永年申請とは
自動車部品業界や工業分野で永年申請や永年一括申請という用語が使われることがあります。これは一体何を意味しているのでしょうか。
永年という言葉自体は、永年勤続表彰などの使われ方からわかるように、長い年月そのものを意味していますので、この用語だけからにわかには何を申請しているのかわからないと思います。
永年申請といった場合、自動車部品メーカーから自動車メーカーに対して、長年行ってきた特定の部品供給をやめたいので最終納入とさせていただけないかという申請のことです。最終納入の際には、今後未来で必要となるすべての数量をまとめて納入することで今後の発注は無くなるので、部品メーカーにとっても永年一括申請の承認を得た部品については、生産を完全に終了させることができます。どうしてこのようなことが必要なのか背景から以下に説明していきます。
自動車部品は生産終了後も供給義務がある
自動車はカーメーカーが工場での生産を終了した後も、ときには数十年以上ユーザーがその車を乗り続けることも珍しくありません。このため、ある特定の車種・モデルが量産での生産を打ち切っていたとしても、それに使われる自動車部品というのは数十年、部品メーカーが供給する約束になっています。こうした部品を、補給部品や補用品、サービスパーツ等と呼びならわしています。
量産での生産終了後の部品供給年限を契約で明文化するメーカーもありますが、多くは曖昧にしており、カーメーカーが工場で車両の生産を終了してから15年〜25年程度は部品メーカーの供給義務があることが多い印象です。カーメーカーへの直接納入ではなくその一次部品メーカーとなるTier1(ティア1)へ納入しているような案件の場合、さらに長期間に延びることがあります。
こうしたことから、部品メーカーは量産での生産が終了した車種であっても、仮に、5年に1個しか売れないような部品であっても、供給義務がある期間中は生産できるよう、金型や設備なども含めて保有して構えて待っていることになります。実際には量産時よりも生産にかかるリードタイムは長くなることが普通です。その製品の生産に必要となる材料や構成材も久しぶりに仕入れることになり、長期間使っていなかった金型や設備、ジグのメンテやトライ・テスト生産等が必要となるからです。
高コストになる補給品の生産
自動車部品というのは、薄利多売を基本とする分野で、非常に多くの数量が売れるからこそ採算があうという性質があります。こうなると、数年に一度の少量発注では基本赤字です。めったに使わない金型や設備を置いておく場所の管理費すら捻出できないことも多々あります。
カーメーカーによっては、工場での生産終了してからの補給品や補用品を買い取る際は、量産時とは生産コストが格段に上がっていることを鑑み、高めに設定されることもありますが(10年経つと10倍に設定されるような良心的なメーカーも一部あります)、多くは採算があう価格設定にはなっていません。最悪のケースでは、量産時と価格が変わらないケースで、間違いなく部品メーカーにとっては作れば作るだけ赤字になる製品となります。
また自動車は全車種で見た場合、モデルチェンジや新規車種の立ち上げというのは毎年必ずあります。そうなると生産終了となる車種もあるわけで、こうした生産コストに見合わない補給品や補用品と呼ばれる部品は、自動車部品メーカーにとっては創業年月に比例し増える一方となります。
低収益、赤字製品の生産をやめるために申請する
こうしたことから、多くの自動車部品メーカーにとって、補用品や補給品と呼ばれる部品の供給をいかに辞めるかというのは事業利益に直結する課題となっています。供給年限が契約で明確になっていない多くのケースでは、例えば、量産での自動車生産が終了してから15年くらい経つと、部品メーカー側のほうから自動車メーカーに対し、永年申請として最終納入とさせていただけないかという申請を行うとカーメーカー側のほうで審査し、問題なければ残り必要数を明示したり、一括で何個納入してもらえば今後発注しないという形での合意となり、部品メーカーは承認を得た永年一括申請の対象部品の供給を終えることができます。
こうなると、金型を廃却できますし、専用設備やジグなどを使っている場合、これらも廃却手続きを進めることができ、工場や倉庫の場所代だけでなく、管理費用や運用費用といった様々なコストをなくすことができます。当然、生産するだけで赤字になる製品もやめることができます。
ただこの永年申請を承認するかどうかはカーメーカー側の一存です。数量が読めないような場合、継続して受注があるような場合、品質保持の観点から長期間保管が難しいような部品の場合、自動車メーカーはめったに承認しません。カーメーカーからすれば、ユーザーがいるのであれば修理や補修の際の部品供給の義務があるからです。
量産供給を行う単価設定の際に、こうした補給化したあとの費用についても織り込んでいれば全く問題ないのですが、部品メーカーの多くは織り込めておらず、また打ち切ってから20年近く経ってからとなると、多くの会社は人が入れ替わってしまっているので、後の世代がその事後処理に追われるという構図になってしまっています。補給品事業をどのように黒字化するのかというのは、自動車部品メーカーにとっての一つの課題といえます。
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