錆を防ぐ方法|防錆処理の種類と方法

2017年12月18日更新

鉄や鉄鋼材料の普及の歴史は、錆を防ぐ方法である防錆処理の方法を考え出してきた歴史でもあります。廉価で強度、硬度に優れた鉄鋼材料は、古くから多くの産業分野で使われてきましたが、一方で常に腐食による劣化や破壊、錆の蔓延に悩まされてきました。腐食が進行して錆でボロボロになればどのような鉄鋼材料も強度を保てず、壊れてしまいます。

こうした錆を防ぐ防錆(ぼうせい)の用語は、腐食を防ぐ防食(ぼうしょく)と同じ意味でも使われます。錆は腐食による生成物であるため、厳密に言えば、鉄鋼材料以外では錆を生じない腐食もあるため、防食処理を進めることがすなわち防錆対策にもなります。以下にその種類や方法の列挙していきます。

防錆処理の種類は大きく4つ

防錆に関わる技術は、錆の発生メカニズムの解明や新しい耐食材料や耐候性材料の開発と共に進歩してきていますが、主要な思想は以下の4つとなります。

  • 被覆防食
  • 電気防食
  • 耐食材料
  • 環境制御

いずれも広範な技術分野にまたがっており、同じ材料でも使われる産業や業界が違うと、防錆の方法も違うと言う場合があります。被覆防食だけを見ても、きわめて幅広い技術が関わってきます。

被覆防食|材料をコーティングして錆を防ぐ方法

腐食は鉄鋼材料の表面から発生するわけであり、空気も水や他の物質が直接触れないように表面をコーティングによって覆いつくしてしまえば、鉄そのものの腐食や錆の発生を防げると言う発想の方法です。

この方法には、コーティングする材料の種類によって、有機被覆、無機被覆、複合被覆に分類することができます。

有機被覆での防錆

有機被覆とは、塗料による塗装や鉄の表面をプラスチックやゴムなどの有機材料でコーティングしてしまう有機ライニングと呼ばれる方法です。

塗装によるコーティング

塗装による防錆というのは、大面積に対しても使え、専用の設備が必要なわけでもなく、現場での施工もでき塗り替えも可能です。

幅広い分野で使われており、最も多用される錆対策のひとつと言えます。塗装の分野もきわめて奥が深いですが、ごく単純化して述べれば、塗装は役割の違う塗料を3層塗る方法(下塗り、中塗り、上塗り)が主流です。

下地処理をしっかり行った後に最初に塗る下塗りでは、鉄鋼材料と密着し防錆顔料が含まれている塗料を用い、次に水や空気から完全に遮断することはできないものの、ある程度の環境遮断効果があり、下塗りと上塗りそれぞれと密着性のよい塗料を中塗りとして塗装します。最後に、美観だけでなく、紫外線や耐候性に優れた塗料を上塗りとして使用します。3層だけでなく、4層以上の重防食塗装を行うこともあり、なかには25年以上持つように考案されたものもあります。

塗装の厚みは、塗膜の層の数にもよりますが、せいぜい数十〜数百ミクロンと言われていますが、次の有機ライニングは、1mmを超えるものが大半です。

有機ライニングによるコーティング

これはプラスチック(樹脂)やゴムの膜を材料表面にコーティングしたもので、塗装のように塗り替えが容易にできない土中や海中のなかに投入する鋼管に使われることがあります。これらはいったん設置すると、修理や点検を行うのも容易ではないため、長期にわたって防錆効果を維持できることが条件となります。

水道管用には、内側はプラスチックのライニングを行い、外側は亜鉛メッキされたものなどもあります。現場で施工する塗装と違い、工場でライニング処理されたものが出荷されるのが一般的です。ただし、あとから水中で施工することができる樹脂ライニングもあります。

ペトロラタムライニングと呼ばれる石油ワックスと腐食抑制材を併用した防食テープに、耐食性をもつ金属保護材、プラスチックなどで複合的に被覆する方法も存在します。

無機被覆による防錆

無機被覆は、金属やセラミックスによるコーティングであり、めっき、溶射、ライニング、クラッド、稀にスパッタリング等の薄膜技術が使われることもあります。またクロメート処理といった金属を薬剤に浸して表面に元の金属とは別の性質を持つ膜を作り出す化成処理の技術も、無機皮膜の一種です。

モルタルライニングやグラスライニングといった非金属材料によるライニングもこちらに分類されます。

めっきで錆を防ぐ

鉄鋼材料の表面に別の金属でコーティングするめっき技術は、防錆にも効果があり、中でも亜鉛メッキはJIS規格にも「亜鉛メッキ鋼板」の規格があるとおり、多用されるメッキのひとつです。ガルバリウム鋼板のメッキにも亜鉛が成分として含まれています。他に、クロムめっき、ニッケルめっき、アルミニウムめっき、すずめっき等が使われます。

亜鉛メッキの原理は、犠牲防食といわれるもので、亜鉛が腐食し、保護皮膜となる錆を形成することで本体の鋼板へ錆が進行するのを遅くする、という発想のものです。

クラッドによる防錆

二種類あるいはそれ以上の異なる金属を張り合わせた材料をクラッド材と呼びます。これも異なる性質を持つ材料をはりあわせ、例えば外側には耐食性に優れた金属を用い、内側には強度の優れた材料を挟む、というようなことを行い、防錆効果を得ようとするものです。

溶射による防錆

溶射は金属やセラミックスを溶かして対象に塗膜として吹き付ける技術で、薄膜技術の中では厚膜の部類となります。金属にしてもセラミックスにしても、防錆効果を持つ材料を吹き付けることで、錆を防ぐと言う方法です。

スパッタリングや真空蒸着による防錆

スパッタリングや蒸着といった薄膜技術は、膜をナノオーダーの薄さで対象につけることができる技術で、光学特性や電気特性、一部の工具などの耐摩耗性向上などを目的に使われることがありますが、部材によってはこうした薄膜でのコーティングが使われることがあります。薄膜の場合、遮断効果も低くなる難点があります。

グラスライニングやモルタルライニング

食器や鍋の材料として「ホーロー」の名で呼ばれる材料がまさにグラスライニングです。鋼板の表面をガラス質のセラミックスで覆った材料で、芯に使われる鋼板に対し空気や水を遮断できるメリットがあります。表面がガラスであるため割れやすい難点がありますが、ガラスが持つ性質をそのまま持つため、錆や薬品に強い材料となります。

モルタルライニングは、土中や海中へ埋設する構造物や管などに採用されることがあります。ガラスほどの空気や水への遮断効果は期待できませんが、アルカリ性環境を作り出すため、元になっている鉄鋼材料の表面をステンレスのように不動態化させ、腐食の進行を遅くすることができます。

化成処理で錆を防ぐ方法

鉄鋼材料を薬剤に含侵させることで、鋼の表面に化成皮膜をつくり、これによって錆を防ぐ方法です。リン酸塩化成処理、クロメート処理、アルマイトの名称でよく知られる陽極酸化処理、黒染め加工(アルカリ黒色処理)などがあります。めっきと併用されることもあります。

電気防食|錆の原因となる腐食電流を制御し錆を防ぐ

カソード防食とも呼ばれます。この方法は土中や海中などに埋設されるパイプラインなどで使われます。犠牲陽極法と、外部電源法の2種類の方法があります。

通常の大気中では、電解質(イオン)が十分にないため、土中や海中に限定される方法です。平たくいえば、何らかの方法で電気を対象に流し、鉄のアノード反応を阻止する技法です。アノード反応とは、鉄の原子が電子を放出する酸化反応のことで、これによって鉄イオンが溶け出し、腐食の第一歩ということになりますので、この現象が起きなければ、最初の錆ともいえる水酸化第一鉄もできず、錆が進行しません。

犠牲陽極法は、流動陽極法ともいいますが、土中に仕込んだマグネシウム合金、アルミ合金、亜鉛合金等の電極材料が少しずつ溶け出して電流を防錆対象であるパイプラインに日々供給していく形となりますが、外部電源法は、直流電源から防食電流を別の場所から防錆対象とその対極にある不溶性電極の双方に流していく手法です。

耐食材料|錆に強い耐食性に優れた合金の開発

SUSの名称で知られる多様なステンレス鋼が鉄鋼系の耐食材料開発の成果といえますが、このほかステンレスよりも廉価な耐候性鋼や耐食鋼の開発も進められてきました。また、鉄以外では、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金にもそれぞれ耐食材料に相当する錆に強い種類の材料が存在します。

JIS規格では、SPA-HやSPA-Cといった構造用の耐候性鋼も規定されていますが、原則、防錆効果の高い元素を鉄鋼材料に添加すると、ステンレスのように価格が上がってしまいます。

鉄鋼における耐候性鋼というのは今まで述べてきたような防錆の方法を使わずとも、そのままの状態で用いて長期間劣化しないことを究極的な目標としていますが、鉄鋼系でもっとも豊富な耐食鋼を持つステンレスと言えども、他の防錆処理と併用する場合もあります。

コスト面からステンレス鋼を使うことができない場合には、低合金鋼をはじめとする耐候性鋼の使用も検討され、こうした鋼種のなかには、安定した錆層を形成させた上で腐食の進行速度を落とすという発想をもつものもあります。銅やアルミの錆、鉄の黒錆が保護皮膜として機能するように、安定した錆層を表面に作り出すという発想です。

環境制御|湿気や酸素の除去、錆抑制する化学物質をまいて錆を防ぐ

錆が発生してしまう鉄鋼材料側に何か対策をするのではなく、その材料が置かれている周囲の環境を変えることで錆を防ぐと言う発想がこの環境制御です。したがって、原則としてこの方法が使えるのは、ある程度密閉することができる空間があってこそ、ということになります。

常に流れる海中のなかや、広大な大気をすべて変えてしまうと言うようなことは当然できませんので、製品を箱や袋の中にいれることができる、空気中であれ水中であれ何らかの方法でそれらを囲ったり区切ったりできる使用環境であるという点が前提として必要です。

また、この方法は輸送中や保管中などの限られた期間だけでも錆の発生を防げればよいという思想が根底にあるため、長期にわたる耐候性、耐食性の向上とは方向性が若干違います。

ただ、この方法には、製品や部品そのものに何か変更を加える必要がないというメリットがあります。塗装をする場合、設計変更となりますし、耐食材料を使う場合も材質が変わります。後付で対処できる最も有効な防錆の方法がこの環境制御で、大きくは次の2つの方法になります。

湿気・水分の除去、酸素の除去で錆を防ぐ

湿度を下げたり、湿気を取り除く乾燥剤を用いることで、錆の原因となる水分を取り除く防錆方法です。ただし、ある程度密閉できる環境内でないと、シリカゲルをはじめとする乾燥剤の効果は期待できません。また、寒暖差のある環境下を輸送によって移動させる場合、一度湿気を吸い込んだシリカゲルが、また水分を放出するというようなことになると、密閉環境内に再び水分が出てしまうので注意を要します。

また、密閉環境を維持できず、開閉を繰り返すような場合にも効果が下がってしまうことがあります。

酸素除去による錆を防ぐ方法としては、大気中の酸素を除去する場合と水中の酸素を除去する場合とがあります。

空気中の酸素を除去する方法としては、脱酸素剤を密閉空間に投入する方法や包装している中身に窒素などを充填してしまう方法などがあります。

水中などの液体の中の酸素、いわゆる溶存酸素を除去する方法としては、真空脱気、加熱脱気、膜式脱気、脱酸素剤の投入、窒素やアルゴンガスで密閉空間内の空気を置換し酸素が水に溶けないようにする方法などがあります。

インヒビターなどの防錆剤を製品に付着させたり、周辺環境にまいて錆を防ぐ

インヒビターとは防錆剤のことで、水中や液体の中に投入するものと、気化性防錆剤などが染み込ませてある防錆紙や防錆袋、防錆シートなどに製品を放置しておくと化学物質が出てきて対象に付着し、防錆作用をもたらすというようなものがあります。

細かく分けるとインヒビターには、不動態型、カソード型、吸着型、沈殿皮膜側、脱酸素型、中和型などのタイプがあります。また環境だけでなく、金属の種類によっても使えるインヒビターは異なります。

これらインヒビターは何を塗布するわけではないため、部品などに使っても、次の工程でそのまま使用することができるという利点もあります。

以上、錆を防ぐ防錆技術を大きく分けた場合の4つの分類についての概要を見てきましたが、ある局面では有効な防錆対策が別の局面では逆効果になることはよく知られています。このため、錆の発生原因についてよくよく調べた上で最適な防錆対策を選ぶ必要があります。

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