腐食と錆の違い
錆(さび)は金属が腐食(ふしょく)してできる生成物のことです。つまり両者の違いは、金属の腐食現象が進んだ結果として作られる腐食生成物が「錆」という原因と結果という関係にあります。つまり、腐食はしているが錆は出ていないということもあります。
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腐食の定義
一般的な意味では、腐食はある対象物について腐らせて形を崩すことや腐って形が崩れることをいいますが、科学・工業の用語としてみた場合で、特に金属の腐食についての定義は少々異なります。
腐食そのものは金属と溶液界面で起こる化学反応のことを言います。これを腐食反応ともいいますが、電池のなかで起きている化学反応が腐食の説明としては分かりやすいかもしれません。
マンガン乾電池の例でみると、(−)には亜鉛があり、(+)の部分は炭素棒がささっています。この状態で電球を灯すと、炭素棒から電流が取り出されるとき、負極側では亜鉛が亜鉛イオンとなって溶解する反応が発生します。反対に正極側の炭素棒のほうでは、電池本体に粉末として充填されている二酸化マンガン(MnO2)が酸化マンガンに還元される現象が起きています。亜鉛イオンが溶解するのは腐食反応の一種です。
鉄の腐食でも同様で、この電池におけるような酸化反応と還元反応が同時に発生していることになります。腐食の電池作用とも言われ、電気化学反応が起きています。
錆が発生しているわけではありませんが、これが腐食であり、鉄が腐食するときも同様の現象がミクロレベルで無数に発生しています。
多様な腐食反応
金属の腐食の形態としては多様なものがあり以下にその例をいくつか列挙します。
腐食の種類 | 概要 |
---|---|
異種金属接触腐食 | ガルバニック腐食とも言います。電位差のある金属同士が接触することで起きます。例えば、貴な金属となる銅と卑な金属である炭素鋼(鉄)が触れると、鉄の腐食が促進されます。これはステンレス鋼と炭素鋼との接触も同様、炭素鋼のほうが卑な金属であるため、腐食が促進されます。 |
迷走電流腐食 | 電食ともいいます。変電所や電車等から地中への漏れ電流や電気が漏れ出ている機械や設備をはじめ、電気の流れが意図せずに発生している箇所で発生します。 |
マクロセル腐食 | コンクリート内の鉄筋とガス管が接触する等で腐食電流が発生してガス管が著しく腐食して破損する等の事故を引き起こす腐食現象です。 |
通気差電池腐食 | 鉄の表面で溶存酸素の濃度に違いがあると、高いほうと低いほうに電位差が発生して、酸素濃度の低いほうが腐食していいく現象です。これを酸素濃淡電池作用とも言います。 |
微生物腐食 | 硫酸塩還元菌や硫黄酸化細菌、鉄酸化細菌、マンガン酸化細菌などのバクテリアによる腐食です。硫酸塩還元菌によるものは、溶存酸素濃度が低く汚染された水中、土中で嫌気性環境で起きることがあります。 嫌気性だけでなく好気性菌によってステンレスが腐食する事例も報告されています。 |
アルカリ腐食 | アルミ、亜鉛、鉛、スズといった両性金属(酸と塩基のどちらにも反応)に起きることがあります。アルカリ環境下で、金属の表面に保護被膜を形成しにくくなることで発生する腐食です。ただし炭素鋼はコンクリートの鉄筋の例の通り、常温の高アルカリ環境では表面に不動態被膜を形成し、錆に強くなります(高温の濃アルカリだと腐食)。 |
孔食 | ピンホール状の腐食を生じさせる現象で、炭素鋼だけでなく、ステンレスやアルミ、銅といった腐食に強い金属にも発生します。溶存酸素と、塩化物イオンが存在する環境で金属表面に形成されて錆から金属を守る働きを持つ不動態被膜が破壊されることで生じます。 |
隙間腐食 | 非常に小さい隙間(数十μm)に発生することがある腐食で、隙間の酸素が不足しがちとなる環境で不動態被膜のある金属を使っていると、その被膜が不安定化してアノードとなり、隙間以外の被膜が安定している箇所がカソードとなり、酸素濃淡電池作用を引き起こして進行します。 |
粒界腐食 | 金属の結晶粒界に沿って侵食が起き、結晶粒が脱落してしまう腐食です。溶接の際の熱によって発生することがあります。 |
エロ―ジョン・コロージョン | 乱流を伴い一定速度で流れている水によって引き起こされる腐食で、潰食や衝撃腐食ともいいます。腐食と機械的な衝撃が組み合わされて拡がっていくタイプのものです。 |
錆の種類
腐食生成物としての錆は化学式で表されるほかは、主に色と組み合わされて表現されます。黒錆、赤錆、白錆といった具合です。
錆の種類を見る場合、以下のような分類が可能です。
- 錆の色による分類
- 錆の形状による分類
- 錆の成分による分類
- 錆が発生する金属による分類
- 錆が発生するメカニズムによる分類
錆の色、種類 | 錆が発生する金属 |
---|---|
赤錆 | 鉄、銅 |
青錆 | 銅(青緑色) |
緑錆 | ニッケル、鉄(ただし空気に触れると赤褐色へ変わる)、銅 |
黒錆 | 鉄、銀 |
白錆 | アルミニウム、亜鉛 |
茶錆 | 鉄、銅 |
黄錆 | 鉄、亜鉛めっき処理した鋼板 |
防錆なのか、防食なのか
以上から錆と腐食の違いを見てきましたが、ここから防錆と防食という二つの用語の違いについても推察することができます。
防錆 | 錆の発生や進行、拡散を防ぐこと |
---|---|
防食 | 腐食の発生や進行、拡散を防ぐこと |
両者は実務の世界では使い分けられていないこともあるのですが、厳密に見ていくのであれば、防錆というのは腐食生成物である錆の発生を抑えることができればよいのであって、腐食の有無は問わないということになります。実際には両者は不可分な関係にあるので、結果として防錆も腐食を抑える何らかの方法ではあるのですが、発錆を防ぐことに力点が置かれた用語となります。
一方、防食というのは腐食を防ぐということに力点が置かれています。腐食がなければ錆もないので、こちらも結果として防錆と同じことを言っているように見えますが、正確を期すなら、こちらについては錆につながる腐食を防ぐではなく、腐食そのものをすべて防ぐという意味を内包した用語になります。
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