SS400の規格|SS400(一般構造用圧延鋼材)の機械的性質、耐力、硬度、降伏点、引張強さ、成分について
SS400はJIS規格における鉄鋼材料の一つであり、一般構造用の鉄鋼材であるSS材(エスエスざい)のうち、最も使用頻度の高い材料です。この為、SS材といった場合、SS400のことを意味していることもあります。昔はSS41と呼ばれていました。単価が安くて市場にもよく出回っている材料であり、形も板材・棒材ともに入手しやすいため、構造用に限らず、機械設備用途をはじめ、多くの分野でコスト面からも使われています。形鋼の形でもよく流通しており、鉄鋼の代表的な規格材料といえます。日常でも、鉄といえばSS400が使われていることが多いため、目にしない日はないといっても過言ではないでしょう。
SS400の記号の意味
SSというのはSteel Structureの頭文字からきたもので、構造用の鋼であることを意味しますが、前述の通り用途はこれに限定されていません。SSのあとにつく400というのはこの材料で保証されなくてはならない最低の引張り強さをMPa(N/mm2)で表記したものです。
規格としては、引張強さが400〜510N/mm2のものを言いますが、材料記号の数字部分はSS材の場合、下限の引張強さを示しています。
見ての通り、この引張強さにも幅があるため、最低値の保証はありますが、素材としてはばらつきがあります。
SS400の性質と特徴
以下に、機械的性質や成分をはじめ、SS400の特徴を項目ごとに見ていきます。
SS400の比重
製法としてはほとんどの場合、キルド鋼から作られ、熱間圧延鋼板に分類されます。このため、比重や密度についても熱間圧延鋼板の7.85から7.87が一般的に使われます。
SS400の炭素量
鉄鋼材料にとって、炭素は強度や硬度を決める最も重要な成分の一つです。SS400の炭素含有量については、JIS規格には規定がありませんが、おおむね0.15から0.2%前後のものが多く、低炭素鋼(軟鋼)といえます。低炭素のため、硬度が高くないかわりに加工性が優れている材料でもあります。購入するSS400は成分を保証したものではなく、強度(最低の引張強さ)を保証したものであるため、炭素が一定の量だけ含有していると言えない材料でもあります。
SS400の耐熱温度
使用時の耐熱温度については、常温から中温域(350℃)まで安定しているため、この温度帯域でよく使用されます。鉄鋼系の中で耐熱性の高いほうではありませんが、一般的な産業・工業用途では問題のない耐熱性ともいえます。
SS400の熱処理|焼入れ焼き戻しはできるか
鉄鋼材料は熱処理をすることで硬度や強度を高めることができますが、これは炭素量が一定以上の場合だけです(おおむね炭素量が0.3%以上の鉄鋼)。前述の通り、炭素量が0.2%以下のものが多いため、焼入れ等の熱処理で強度向上を行うことができません。
強度が必要な部品などで機械構造用炭素鋼などの炭素量の多いSC材が使われるのはこのためです。ただし、熱処理がされていない材料であるため、加工性や強度についてはどのSS材についてもグレードが同じであればほぼ同じと考えることができます。状況によっては熱処理による材料強度の変化を考慮する必要がないため、使い勝手がよいこともあります。
熱処理としては、内部に残っている応力を取り除く目的で、焼鈍しをすることはあります。
表面加工には注意が必要
SS400は材料のなかに内部応力を残した状態になっているため、表面を加工するとこのバランスが崩れ、加工後にソリが出てしまうことがあります。これを防ぐには表面をなるべく加工しないことですが、そうもいかない場合、焼きなましによって内部応力を除去した材料を入手する必要があります。単価や加工コストが上がってしまいますが、加工そりが発生するよりは事前に手を打っておきたいところです。
なお、購入する際はSPCCのように表面が冷間加工されているミガキ材だけでなく、黒錆で覆われた黒皮材も市販されています(本来の規格ではこれが主流)。寸法精度が必要な場合、この黒皮を除去する加工が必要になるため、その場合はあらかじめミガキ材を購入するという方法もあります。
SS400の硬度|SS400はどれくらい硬いのか
鉄鋼材料の硬度は、耐摩耗性とほぼ比例関係にもありますが、SS400の硬度についても規格には記載がなく、かなりのばらつき(上限、下限の差が大きい)があるため、一概にはいえませんが、軟鋼に相当するため、実測で概ねビッカース硬度換算で120Hv〜140Hv前後ではないかとされます。鉄鋼材料の中ではやわらかいほうです。【参考】金属の硬度一覧
鋼材の硬さは含有される炭素量と深い関係がありますが、SS400の場合、炭素量に関する規格値が設定されておらず、成分についてもかなり緩い規格になっているため、硬度や耐摩耗性が要求されるような摺動部位には適しません。
SS400の溶接性
板厚が50mmを超えないのであれば溶接性についても特に問題のないレベルを持つ鋼材規格ですが、これ以上の厚みのある場合は、溶接に影響する成分がより詳細に規定されている溶接構造用圧延鋼材(SM材)が用いられます。
高い負荷が圧力がかかるような用途をはじめ、高いレベルでの溶接性が要求される場合は、個別に検討が必要ですが、通常の溶接では問題はないとされます。
同じく汎用材として名高いS45Cは溶接には不向きであるため、溶接をするのであればSS400に軍配が上がります。
溶接性を追求するのであれば、炭素が低い(0.15%未満)ことと、リンと硫黄が溶接性を阻害するためこれらの成分値の上限が低く設定されていること、強度が必要であれば、これに加えてハイテン材を選択する、といった選び方もあります。
SS400の成分組成
本表のとおり、低温で強度を劣化させたり、高温での強度を弱める有害成分との位置づけになるP(リン)とS(硫黄)のみ上限値が設定されています。【参考】鋼の五元素とは何か
強度保証がされているかわりに、成分としては鋼の主要5元素についてすべてが規定されているわけではない点に留意が必要です。
材料記号 | C | Mn | P | S |
---|---|---|---|---|
SS400 | - | - | 0.050以下 | 0.050以下 |
必要に応じてこの表以外の合金元素を添加することもできます。 |
SS400のヤング率とずれ弾性率
ヤング率(E/GPa)は206となり、ずれ弾性率(G/GPa)は79となります。
SS400の機械的性質、降伏点、耐力、引張強さ
設計上は、破壊限度を示す引張強さではなく、それ以上の力を加えると変形して元に戻らなくなる力の境界である「降伏点」(耐力)のほうが重視されます。板厚16ミリ以下の鋼板で、245N/mm2以上が降伏点となります。板の厚みが厚くなるほどに降伏点が低下する、つまり、より弱い力で変形してしまうようになるため、強度計算を行う際には注意を要します。
材料記号 | 降伏点または耐力 N/mm2 |
引張強さ N/mm2 |
鋼材の厚さ(mm) | 引張試験片 | 伸び(%) | 曲げ性 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
鋼材の厚さ(mm) | 曲げ角度 | 内側半径 | 試験片 | ||||||||
16以下 | 16を超え40以下 | 40を超え100以下 | 100を超えるもの | ||||||||
SS400 | 245以上 | 235以上 | 215以上 | 205以上 | 400〜510 | 鋼板、鋼帯、平鋼の厚さ5以下 | 5号 | 21以上 | 180° | 厚さの1.5倍 | 1号 |
鋼板、鋼帯、平鋼の厚さ5を超え16以下 | 1A号 | 17以上 | |||||||||
鋼板、鋼帯、平鋼の厚さ16を超え50以下 | 1A号 | 21以上 | |||||||||
鋼板、鋼帯、平鋼の厚さ40を超えるもの | 4号 | 23以上 | |||||||||
棒鋼の径、辺又は対辺距離25以下 | 2号 | 20以上 | 180° | 径、辺又は対辺距離の1.5倍 | 2号 | ||||||
棒鋼の径、辺又は対辺距離25を超えるもの | 14A号 | 22以上 |
SS400の板厚
SS400は規格上、熱間圧延鋼板となるため、その標準寸法・サイズについてもJISでは熱延鋼板に共通の値が使われます。
鋼板のほかにも、棒材、形鋼といった形状があり、寸法のバリエーションも豊富な鋼材ですが、規格にあるものがすべて市販されているわけではないため、購入実績のない寸法を使用する場合、取り扱いの鋼材商社や取引先に確認が必要です。
板厚(標準の厚さ)【単位:ミリ】 |
---|
1.2 |
1.4 |
1.6 |
1.8 |
2.0 |
2.3 |
2.5 |
2.6(非推奨) |
2.8 |
2.9(非推奨) |
3.2 |
3.6 |
4.0 |
4.5 |
5.0 |
5.6 |
6.0 |
6.3 |
7.0 |
8.0 |
9.0 |
10.0 |
11.0 |
12.0 |
12.7 |
13.0 |
14.0 |
15.0 |
16.0 |
17.0(非推奨) |
18.0 |
19.0 |
20.0 |
22.0 |
25.0 |
25.4 |
28.0 |
30.0(非推奨) |
32.0 |
36.0 |
38.0 |
40.0 |
45.0 |
50.0 |
SS400の幅
規格で標準として定められた鋼板の幅のバリエーションは、SS400についても熱間圧延鋼板に準じたものとなります。
板の幅(単位:ミリ) |
---|
600 |
630 |
670 |
710 |
750 |
800 |
850 |
900 |
914 |
950 |
1000 |
1060 |
1100 |
1120 |
1180 |
1200 |
1219 |
1250 |
1300 |
1320 |
1400 |
1500 |
1524 |
1600 |
1700 |
1800 |
1829 |
1900 |
2000 |
2100 |
2134 |
2438 |
2500 |
2600 |
2800 |
3000 |
3048 |
SS400の長さ
長さについても熱間圧延鋼板となるため、以下の規定が適用されます。これは標準となる長さの例です。
板の長さ(単位:ミリ) |
---|
1829 |
2438 |
3048 |
6000 |
6096 |
7000 |
8000 |
9000 |
9144 |
10000 |
12000 |
12192 |
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