アルミニウムの調質、質別記号の一覧

2013年1月10日更新 2024年8月10日最終更新 Written by 金属加工事業部

アルミニウムには熱をかけると硬化するものと、そうではないものとがあります。前者を熱処理型合金(1000系、3000系、5000系)といい、後者を非熱処理型合金(2000系、4000系、6000系、7000系)といいますが、アルミの場合は双方ともに調質を行うことができます。

アルミの調質は、鉄鋼材料とは少し意味が違い、熱処理や冷間加工等を行って材料の機械的な性質を調整することを指します。焼き入れのことだけを意味しているわけではありません。とても硬くて強度に優れた材料にすることでもできれば、やわらかくて伸びやすい材料にすることもできます。調質の種類も鉄鋼よりも多く、下表で紹介する記号をつけます。アルミの場合特に調質による性質の変化が大きいので、加工や設計等の場合、使用するアルミ合金がどのような調質をしたものか必ずセットで記載します。

他の金属と同じように、成分だけでなく、製造されたアルミ材がどのような加工や熱処理を経ているのかという点は物理的性質に直接影響します。したがって、アルミ材を検討するときには、この調質の内容を示した「質別記号」もあわせて見ておくことが大切です。通常、アルミの材料記号の末尾についており、A1100-O、A2014-T6といった場合、OとT6が質別記号になります。

素材としてのアルミの多くは合金の形で使われますが、調質の内容としては、焼きなまし、加工硬化、溶体化処理、時効処理、人工時効硬化処理などの組み合わせによるものです。特に硬度については調質によって具体的に指定されていることもあります。

アルミニウムの調質一覧

質別記号、調質記号は熱処理の内容に応じて、アルファベット1文字と、数字1文字〜で構成されています。アルファベットのほうは、基本記号として、F、O、H、W、Tの5種類があり、これに一桁〜三桁の数字がつく、という形になっています。Fは製造したままのもの(特に処理していないもの)、Oは焼きなまししたもの、Hは加工硬化したもの、Wは溶体化処理したもの、Tは熱処理(焼入れ)によってF、O、H以外の安定な状態の質別にしたもの、という定義がなされています。

なお、マグネシウムとマグネシウム合金についても、この質別記号にはこれと同じルールが適用されます。

アルミニウム合金の質別記号、調質記号(展伸材)
調質、質別記号 処理の内容
F これは押し出しや圧延したままの状態、つまりアルミ材を製造したままの状態で、調質を行っていない状態を示します。製造工程からそのまま出てきた材料はこの状態になります。
O オーは、完全に焼きなまし処理をして軟化させたものを示します。非熱処理合金についてもこの処理を行うことがあります。
O1 高温焼きなまし処理をした後、徐冷したものをいいます。
O2 超塑性加工をして、溶体化処理させる等の特別な加工熱処理を行なったものを言います。
O3 偏析を減らしたり、むらをなくしたりするために高温で均質化処理したものをいいます。
H 加工硬化したものを示します。金属は力を加えると硬化する性質を持ち、これを加工硬化といいます。この性能を活用し、任意の硬度に調整が可能です。
H1 H1は加工硬化のみを行ったもので、H1の後につく数字で硬度を示します。
H11, H12, H13, H14, H15, H16, H17, H18, H19 H1の後に続く数字が1なら「1/8硬質」を意味し、H11は「1/8硬質になるよう加工硬化のみを行ったアルミ合金の展伸材」ということになります。同様に、2は「1/4硬質」、3は「3/8硬質」、4は「1/2硬質」、5は「5/8硬質」、6は「3/4硬質」、7は「7/8硬質」、8は「硬質」、9は「特硬質」となります。
H2 加工硬化の処理を行なった後に。軟化熱処理をしたものをいいます。
H21, H22, H23, H24, H25, H26, H27, H28, H29 上記と同様に、H2の次の数字は硬質の程度を示し、1は「1/8硬質」を意味し、2は「1/4硬質」、3は「3/8硬質」、4は「1/2硬質」、5は「5/8硬質」、6は「3/4硬質」、7は「7/8硬質」、8は「硬質」、9は「特硬質」となります。
H3 加工硬化の後に安定化処理を行なったものです。安定化処理とは、加工硬化をおこさせるための冷間加工をしたのちに、150℃程度の温度で処理することで、強度の低下を防止します。特にアルミとマグネシウムの合金は加工硬化後、常温に置いておくと強度の低下、伸びの増加が起きることがわかっています。
H31, H32, H33, H34, H35, H36, H37, H38, H39 上記と同じ命名ルールで、H3のあとに続く数字が1の場合であるH31なら「1/8硬質」を意味し、2は「1/4硬質」、3は「3/8硬質」、4は「1/2硬質」、5は「5/8硬質」、6は「3/4硬質」、7は「7/8硬質」、8は「硬質(断面積減少率約75%)」、9は「特硬質」となります。
W 溶体化処理(固溶体化処理)のあと、常温で自然時効する合金のことです。不安定な質別とされます。
T 溶体化処理(固溶体化処理)、時効処理などの熱処理をしたものです。
T3 溶体化処理(固溶体化処理)の後に冷間加工し、自然時効させたものをいいます。次のT4材に比べ強度を強くするためと平坦度や寸法精度を出すために冷間加工の工程が入っています。
T4 溶体化処理(固溶体化処理)の後に自然時効が終わった状態のものをいいます。
T42 ユーザー側でT4処理したものにつけられる質別記号です。
T5 高温加工で冷却後、人工時効処理したものをいいます。溶体化処理(固溶体化処理)時に焼入れ感受性が低いタイプに用いられます。
T6 溶体化処理(固溶体化処理)の後に人工時効したものです。この処理の後に、寸法制度の向上やサイズの矯正を目的に冷間加工を行なったものについてもT6をつけてもよいことになっています。
T62 ユーザー側でT6処理をしたものを言います。
T7 溶体化処理(固溶体化処理)の後に安定化処理をしたものを言います。応力腐食割れを防ぐためや焼入れによって発生する変形などの防止するために行ないます。
T8 溶体化処理(固溶体化処理)と、人工時効処理の間に、冷間加工のプロセスが入っているものです。
T9 溶体化処理(固溶体化処理)と、人工時効が終わった後に冷間加工したものです。
T351, T451, T651, T851 溶体化処理(固溶体化処理)のあとに、引張矯正によって永久伸び(1.5%〜3%程度)を与えて残留応力を除去し、自然時効か人工時効させたものをいいます。
T3511, T4511, T6511, T8511 上記の引張矯正のあとに整直矯正を行なったものです。
T352, T452, T652, T852 溶体化処理(固溶体化処理)のあとに圧縮加工を行なって永久ひずみを与えることで残留応力を除去し、人工時効硬化処理したものを言います。
H111 先に述べたH11よりも加工硬化量を少なくしたものです。
H112 加工硬化や熱処理について特に調整せず、製造工程上そうなったものを示します。
H321 H32より加工硬化量の少ないものです。
T61 温水焼入れをしたT6のことです。
T361 T3の断面減少率を凡そ6%としたもののことです。
T31 T3の断面減少率を凡そ1%としたもののことです。
T81 T8の断面減少率を凡そ1%としたもののことです。
T861 T361を人工時効硬化処理したものを言います。

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