2024年問題をわかりやすくいうと
2024年問題とは、わかりやすくいえば2024年4月から物流業界において年間の労働時間のうち残業上限が960時間となるリミットが法令上適用されることで、業界全体の輸送能力が落ちて、モノの移動が滞ったり、輸送コストが上昇したり、給料減(残業代減)により運ぶ人がいなくなったりする諸問題のことを意味しており、こうしたことを総称した問題です。違反すると、労働基準法にて6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が罰則として科せられる可能性があります。
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是正は必要だが労働時間上限短縮で何が起きるか
年間の残業が960時間ということは月80時間の残業に相当しますが、これだけの残業を強いられる業界なのかという驚きや、月80時間の残業で終わらない仕事とは一体何なのかという疑問を抱く方もいるかもしれません。そもそも年960時間に制限される前は、年1176時間であり、これは月間に換算すると98時間になります。
この理解にはトラック輸送業務の実態が分からないと難しい部分があります。たしかに過酷な長時間労働には違いがありませんが、工場のライン作業で月間98時間を恒常的に残業しているという内容とは少々違いがあります。この残業時間は拘束時間という言い方のほうがしっくりくるかもしれません。運転で使っている時間のほか、休憩時間、倉庫や工場での待機時間、荷役作業時間の合計になります。
これだけの時間を確保しないと、今の物流業界では輸送費の維持や輸送便が維持(ドライバーの数とトラックの本数)ができないことに加え、ドライバーのほうもこれらの長時間残業を含めての給与という考えでいますので、年間残業960時間に規制されるのは大きな変化ということになります。
年間960時間の残業での走行距離は片道250km?
なお、この960時間の残業リミットですが、定時運行+残業で実際に1日に走行できる距離に換算すると、片道250〜300km前後が限界とされます。
ルートやドライバーの能力、道路混雑状況等にもよりますが、走行距離で単純に見た場合、これらの走行距離が目安となる背景は、現状では1日の拘束時間は原則13時間以内、上限16時間以内で、15時間超えは週2回までというのが法令上のルールですが、これが1日の拘束時間は13時間以内、上限は15時間以内で14時間を超える日は週2回までというのが2024年4月からのルールとなることです。
拘束時間の上限ベースで見れば、月換算では18時間の時間短縮となり、1年では216時間の短縮となります。拘束時間から運転に使える時間のみを見た場合、2割程度は輸送能力が減少するのではという試算もあります。
解決策
この2024年問題は、労働時間の問題ではあるのですが、荷主側や輸送業者の目線から見た場合、それに起因して輸送能力の低下が最大の問題となります。
この解決策としては方々から様々なものが出されており、業界共通のものもあれば、特定の業界で盛んに議論されているものもあります。以下に解決策として提起されているものを順不同で列挙していきます。
ミルクラン導入
自動車業界、自動車部品業界では以前からミルクランと呼ばれる輸送が一部取引で採用されています。これは購入側(客先側)がトラック便を仕立てて、部品メーカーを巡回するルートを作り、牛乳配達のごとく、自社が購入する部品をピックアップし、自社の倉庫や工場まで運ぶ方法です。売るほうが届けるのではなく、買うほうが取りに来る、という物流のひとつの方法です。
ミルクランを効率的にまわすためには契約しているトラック1台をフル活用する必要があるため、トラック1台を仕立てる荷量がないメーカーであっても、ミルクランのピックアップ場所に納入品を指定時間い準備しておいておけば回収してもらえるため、トラックの輸送効率が上がります。
加えて、自動車業界のサプライチェーンは、ティア1からティア2、ティア3、ティア4と階層構造になっているため、各階層がそれぞれミルクラン便を仕立ててまわるようにすると、使用するトラックが少なくすむルートが出てきます。
例えばある自動車メーカーが、ティア1メーカーを巡回して部品を取りに行くミルクランを開始した場合、ティア1メーカーも自分たちが製造に使用する部材を自らミルクランを仕立ててより効率的な積載ができるトラックを仕立てはじめると、総じてトラックの本数を減らすことができる場合があります。
この動きは自動車メーカーではすでに活発化しており、輸送便の減少、輸送コストのアップを見越して、ミルクランを強化する動きをみせるところもあります。ミルクランを行うことで、輸送便の積載を効率化できるだけでなく、便を確保しやすく、契約条件も有利になることがあります。使用するトラックの本数が非常に大きいため、元請けとなる輸送業者との契約交渉もしやすいという利点もあります。
ホワイト物流推進
これはドライバーの職場改善をすすめて、ドライバー不足を補おうとする発想です。ドライバーが行うことになっている輸送以外の附帯作業(荷造り、梱包、パレタイズ、仕分け、選別、棚入れ、ラベルや張り紙)をなくしたり、減らしたり、機械化・自動化をすすめることのほか、長時間労働や低賃金を解消して人不足の面から解決の打開策を見出そうとするものです。
待機時間短縮
DX等を活用して予約システムを導入してトラックの待機時間を短縮することで、一日に使える総時間を効率的にし、稼働時間を延ばそうという発想です。
ルート見直し・フェリー等の活用
フェリーや鉄道とトラック輸送を組わせる手法は以前から輸送コスト低減の一案として検討されてきた方法ではありますが、トラックごとフェリーで輸送する場合、フェリーへ乗船時間中は休憩時間になることを利用した長距離輸送対策の一つの方法です。
また高速道路を使用していなかった区間でも使用し、輸送時間の短縮を優先するという発想もこの一部になります。
輸送ルート・経路の変更もドライバー拘束時間の低減に効果が出る場合があります。
中継地点の創設
輸送網のなかで250〜300kmにひとつの中継地点、中継デポを設けて長距離輸送ができない問題を解決しようという発想です。作業者自体が確保できなくなる問題に対しては有効な方法のひとつです。
ダブル連結トラック活用や各社の輸送網の共同運行
トラックの荷台が2つあるダブル連結トラックを使用して、輸送貨物も複数社のものを共同運行するというものです。より少なくなるドライバーでも、一人のドライバーの扱える貨物量が増加しますので、これにより輸送力不足を補おうという発想です。
また、輸送会社各社が持っている輸送網を共同運行実施することで、効率的に活用するという動きも出てきています。各社が積載率に余力のあるルートや便を公開し、そこに他の輸送業者がもっている運送案件をあてて、既存のルートの積載率を向上させるというものです。
物流MaaSのひとつの手法としても注目されています。オンラインで各社の空き状況や予約が瞬時にできれば、輸送効率を飛躍的に上げることができます。
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