加工硬化指数の一覧|ステンレス、SS400、S45C等のn値で張り出し成形のしやすさを見る

2020年2月8日更新

加工硬化指数(Work hardening coefficient)は金属材料の持つ「加工硬化」の大きさを見る指標のひとつです。この値で加工硬化の度合いを見ることができます。別名n値ともいい、nの値は1から0の間となります。1に近いほうが力を加えたときの加工硬化の程度が大きいことを意味します。

加工硬化を見るための指標

加工硬化とは、ステンレスに顕著に見られることで有名ですが、他の金属でも起きます。端的にいえば、材料に力を加えていくと硬くなっていき、同じ加工を続けても、同じ力では変形させることが徐々に困難になっていく現象のことです。切削や研削、研磨の世界では、力を加えるほどに硬化する材料は加工のしにくい素材ということになりますが、プレス加工の世界では逆に張り出し成形のしやすさを見ることにも使われます。

張り出し成形には加工硬化するほうがよい

プレス加工には大きく分けて、「深絞り成形」と「張り出し成形」があります。深絞り成形は、平たい縁をもっているコップを一枚の板からプレスで作ることを想像するとわかりやすいかもしれません。

下図のように、一枚の円形の鋼板を真横から見た場合、上からプレスすると、凹みが生まれます。これを上から見ると、縁の周囲は収縮する力(図内の赤矢印)が働く一方、凹みとなるコップの様相を呈している部分は凹みの内側に落ち込んでいく部分と外側の縁に向かっていく二つの方向に伸びる力(図内の青矢印)がかかっている加工です。この加工では縮む部分は板が厚くなりますが、伸びる部分は薄くなるため、結果として板自体は薄くならずに、コップの形状へ変形していくこととなります。これが深絞り成形の原理です。

深絞り成形における伸びと縮み

一方、張り出し成形は板に凹みを作る場合に、全方向が伸びるような加工のことです。下図のように円形の板を下から突き上げて丸みを帯びた球体上の突起を作る場合、凸形状の先の部分には、全方向に伸びる力が働きます。このため、図の球体である凸の板厚は中心からどんどん伸びて薄くなっていき、形状を変えていきます。これが張り出し成形の原理です。

張り出し成形における伸び

成長限界を伸ばす加工硬化

プレス加工では、成形性が肝のひとつとなりますが、これは素材が割れたり破断することなく目的の形状に加工できるかという性質を意味しています。加工対象となるワークの成形限界や成長限界がどこまで伸ばせるかというのが加工するうえでの生命線の一つです。

n値が大きい、つまり加工硬化の度合いの大きい素材で張り出し成形を行うと、材料が薄くなって伸びていく際にも、材料自体が硬くなることで鋼材の一部分だけの板厚があまり薄くならずに均一に伸びていきます。硬化する性質のため、ある部分だけが局所的に伸びて破断してしまう現象が起き難いとも言えます。このため、深絞り性を重視したい場合、あるいは張り出し加工性を重視したい場合などの主要指標として加工硬化指数が使われます。

一見、やわらかく伸びに優れた鋼材のほうが張り出し成形でもよいかと思えますが、こうした素材は均一に伸びていかず、ある部分だけが伸びすぎて破断してしまうこともあります。加工硬化しやすい素材はこの現象を抑える性質があります。

張り出し成形を行う材料を選ぶときにn値に着目されるのはこうした理由からですが、他の加工を行う場合にも、その材料の加工硬化の程度を見ることができます。

アルミ、銅の調質記号の一覧

調質(熱処理)の内容によって同じ金属材料でも加工硬化指数は異なりますが、銅やアルミなどは意図的に加工硬化処理を行うグレードもあります。やわらかい素材にとっては、加工硬化の性質を利用することで求める物性に近い材料を手に入れることができます。

加工硬化指数の一覧

主要金属のn値をみていくと、銅の焼きなまし材とSUS301の加工硬化指数が大きいことがわかります。これらは張り出し成形に向いた材料ということが言えるでしょう。興味深いのは同じステンレスでもSUS430とSUS304、SUS301とでは加工硬化指数が異なるということです。一般にステンレス鋼材は加工硬化が強いといわれますが、その種類によってかなり硬化の程度に差があることは留意すべき事項といえます。

張り出し成形の有利さを示すn値|加工硬化指数の一覧
材料名 n値
軟鋼 0.21
銅(0材) 0.50
銅(1/2材) 0.05
アルミニウム合金(A1100-0) 0.26
アルミニウム合金(A1100-H24) 0.09
チタン 0.14
SUS304 0.42
SUS430 0.23
SUS301 0.56
黄銅2種0材(C2700) 0.55
黄銅2種1/2材(C2700) 0.11

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