ビジネスにおける転注の意味とは
ビジネスシーンで使われる転注(読み方:てんちゅう)とは、顧客が自社への注文を競合や他社へ転じること、つまり自社との取引をやめにして他社との取引に切り替えることを意味しています。特定の製品単位について言うこともあれば、会社間の取引すべてについて言う場合、発注者の都合の場合と受注者の廃業などの不可抗力上のものもあります。営業報告などにも、他社への転注により売上がいくら減ったというような記述がなされることがあります。つまり、他社へ仕事をとられた、ということです。
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転注を英語でいうと
上記の意味であるため、英語では、他社へ切り替えたことを説明する表現になります。営業報告として使うのであれば、例えば下表のような表現があります。
Customer has decided to purchase our part no. 1123 from our competitor B from next month. |
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来月から、顧客は当社の部品番号1123の調達を競合B社へ転注することを決めました。 |
仕入先に対して転注することにした、として取引終了を伝える場合以下のような表現があります。
We have decided to purchase part no. 1123 from another company from next month. |
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来月から部品番号1123の購入は他社へ転注することにしました。 |
契約上、法令上問題が発生しないか通知方法と通知の時期については事前に確認が必要です。通常は、取引の終了についても取引基本契約書に専用の条項を設けて作っていますので、取引終了する相手とどのような契約を結んでいるか確認してから行うとよいでしょう。
工業分野で転注は容易に発生しないのか
工業製品の多くは顧客への納入に際して様々な評価を事前に行い、品質面での確認や承認を経てはじめて納入が許されることがほとんどですので、どこからでも購入できる既製品や汎用品以外は、いきなり転注ということは難しく、水面下で製品評価を行っていないと実施することができないという特徴があります。仮に汎用品であってもそれが完成品に使われた際、完成品の仕様や性能、耐久性、安全性などに変更前と変更後で違いがないことを証明するのが習わしです。このため、工業分野は下記で紹介するようなトラブルやタイミング以外ではなかなか転注が発生しにくく、よほどのことがない限り、一定期間の取引がほぼ保証されているといっても過言ではありません。
また評価して問題なかったので、いざ転注してみたら、変更前のメーカーよりスペックが低かった、あるいは正体不明の不具合が発生してしまうというようなこともあります。このため、転注には慎重にならざるを得ないのですが、健全な競争が実施される環境なのであれば、転注の可能性は常にあるというほうが消費者の利益には適っているということになります。価格面、品質面での「よりよいもの」という条件が達成されないとそのコストはユーザーが負担することになるためです。
結局のところ、転注を行うというのは発注者が競争力を維持するために行うのであり、多くは市場での価格競争に勝つためですが、品質面や納入面でのトラブル解消のために行うこともあります。
下請法対象事業者に対しての転注
製造委託を受けている下請事業者については、図面の提供から製法の指示、材料の指示や供給を受けて加工を行っているため、いきなり転注というわけにはいかず、通知期間が必要です。また、どんな場合でも転注できるかといえば、一定の条件を満たす必要があります。とはいえ、下請法でも当然転注を禁じる条項はなく、そんなことをすれば発注する側の競争力が著しく下がってしまいます。
この法令では立場の弱い下請事業者に対して、その下請事業者に責任に帰する内容以外で経済的な不利益が発生しないかどうかというのがポイントになります。
設備投資や金型が下請事業者による投資であれば、それらは一定数の販売を見込み、単価に費用を練り込んで回収する物になっていることが多いです。転注によって下請先が費用回収できないのであればその差分を支払う必要があります。
またリードタイムの関係で内示情報等に基づいて準備せざるを得ない製品の場合、下請先が在庫を持っていることがありますが、その在庫保有に合理的な理由があるならその分も引き取る必要が出てきます。
転注にあたっては、公正取引委員会などの調査が入ったとしても正当な理由があるということが説明できる必要があります。発注者も商売なわけですから、商売上の理由で変更しないと不利益があるということを説明できれば問題ないです。
通知期間についても十分に配慮が必要です。人の手配や材料の手配も行っているでしょうから、通知が遅すぎて下請事業者の経済的損失になるのであればそれらを補填する必要が出てくる可能性があります。
転注の発生要因
転注が発生する代表的な要因を列挙していきます。
1.価格
転注の発生要因として一番多いのがこれです。業種によっては毎年コンペ形式や入札方式にして競合間で競争する場合もあれば、毎年の値下げ要求に応じなかった、値下げや原価低減に非協力的であるという場合にも該当します。
2.品質問題等
度重なる品質問題が起きるとその対応コストもばかにならず、自社の市場での信用も失いかねません。契約で取り決めた品質を保証できないメーカーとは原則取引が難しくなるでしょう。
3.納入問題
納入遅延を繰り返す、納期や納入日を守らないと取引自体が成り立ちません。発注者は必要があってその納期を指定しており、納入されたものは生産計画にあわせて使われ、指定期日までに出荷される必要があります。
4.戦略的な購買の影響
調達先をまとめる等で価格メリットを出したり、客先からの支給部品に切り替わる等、購買戦略自体の影響を受けて転注になるケースです。この場合、大枠が決まっていることが多く、事実が分かってから大幅な値下げをしても転注取り消しにはならないことがほとんどです。
5.仕入先廃業による場合
仕入先の廃業や事業縮小、売却など様々な理由で契約していた供給が今後できなくなるという場合、発注者は別の企業へ転注する必要が出てきます。会社によってはこうした場合は、廃業による移管という言い方をする場合もあります。
6.その他発注者の不利益になる事象
日本企業間の取引の多くは「商慣習」が重要な意味を持っており、業界ごとに固有のものがあります。これを逸脱する取引先や、発注者の意向を完全に無視した慣習をごり押しするような場合、発注者のコストに跳ね返ってきますので転注となることがあります。
また、公にされることはありませんが、法令上はたしかに正しいことでも業務上著しい不利益を被ることになる場合、そうしたメーカーとは取引は基本的に行わないことが多いです。例えば下請法は厳密適用させると、発注者となる親事業者が著しく不利になる強力な法令です。下請事業者がこれを逆手にとって、業界慣習上は許容されている内容でもいちいち補償や損害賠償を請求してくるような場合、そもそも取引対象から外すということもあります。
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