インドネシアのパススルー規制とは
パススルーとは、仕入れたものを加工等せずにそのまま転売する行為のことを意味し、パススルー品といえばそうした品物のことを意味しています。例えば、自動車部品の完成品をインドネシアへ輸出し、インドネシアで輸入側となる企業がその部品に手を加えずにそのまま別の会社へ販売するような場合、その自動車部品はパススルーとなります。
自動車を構成する「部品」であるからといってもその部品自体をインドネシア国内で売買するような場合、部品であってもパススルー品になります。加工した結果自動車になるものだとしても、自分たちが加工しないのであればパススルー品です。
インドネシアにおけるパススルー規制とは、輸入ライセンスに絡む根深い問題の一つで、端的にいえば、転売目的の輸入ライセンスと、製造目的の輸入ライセンスの二つを同時に取得することができないという根本的な問題のことです。パススルー品を販売するにはAPI-Uと呼ばれる商社等向けの輸入ライセンスを取得する必要がありますが、製造業であればAPI-Pと呼ばれる製造業者用のライセンスを取得して運用する形になるため、こうしたパススルー品を輸入すること自体ができないことになります。
日本の企業では考えられないことですが、製造業用の輸入ライセンスで輸入した物品については、自社での生産財として消費する必要があり、これをそのまま他社へ転売することができない、ということです。
さらに、パススルー品を扱えるAPI-Uのライセンス保有企業であっても、扱うことができる品目の「分類」には制限があり、何でも輸入することができるわけではありません。具体的には、HSコードの大分類をいくつかに取りまとめた21の区分があり、各企業は原則的に1区分の商材のライセンスを取得して運用することになります。このため、輸入できる品目には制限が出てくる形となります。
親子関係にある会社との貿易などをはじめ、申請・手続きを行い認可されれば、いくつか取り扱える分類を増やすことはできますが、建前上、何でも扱うことができるというわけにはいかないため、商社にとっても決して使い勝手のよいライセンスではありません。HSコードの大分類である「類」をベースに、扱える品目に許可を出している為、例えば39類のプラスチック製品、40類のゴム製品で1つのカテゴリーとなり、これらでAPI-Uの認可を受けている企業は、これらのHSコード以外の輸入ができません。プラスチックやゴムが使われる自動車部品などは87類にも分類されることの多い物品となりますが、輸入時にこれらにカテゴライズされる品物は取り扱えないことになります。
多岐に渡る品目を扱うことができるのが商社の強みの一つでもありますが、いくつかの類に扱い品目が絞られてしまう、ということになれば商取引にも制限が出てきます。
上記事情があったものの、実務上は、複数の品目を輸入できるようにしていた会社が数多くあったのですが、2015年1月には1000社を超えるAPI-Uのライセンス違反を行っている企業がインドネシア税関当局から輸入ライセンスの取り消し命令を受けました。
ともあれ、製造業向けの輸入ライセンスであるAPI-Pの取得企業にとっては、他社へそのまま販売予定の部品・材料・製品などを輸入することは、このパススルー規制によってできませんので、直接貿易を行わず、間にAPI-Uを持っている商社に入ってもらう等の対策を講じる必要があります。
「工業製品だからどうせわからないだろう」と、この規制を意に介さない企業もありますが、前述したとおり、実際に輸入ライセンスの取消しの憂き目にあっている企業もありますので、API-Pのライセンス企業はパススルー品の輸入ができないことに留意する必要があります。
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