鋼の五元素とは何か|鉄や鋼の5元素の役割

2015年5月1日更新

鉄鋼材料は構成している成分と熱処理によって様々な性質を見せてくれる素材ですが、この成分のうち、特に含有比率が大きい元素を便宜上、五元素ということがあります。またこの5元素のみで構成されているのが炭素鋼とよばれる鉄鋼材料です。

炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)の5つが、その五元素です。鉄鋼材料の多くは成分値についても規格で上限や下限の値がそれぞれの元素ごとに定められていますが、これは各元素の多い少ないによって鋼に決定的な影響を及ぼすためです。元素はそれぞれ役割をもって意図的に加えられているものもあれば、できれば少なくしたいものの、製法上、完全には取り除けないため、含有してもよい上限だけを定めて品質管理を行っているものもあります。

炭素鋼でほとんどの用途を満たすことはできますが、さらに耐熱性や耐食性、強度や硬度などが必要な場合、合金鋼の使用が検討されることになります。この合金鋼という区分は、炭素鋼の5元素にさらに何らかの合金元素を添加したもののことを意味します。

鋼の五元素の及ぼす影響
元素名 元素記号 鋼に及ぼす影響
炭素 C 硬さを決めます。往々にして硬さと粘り強さ(折れにくさ)は反比例します。炭素の量によって、鋼の区分が変わり、軟鋼や硬鋼などの別があります。強度、硬さは主にこの炭素量で決まります。焼入れの効果にも影響します。
ケイ素 Si 鉄鋼の場合、降伏点(耐力)と引張強さの強度を見るための二大指標に影響します。降伏点は、その値以上の力を加えると変形して元にもどらなくなる変形するまでの力であり、引張強さは破壊限界を示します。また耐熱性にも影響します。成分に多く入れすぎると材質がもろくなります。
マンガン Mn ねばり強さの指標である靭性(じんせい)に影響します。耐摩耗性、衝撃強度、引張強さに寄与します。単体というよりは他の元素の組み合わせで効果を発揮します。
リン P 加工性を上げるために意図的にいれることもありますが、少ない方が良質の鋼といえます。主に氷点下になると鉄鋼材料が本来の強度よりも弱い力で破壊されてしまう「低温脆性」に寄与する有害元素の一つと考えられています。多く含有していると溶接性にも悪影響を及ぼします。
硫黄 S これも快削鋼など、加工のしやすいものを意図的に作る場合は添加されますが、通常は低い方がよい鋼です。この含有量によっては、高温環境、例えば900℃以上で用いる場合などでは強度が脆くなることが知られています。またこの元素が多いほど、溶接性が悪化します。
  

どの元素も、それだけを増やすと逆に組織が脆くなったり、思わぬ弱点が露呈してきます。他の元素との組み合わせ、比率が重要となります。また、鋼はこの成分比は重要ですが、このあとにどのような熱処理を行うのかでも性質がかなり変わるため、実用上はそこまで見据えておく必要があります。

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