MRPとかんばん方式の違い

2024年3月3日更新

かんばん方式はトヨタのジャストインタイムのコアツールのひとつですが、MRP方式(Material Requirements Planning)という所謂通常の需要予測による生産方式との違いは何でしょうか。両者の生産方式で生産に使用する部品を補充する場合を考えてみます。

一言で言えば、かんばんの場合は実際に使った分だけがまた自動で発注されますが、MRPの場合、需要予測に基づいて生産計画を立案しますので、それに間に合うように使用する部品の数を決めて、その数の発注書を入れる、という違いとなります。需要予測は客先から内示があるならそれを使い、なければ営業部門の販売予測等を使い、在庫が切れないように補充していく形になります。

実務での注文を発行する立場の目線で見ると、手間の加減がまったく異なります。例えば自社で何か製品を作っているとします。その製品を作るのに必要な部品をかんばん方式で注文するか、MRP方式に基づいて注文するかという視点で見てみます。

部品の製造会社に対してかんばん方式で発注する場合、自社に納入された箱には「かんばん」がついており、生産ラインでその箱の中身を使えば、かんばんが外れてまた部品の製造会社へかんばんが送られ、それに基づいて部品会社は納品をしていきます。つまり、いちいち注文書を入れていません。

一方、MRP方式の場合は自社の製品在庫が客先への出荷によって減ったら、その先の需要予測に基づいて補充すべき数量を計算し、それに必要な部品数も計算して、減った都度、毎日あるいは毎週、毎月といった契約上定められた間隔での発注を行います。つまり、必要数の計算を自分で行いつつ、毎回注文書を発行します。

このこと自体は別に特段おかしなことではなく、調達業務の基本的な内容なのですが、かんばん方式と比べてしまうと、「需要予測と在庫の不足数から必要数を毎回計算して」「毎回注文書を発行する」という業務が発生します。

かんばんに慣れてしまっている会社の担当者が特にかんばん以外でのやり取りを嫌がるのはこれが理由でもあります。かんばんであれば、使った分だけが勝手に注文されていくので、不足分を計算する必要がありません。

ただし、かんばんでの発注の場合、かんばんの総枚数をコントロールすることによって、需要の増減に対応します。かんばんの枚数を変えることを増枚や減枚と呼んだりしますが、総枚数を増やせば、在庫に余裕が出てきて数量増や変動差に対応できるようになりますし、反対に減らしすぎるとかんばんが発行されてから納入されるまでのリードタイムが足りずに欠品してしまいます。このため、毎回発注数を計算する手間の代わりに、何枚のかんばんでまわしていくか、については担当者が調整していくことになります。

MRPとかんばんのどちらがよいか、というのは実は一長一短あります。月間の生産数の差が大きいような場合や内示と確定注文に差異があるような場合、かんばんは不得手です。

例えば、当月は月間10000個で、毎日500個ずつ注文があるとして、翌月はこれが10分の1になって月間10000個、毎日500個ずつの注文になるというような場合や、月間10000個の生産計画だったのに実際は半分しか作らない、あるいは途中から倍増したというような場合です。常時上流からは一定間隔でかんばんが振り出され、下流からもそれにあわせて作って出す、という流れがあることが前提になっています。

またサプライチェーンの下部になるほど、かんばんがきてから作りはじめる、では間に合いませんので月間の予測に基づいてある程度の在庫を持たざるを得ませんが、過度に在庫を持つことが難しいので、かんばんによる注文は内示等で出されている日当たりの数量に対して許容できる振れ幅に限度があります。これは生産品目の工程や製法に大きく依存しますが、2日分のオーダーが一度に出てしまうともう支障があるというメーカーもあれば、3日分のオーダーが一気に振り出されても問題ないというメーカーもあります。

MRPとかんばん方式の比較
かんばん MRP
実際に使った分しか発注しないのでかんばんの設定枚数さえ適正であれば、ムダな在庫が発生しない 需要予測が外れたり、予測に反して売れ行きが下がると在庫が増えてしまう。反対に需要が急増した場合、在庫が減るため、在庫管理の工数が大きい
安定した受注を見込める場合や平準生産でやる場合、かんばんの枚数を設定したらあとは日々発注書をつくる必要がない 安定した受注を見込めるような場合や平準生産の場合であっても、需要予測と不足在庫の計算を行って都度発注する手間がかかる。
大きな数量変動に弱い、月間の落差、日当たり、週間の落差が大きい手配に弱い 月間の落差が大きい、日当たりの変動が大きい場合でも、手間はかかるが事前に安全在庫を変更したり、発注数を調整する為、注文にすぐに反映できる
平準生産と出荷を前提としているので、月間や週間のオーダーがまとまって入ってくるもの、まとまりの度合いにばらつきがあるものには不向き 発注量のばらつきは事前に発注することで仕入先側でも可視化可能。まとまった発注もリードタイムを確保すれば発注・受注いずれも難が起きにくい
複数社が間に入り、在庫がたまってしまうような場合、需要急減の際、かんばんが止まり、いつ再開するのか製造元にはわからず、生産計画が立てられない。また発注元でもどこでいくつ在庫が滞留しているのか分かりにくく、下流の製造元になるほど、いつ再開するかを通知することが難しい 発注間隔にもよるが、在庫や需要に基づいて必要数を計算して注文しているので、間に入っている会社がすべてかんばん方式を使っていなければ、1つ上の納入先へ問い合わせれば需要見込みや発注再開に関する情報が得やすい。
仕入先に対してどれくらいの数量の発注がいつ出るか示しにくい。かんばんが外れればそれがそのまま発注になるので結果が出て見ないと実際に注文される数がわからない 仕入先に対しては自ら注文する為、いつ何個オーダーしているか把握が容易。
急な発注停止に対してはキャンセルが難しく、振り出されてしまったかんばんの納期をずらしていくスライドを行うことになる。発注者の工数はかからないが、受注者は本来の納期が分からない為、納入ミスにつながることがある。 手動での発注であるため、キャンセル・再開の発注コントロールはしやすいが手間はかかる。

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