トヨタにおける補給部品物流とは|自動車部品の補給品の供給期間

2016年7月3日更新

補給部品とは、自動車部品のうち、量産に使われるものではなく、保守・交換や改造などを目的に流通するもので、量産品と違い、1回の発注量も1個〜数十個といった単位で発注されることが多いのが特徴です。サービスパーツとも呼ばれます。

製造終了モデルの補給部品の供給期間

自動車は、モデルチェンジや生産中止などで量産での生産が終わった後も、こうした修理用を主体とした「部品」は、その後も必要となるため、自動車部品メーカーは、カーメーカーに対して補給部品としての供給義務を負います。一般には、量産が終了する「打ち切り」が正式にカーメーカーから出されてから、10〜14年間は補給部品の供給義務があるため、設備や型などを廃棄してしまうわけには行きません。どれくらいの期間、この補給部品の供給義務があるかというのは、自動車メーカー、部品の種類、納入場所、(同一メーカーでも)国によっても違いがあります。15年という場合もあれば、7年という場合もありますが、一般に自動車部品メーカーの多くは、自社の部品の寿命を自動車の寿命よりも長くするような設計にする傾向があります。

総じて、自動車の製造終了から、10年+αというのが一般的な補給部品の供給期間です。このあたりは、部品メーカー側では15年としているところが多いですが、自動車メーカーとの取決めがないケースも多く、21年ぶりに補給部品の発注が数個届いたというようなことも稀にあります。このため、15年と設定した場合でも、21年〜25年程度供給可能な状態にしています。この場合、15年は金型を廃棄することはできず、持っている必要があり、下請メーカーの悩みの種となっています。金型は場所を食うため、管理コストもかかります。自動車業界では流動する品種がきわめて多いため、金型の種類も多くなるという事情があります。

ある部品を一つだけ欲しいというのが補給部品となりますので、ある車種・モデルの生産が終了してから20年経ってからいきなり一つだけ注文したいというようなこともあります。

こうしたことに対応するため、固有の部位に使われる部品であっても、車種やモデル等の違いもあり、実質数千〜数万の品番が常時流動する形になります。部品メーカー側でも補給品を扱う専任の担当者や担当部署を置いている理由です。

補給品で利益は出るのか

補給品で利益が出るのかという問題もありますが、量産時とは単価が上がるため、部品1つあたりの利益率は向上しますが、量が流れないため、金型の保管費用や運用費用については各社頭を悩ませるところです。一般には、単価自体は20%や30%増し、時には40%増しなどになります。ただし、大きな自動車部品メーカーともなれば、補給部品の販売金額だけで、月に億単位にはなりますので、年間では数十億もの売上になります。量産部品の供給を行う部門とは別に、補給品を扱う専門の人員を配置しているメーカーが多いのが実態です。

トヨタ殿でも「サービスパーツ物流」にかかわる専門部署があります。納入先の自動車部品メーカーからは略して「サパブツ」(サパ物)とも呼称されます。量産品と異なり、少量の部品が多品種、日々流動するため、補給部品の物流については専門部隊を配置している自動車部品メーカーが多いです。

ことトヨタ殿との補給品取引に限っていえば、主要となる納入場所は、大口、飛島、稲沢の三箇所となります。自動車部品メーカーでトヨタ自動車と取引がある会社であれば、納入場所は受入にいたるまですべて頭に入っていると思いますが、前記の三箇所の名称だけから、補給品に関する取引になることが類推できます。補給品の受入場所となるこれら三箇所は、大口部品センター、飛島部品センター、稲沢部品センターとなります。

すでに量産での生産が終わっていることから、量産工場に納入するのではなく、こうした専門の部品センターへ納入する仕組みになっています。

自動車部品のメーカー側では、補給部品の完成品をどのように保管しておくのかという問題もあります。補給部品は、在庫している数量が少なくてすむものの、生産の終わった車種・モデル用のものをすべてタイムリーに納入することが求められるため、物流倉庫のなかでもかなりのスペースが必要となります。また、いつ発注があるかわからないため、数ヶ月、あるいは数年間デッドストックとして物流倉庫に眠ることになる補給部品もあります。鉄鋼系材料や劣化が懸念される部品については長期間の在庫には限度があるため、定期的に在庫内の不動在庫を破棄しなくてはならないという問題もあります。

トヨタにおける補給品物流

部品メーカーからトヨタ殿への補給品物流としては、サイクルが個別に設定されています。サイクルとは1日に1便、3日後に納入といった頻度のことです。トヨタ殿が客先となる場合、基本的に補給品の納入先は三箇所に限定されてきます。トヨタ飛島(輸出)、トヨタ稲沢、トヨタ大口の三箇所の部品センターです。

こうした補給部品の在庫をするかどうかは自動車メーカーにもよります。トヨタでは持ちませんが、ホンダ、スズキ、マツダ等は補給品の在庫を持つとされます。

トヨタの場合、輸出用以外は、部品センターから下記のようなルートで部品が供給されます。

  • 部品センター⇒愛知共販
  • 部品センター⇒ディーラー(急ぎの場合)
  • 部品センター⇒修理工場(急ぎの場合)
  • 愛知共販売⇒ディーラー
  • 愛知共販売⇒修理工場

緊急手配品は、「まるちょう」と呼ばれ、原則受注内容をFAXで受信したのち2時間以内の回答が求められます。

購入したばかりの自動車でも修理に出すと3週間等はざらにかかるため、このリードタイムを短くする必要があります。このため、補給部品の手配というのは迅速かつきわめて短納期での対応が求められます。

自動車メーカー側では各部品の納期「遵守率」を向上させることで、納期遅延を少なくさせるよう働きかけています。

リコールでも補給部品が大量流動する場合がある

補給部品は、いったん製造が終了した車種に対してのものですが、ある部品で不具合が発生した場合、自動車メーカー側の対応方法としては、以下のような方法となります。

  • リコール
  • 定期点検で部品交換(こっそり変えてしまう場合もあれば、顧客へ通知した上で交換。フィールドフィックス等)

よく知られているとおり、リコールをする場合、莫大なコスト・手間がかかります。全世界向けの7割くらいの部品が揃ったところで、はじめてリコール可能になるため、時間もかかります。この場合は、代替のため、少量の補給部品としてしか流動していない製品に、大量発注がかかることがあるのはこうした背景のためです。

一方で、フィールドフィックス等とも呼ばれる方法で部品を交換することもあります。これはあくまで品質向上のための設計変更により部品を交換するということになっているため、部品の不具合の内容によっては、リコールしかできない場合もあります。製造が終了していないモデルであれば、量産での部品も新しいタイプのものに変えられる形となります。

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