錆 |
γ−酸化第二鉄 | マグヘマイト(磁赤鉄鉱)、γ−酸化鉄(III) | γ-Fe2O3 | 淡い褐色、黄褐色 | 赤錆、黄錆 |
四酸化三鉄 | マグネタイト(磁鉄鉱)、酸化鉄(II、III) | Fe3O4 | 黒色 | 黒錆 |
硫化第一鉄 | 硫化鉄(II) | FeS | 黒色(大気に触れるとすぐに赤色に) | 土壌中等の硫酸塩還元菌による微生物腐食で発生する特殊な錆。大気中では赤錆 |
炭酸第一鉄 | シデライト(菱鉄鉱)、炭素鉄(II) | FeCO3 | 黄白色(大気に触れるとすぐに赤色に) | 遊離炭酸の多い土壌中等で発生することがある。大気中では赤錆。 |
黒鉛 | - | C | 黒色、上記の錆の色の応じたもの | 鋳鉄限定。黒鉛化腐食という特殊な腐食で見られる。正確には、鋳鉄の成分に含まれる黒鉛だけが残り、腐食してなくなった部分に上記の錆などが詰まった状態になっている。 |
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