値上げのお知らせの例文とテンプレート
値上げのお知らせは発行主体と受け手(買い手)との力関係によっても文面は変わってきますが、ビジネスには付き物の通知文です。難しいのは、例文のように通知をしたとしても「はい、そうですか。了解しました」とすんなりいく類のものではなく、そこから交渉がはじまったり、取引関係が終了する、あるいはトラブル等に発展することもあります。物を製造するにはその構成部品や原材料が必要となり、それらにもまた原料が必要で、いずれも様々な要因でコストが変動します。この為、事業を継続していく上では、事実上不可避の事象です。値上げをずっとしてきていないことを売りにしている商売もありますが、物価が継続的に上がることが前提で経済がまわる以上、一定の範囲での値上げは不可避と考えておくべきです。このページでは値上げのお知らせを作成するにあたっての注意事項も踏まえて、例文や書き方を紹介していきます。
本ページの下部に無料でダウンロードできるWordファイルの例文とテンプレートも公開していますのでご活用ください。
英語での値上げのお知らせについては以下のページで紹介しています。
値上げのお知らせの構成要素
例文に盛り込むべき内容としては、「値上げの理由」「値上げが不可避であること」「いつの取引からどれだけ値上げするか」の3点は必ず記載しておく必要がありますが、基本構成としては以下となります。
(1)文書の発行日
取引先・お客様へ通知する日にするのが望ましいです。いつからの値上げをいつに通知したかというのはあとでトラブルになった際に、前もって準備期間(他の代替品に変更する、取引先がそのまた取引先に一部または全部の値上げ分を価格転嫁する期間等)を用意していたかどうかが争点になることがあります。いきなり発行していきなり値上げということがないように準備期間を設ける必要があります。
(2)文書発行部署・責任者・押印・発行文書番号
担当名で発行するのはやめましょう。社名、部署名、責任者名(部門長や役員、社長等)、押印のセットを記載し、発行文書の社内管理番号等もつけて、いつどこに対して発行したのか履歴として残しておきましょう。
(3)タイトル
価格改定のお知らせというタイトルが一般的です。価格変更や価格更改という表現が使われることもあります。値上げという用語は基本、通知文では使いません。値上げの理由がひとつに限定されており、業界的にもよく知られているような場合、「原材料高騰に伴う〇〇の販売価格につきまして」「燃料費高騰に伴う措置につきまして」というような価格改定という文言を避けることもありますが、一長一短あります。明確に価格改定や価格変更と記載しないことで婉曲に伝えられるメリットがある一方、あとで値上げとは思わなかったといった誤解につながる可能性もあります。
(4)理由
値上げの理由を明確に記載する必要があります。実際の理由はさておき、相手が納得できるようなもの、特にB to Bの場合、受け取った担当がそのまた上長に説明・回付していくことを念頭に置き、よくわからない理由にはすべきではありません。また価格転嫁が不可避であることや、交渉の余地がないことも文章からわかるようにしておく必要があります。
自社内の内部事情だけによる理由記載はあまり望ましくありません(例えば社内での利益確保の必要性が出ているから、社内方針だから、人員整理などを行っているから、等)。あくまで外部的な要因で、値上げせざるを得ない状況に追い込まれている、という内容も入れておいたほうがよいでしょう。「御社の勝手では・・?」と思われる事情は極力やめておくべきです(実際に値上げは各社の勝手で行うものではありますが・・)
また受け取る側が納得しないとしても、値上げについて相談したい、というような交渉の余地を感じさせるような曖昧な表現は望ましくなく、きっぱりと断固として値上げが必要なので値上げします、というスタンスで文書にしておく必要があります。B to Bの取引の場合、断れるような内容なら誰も値上げには納得せず、了承する取引先はないのが基本です。
(5)適用開始時期・対象品
いつからどの品目について価格が変更となるのか誤解のないよう記載します。注文日からなのか、納入日からなのかというのはよく誤解のもとになります。価格変更の前に駆け込みの受注があることも念頭に置いておく必要があります。仮に顧客が他社品へ転注や切替を行うにしても、工業製品やB to Bの場合、代替品を使用して性能や仕様が同等であるという証明を得るために、製造した品物やそれを使った完成品での評価が不可欠になるため、多めに現行品を確保しておく必要があります。
また、適用開始時期や値上げの相手によっては駆け込みの受注が増える可能性がある一方、客先が競合等に転注してしまうことによる失注・売上大幅減少や交渉難航による取引停滞等による影響も加味する必要があります。事業活動に及ぼす影響を十二分に考慮したうえで行う必要があります。
価格表示については、改定率ということで価格をアップした割合をパーセントで示す場合や、実際の価格(現行価格→改訂価格)を記載する場合もあります。製造業で主流となるB to Bの工業製品や資材のような物品の場合、複雑な価格体系を持つ場合は別紙価格表を提示するケースもあります。また、実際の販売価格を記載すると、価格改定のお知らせが外部に漏れた場合、複数の仕切り価格を設定しているような場合、客先ごとの販売価格の差異が他社に漏れてしまうリスクもあり、パーセントのみの表記に絞ることもあります。
(6)問い合わせ先
発行者は社内の所管部署の責任者名で、押印がある文書とすることが望ましいですが、問い合わせは各担当者名や連絡先を記載しておくべきところとなります。実際、値上げの文書を受け取ったら担当バイヤーはそれを回避する動きが取れないか、事情や背景の詳細確認に動きますので問い合わせ先がないのは困ります。
契約上の問題有無は事前に調べる
値上げの通知を発行する相手によって注意が必要なのは、取引基本契約やそれらで規定している文書等で価格の設定期間・有効期間を決めている場合、その期間内での変更は契約違反に問われる可能性があるという点です。
また、相手方が下請法対象事業者で、有償支給を行っている対象物を値上げする場合も注意を要します。というのも有償支給品の値上げをして支給先からの購入品の値上げもセットで行わない場合、実質、不合理な値下げに相当する可能性があるためです。同様に、力関係で有利となる親事業者が、例えば親事業者が調達している原材料高騰に伴い、その高騰分を客先への販売価格に転嫁できずに、下請事業者からの購入価格や加工賃に対して不合理な値下げ要求をするというのは法令違反に問われます。
下請法が関わらない取引であっても、買い手の立場で見た場合、売買契約や取引基本契約を結ぶ際、価格改定についての手続き方法やどれくらい前に通知が必要か等の条項を設けておいたほうがよいということになります。
値上げの理由の例
受け取った相手が合理性を感じるものにしておく必要があります。単に利益を増やしたいということだとしても、次の値上げが不可避であることとセットで、合理的な説明が必要です。製造業やメーカー、あるいはそれらを取り扱う商社でよく使用される値上げの理由は次の通りです。
- 材料費・部品の高騰
- 材料相場、材料市況の変動
- 為替の変動
- 燃料費・光熱費の高騰
- 梱包材、包装資材の価格上昇
- 人件費の高騰
- 人材の確保難
- 仕入先等の撤退に伴い調達部品の調達難(よりコストの高いところから調達せざるを得ない)
- 事業縮小
- 採算の悪化
- 事業撤退の検討
- 製造コストの上昇
- 2024年問題に起因する物流コスト上昇
- 輸送費の上昇
- 社会情勢・インフレ・物価上昇
- 景気低迷
- インボイス制度等各種法令の改正の影響を受けたことによるコストアップ
大多数の製造業やメーカーの場合、おおもとの原料やエネルギーの価格が上がってしまうと、製造コストや原価にそのまま跳ね返ってきますので、巨大な企業が多いこうした原材料メーカー、エネルギー供給先との交渉はよほどの取引量がないとできず、価格変更のお知らせが来た場合、選択の余地なく飲まざるを得ないのが現状かと思います。以前より、鉄鋼や原材料等の大企業の場合、値上げに了承しない場合、納期の遅延や供給保証ができなくなることをはっきり記載した通知を送る等、交渉の余地がないレターも散見されます。
この為、販売先への価格転嫁の理解を求めて値上げをするという動きが必要になりますが、このとき間に挟まれている自社の立ち位置によっては、販売先には価格転嫁できず、仕入先の値上げは断れずという形で利益が圧迫されることがあります。製造業の場合、コスト削減の余地が様々なところに隠れていることがありますので、関係部署で知恵を絞り、十分に転嫁できなかった場合、コスト削減の計画を立案して利益維持をはかるのか迅速な経営判断が必要です。
値上げが不可避であることを伝える必要性
コストカット等の努力をしても、もはや値上げをしないと自社の事業として成立しない、赤字幅拡大する等の理由付けです。販売価格への転嫁が不可避であることを説明する部分となります。詳細は記載せず、避けられなくなった直接の要因のみ記載して個々の営業担当が説明を尽くすケースが多いです。
製造業の場合、原価計算を詳細にやりますので、取引先によっては実際に原材料が値上げした分だけを認める、あるいは値上げした分のうち、〇〇%分の転嫁のみ認めるというスタンスで交渉してくることもあります。
いつの取引からどれだけ値上げするか
納期や発注間隔等、今までの取引の実情を鑑みた通知期間が必要です。わずかな期間でいきなり値上げする場合、契約上の問題がないか事前に確認しておく必要もあります。
工業製品の多くは、完成品になる途中のものが多く、材料や部品の変更に煩雑で時間のかかる手続きを行い、客先の承認が必要となる工程変更等が求められます。このため、スペックが同じでも容易に他社品に変えられないものがあり、短期間での値上げは購入先の代替準備期間を奪うことになる為、反感を買います。
これは供給終了の連絡についても同様で、採算が悪化したので事業撤退し、当該品の供給をやめますというような場合、かなり長い準備期間なしで行うと広範な最終製品に影響が出ることになります。
契約上問題ない内容となっていても取引慣習を無視した急な通知を行うと今後の取引への支障や業界での悪評等にもつながりかねません。
一貫した丁寧な説明
値上げの通知を行えば、購入者や購入担当となる調達担当やバイヤーたちから理由を問われ、「困るよ」等の値上げ断りを模索するやり取りが始まることになります。それらの交渉時に、一貫した説明で納得してもらう為、通知文書とその後の説明との間には矛盾がないようにしておく必要があります。
よほど供給側の力が強くない限りは、文書では明確に値上げを伝えつつ、各営業担当が丁寧に説明し、値上げ交渉を妥結させる必要があります。
取引契約の多くは購入者側の目線では安定した調達を実現する為、突然の撤退や値上げに対する防御策が練り込まれていることがあります。
取引終了も視野に入れた通知
また値上げ幅について、通知を行っている値上げ価格を、売り先との交渉次第で変えることも検討している場合は、どこまでの値上げが必須でどこからが交渉の余地があるのか社内であらかじめ検討しておく必要があります。必須となる値上げとは、その価格での購入に客先から了承得られない場合は、取引終了となる価格です。
通知方法や交渉のスタンスは値上げの実際の動機にもよります。
事業に対して何らかのダメージや経営上値上げなしでの継続ではメリットがなくなる等の問題に起因している場合は、競合の状況次第ではありますが、必須のラインを決めておき、状況により事業縮小や取引縮小、撤退等も視野に入れる必要があります。実際に撤退も視野に入れている場合はそのように通知したほうがよいでしょう。価格改定に了承いただけない場合は当該事業から撤退、というような形式での通知です。この場合は文書だけでは難しく、面直での交渉を通じて進めていく形です。
利益を単に増やしたいというだけの場合、競合や代替サービス等の状況によっては、顧客を失いますので逆効果になることもあり、値上げ設定は慎重に行う必要があります。思い付きで事前調査なしに値上げするとあとで取り返しがつかなくなることがあります。
値上げのお知らせの例文
値上げのお知らせの例文をご紹介します。ここでは原材料や燃費、仕入れコスト全般と為替を理由にしています。仕入れている分野によっては、その業界での値上げラッシュの影響を受けていることを記載してもよいかもしれません。のちの交渉で、購入先も状況の確認・調査を行いますので、嘘は書けません。
2024年1月1日
ABC工業株式会社
営業本部 部長
佐藤 太郎 (社印等)
取引先各位
価格改定のお知らせ
平素より格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、弊社製品におきまして、原材料価格の高騰、燃料費上昇に起因する運送費の上昇、それらに起因する材料・部品・副資材等の調達コストの上昇、更に昨今の世界情勢の混乱や急激な円安による為替の影響が続いております。
弊社としましては、これらのコスト増加を吸収すべく様々な原価低減活動を重ねて参りましたが、もはや企業努力では吸収しきれず、現状の価格では安定的な供給を継続することが極めて困難な状況となっております。
つきましては、誠に不本意ではございますが、2024年3月ご注文分より下記製品の販売価格を改定させて頂くこととなりました。
お客様におかれましては、何卒これらの諸事情をご賢察いただき、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
記
【対象製品】 ダイヤモンドホイールおよびCBNホイール
【改定率および改定後の価格】8%〜10% 製品ごとの詳細は別紙をご覧ください。
【価格変更日】 2024年3月1日ご注文分より
詳細は弊社、営業担当よりご案内いたします。またご不明点は下記までご連絡をお願い申し上げます。
【お問い合わせ先】
営業部 超砥粒営業課 田中・加藤
電話番号:999−9999−0000
メール:砥石@砥石.info
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