ポリエステルとナイロンの違い|強度や特徴などの比較
ナイロンは正式にはポリアミド(PA)といい、樹脂の弱点でもあった耐熱性を改善した汎用エンジニアリングプラスチック(エンプラ)に分類される高機能樹脂の一つです。ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12といった種類がありますが、ポリアミド樹脂全般のことを総称してナイロンと呼ぶこともあり、その場合は、アラミド繊維などもナイロン系の一種として括られます。厳密には、ナイロンもアラミドもポリアミドの一種となります。
ポリエステルは、樹脂としてはPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PTT(ポリトリブチレンテレフタレート)などの種類があり、他にも工業製品としては不飽和ポリエステルの形で、FRPの材料(母材)としても使われます。
なお繊維として見た場合、ポリエステルは世界で最も生産量の多い繊維です。それに次ぐのがナイロンとなるので、両者は合成繊維を代表する二種であるとも言えます。
ナイロンとポリエステルの違いは用途や製品レベルでの比較が必要
ナイロンとポリエステルはともに衣服、スポーツウェア、ロープなどの繊維、布を元にした製品に使われるため、これらの比較を行いたい場合は、強度や吸水性、吸湿性、速乾性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性、形状安定性などが特に気になる部分です。ナイロンとポリエステルを繊維として比較する場合は、単純に樹脂材料、プラスチック材料としての比較だけでなく、「繊維の形状」と、ナイロン繊維、ポリエステル繊維のそれぞれに「何が添加されているのか」という点に着目する必要があります。
というのも、繊維として用いられる場合には機能剤や仕上げ剤、繊維処理剤と呼ばれる化学物質が繊維に練りこまれており、これらが吸湿性や速乾性を高めたり、風合いを決めたり、保温効果の向上や、耐熱性、強靭さなどの向上に大きな役割を果たしているからです。また、繊維の形状に工夫を凝らすことで、吸水性といったもともとの素材には乏しかった性能を引き出すことも可能となるため、両者の比較を行うときには、原料樹脂としてなのか、繊維としてなのかを明確にする必要があります。
また、同じ繊維でも、例えばブラシに用いられる場合と、スポーツウェアや登山用のウェアなどに使われる高機能として使われる場合、またロープに使われる場合とでは繊維製品の形状が異なるため、他の用途と同じ比較結果にならないこともあります。
ナイロンやポリエステルが実際に製品となるには、糸となった状態や布となった状態での比較が必要なこともあります。繊維は加工されて糸となり、それが布、織物に加工されて製品となりますが、糸となる段階で複数の繊維を複合させる技術が用いられることも一般的で、こうした糸の種類、布の織り方といった部分も製品レベルでの性能や物性には影響してくる要素です。
ナイロンとポリエステルの物性における違い
まず、原料としてのナイロン樹脂とポリエステル樹脂の物性の違いを見ていきます。
機械的な強度や耐熱性などの面を見ると、両者は大きな違いがなかなか見えにくい素材です。耐熱性で言えば、ポリエステルの一種類である高耐熱タイプのものが優れていますが、ナイロンにも耐熱温度を向上させたものもあるため、実用上はメーカーが出している繊維製品名まで見ないと比較は難しいのですが、原料としてみていくと、ポリエステルに軍配が上がります。
強度については、一般的なものであればナイロンとポリエステルはほぼ同等、ただし弾性率はナイロンのほうが小さいため、肌触りがやわらかいという特徴があります。
ポリエステルの基本性能
ポリエステルはエステル基をもつ高分子の総称であるため、厳密に見ていくのであれば、PETやPEN、PTTなどの種類ごとに比較を行う必要があります。
全般的な特徴を見ていくと、ポリエステルは耐熱性、耐衝撃性、ガスバリア性(気体の透過のしにくさ)、耐薬品性といった点に優れたプラスチック材料です。
水を吸いにくい性質を持ち、仮に水を吸ったとしても性能にあまり変化がありません。ポリエステル繊維の衣服が型崩れしにくいのはこのためです。またシワになりにくい性質を持つため、綿と混合させてもよく使われます。
強度面についていえば、繊維の場合、ステープルと呼ばれる短繊維を撚ったものと、フィラメントと呼ばれる長繊維(1本の連続した繊維)を撚ったものとでも物性には若干の違いが出てきますが、引張強さにも長けた材料と言えます。
フィラメントで見た場合、ナイロンよりもポリエステルのほうが長期耐熱性には優れています。
ナイロンの基本性能
ナイロンはデュポン社の商標名の一つですが、これにも種類が各種あり、現在ではアミド基をもつ高分子材料の一般名称として「ナイロン」という言い方もするため、すべてのナイロンが同じ性能を持つわけではない点に注意が必要です。たとえば、アラミド繊維などもナイロンに括られますが、これはポリアミドの一種で、通常のナイロンとは一線を画す性能を持っています。
ナイロン(汎用の)は、ポリエステルよりも強度が若干強いか、同等程度の引張強さを持ち、耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐寒冷性、耐磨耗性といった点に特徴のあるプラスチック・樹脂素材です。
機械的特性のバランスがよく、油にも耐性があります。摩擦、摩耗特性が優れることから、ベアリングなどのしゅう動部品としての素材検討がなされることもあります。連続使用温度が80〜150℃程度であれば、長期耐熱性にも優れています。燃焼特性については、燃えにくいだけでなく、自己消火性のものが多いのも特徴です。
ポリエステルもナイロンも吸水性は低い素材ですが、繊維に何の加工もしない場合、吸水率はナイロンのほうが高くなります。またナイロンは吸湿性を持つ素材でもあります。
なお、前述したアラミド繊維はナイロンと同じポリアミド系の素材の一つですが、大別すると次の2種あり、次のような性質を持ちます。
メタ系アラミド繊維
強さや伸び、比重、風合いなどはポリエステルとほぼ同等です。ただし耐熱性が高く、400℃を超えても溶融、分解が起きない素材です。また空気中では燃えません。仮に燃えても毒性のガスなどは出ません。耐熱性、難燃性の性能がきわめて高い材料で、防火服、バグフィルター、OA用クリーナー、電気配線の絶縁材料などに使われています。
パラ系アラミド繊維
高強度タイプのナイロンに比べてもさらに2.5倍以上の引張強度を持ちます。製品によっては、500℃近くでも分解しない素材で、200℃の環境でも長時間使用することができるものもあります。用途は、タイヤコード、コンベアベルト、自動車やバイクに使われるベルト、防護服、防火服、アスベスト代替材料、コンクリート補強材、自動車用ブレーキパッドなどが知られます。
以下、ポリエステルとナイロンについての比較は、こうした高機能繊維ではなく、汎用のナイロン6やポリエステルを比較した場合のものについて述べていきます。
比較項目 | ナイロン | ポリエステル |
---|---|---|
融点 | 225℃ | 225〜276℃ |
耐熱温度 | 80〜140℃前後 | 120〜160℃前後 |
比重 | 1.13から1.14 | 1.31から1.38 |
吸水性 | 低い(1.3) | 低い(0.15〜0.60) |
耐薬品性 | 薬品には強いが、耐酸性は低い | 薬品には強いが、耐アルカリ性は低い |
強度 | 繰り返し変形させても切れにくい。ポリエステルより強度は若干高い。 | 耐衝撃性や引張強度に優れる。 |
縦弾性率 (ヤング率) E (MPa) |
1000〜2600 | 2100〜4200 |
剛性率 G (MPa) |
460 | 680 |
引張強さ(MPa) | 65 | 44 |
染めやすさ | 染めやすい、鮮やかな着色が可能 | 染めにくい |
燃焼性 | 難燃性。徐々に消火。無煙。燃えた場合は毛の焦げたような臭い。 | 燃えやすい。黒煙が出る。燃えた場合は刺激臭がする。 |
硬度(ビッカース硬さ、HV) | 7.1(ナイロン6) | 17 |
ナイロンとポリエステルの比較
ポリエステルとナイロン、吸水性、吸湿性や速乾性はどちらが上か
スポーツウェアや登山などに用いるベースレイヤーと呼ばれるインナーウェアなどは、吸水性があって、速乾性も求められる代表的な用途ですが、この場合、吸水性と吸湿性は異なるものとして扱われます。
人の皮膚は常に呼吸していますが、一見汗をかいていないように見えても、皮膚の表面からは水蒸気になった「汗」を放出しています。運動をしたり、気温が高くなってくれば液体の汗が出てきますが、それ以外にもこの水蒸気状態のものが出ているため、インナーウェアには吸水性のほか吸湿性が求められることになります。
ナイロンのほうがポリエステルよりも吸水性は高くなります。また、吸湿性についてもナイロンよりもポリエステルのほうが低くなります。速乾性については、ポリエステルのほうが高くなります。
ポリエステルはもともとほとんど吸水性がありませんが、親水性化合物を練り込むことで、吸水性を化学的に付与することができます。また、繊維の形状に「異形断面」や「微多孔構造」を採用することで、毛細管現象が起きることで、天然繊維を上回る吸水性や、速乾性を付与することができます。こうした高機能繊維として使われているポリエステルと、汎用のポリエステルは異なるということを念頭に置いておく必要があります。
高機能繊維としては、吸湿性と放湿性を向上させた「改質ナイロン」と吸水性を向上させた「異形断面形状ポリエステル」とを混ぜた製品も出てきています。
吸水性 | 吸湿性 |
---|---|
汗の玉のように、液体になった水を吸う性能のこと。 | 気体となった水、つまり水蒸気を吸う性能のこと。 |
繊維の材質と形状に依存。 | 繊維の材質に依存。 |
繊維の横断面がギザギザになるような異形断面繊維をつかったり、極細の繊維を使う、多孔構造を持つ繊維を使う、機能剤などを繊維に練りこんで材質を改善する、 | 樹脂材料そのものに親水性をもたせる必要があるため、材質レベルでの改善が必要。繊維に他の繊維を混ぜる複合繊維にする。 |
ポリエステルとナイロン、軽さはどちらが軽いか
両者とも軽い材料ですが、厳密に言うのであれば、ナイロンのほうが軽い材料となります。登山用のザックなどで大型のものになると、グラム単位で重量を調整することがありますが、こうした場合はナイロン系素材に若干優れています。ただ、両者とも比重は1を超えていますので、水には浮きません。
ポリエステルとナイロン、耐熱温度はどちらが上か
汎用のナイロンとポリエステルを比較すると、ポリエステルが若干耐熱温度が高く、上は140℃から160℃前後まで耐えられるタイプのものもありますが、ナイロンでも耐熱性を強化したアラミド繊維のような500℃近くまで耐えられるものもあります。一般的なナイロンとポリエステルを比較した場合は、耐熱性についてはポリエステルのほうが高いと言えます。
ポリエステルとナイロン、磨耗にはどちらが強いか
ナイロンは磨耗に対して無類の強さを発揮する素材です。このため、ナイロン繊維で作られた布材が、耐磨耗性を要求される製品に使われています。ポリエステルも磨耗には強いですが、この項目ではナイロンに軍配が上がります。
ポリエステルとナイロンの耐薬品性を比較
ポリエステルは酸に強く、ナイロンはアルカリに強いという性質があり、この反対の組み合わせにするとそれぞれ劣化や分解の危険性があります。また溶剤に対する耐性ということであれば、ポリエステルに軍配が上がります。
ポリエステルとナイロン、伸度と伸びの違い
繊維としてどれくらい伸びるかという点は、体の動きに合わせて衣服が動くかどうかという点とも密接な関係があり、動きやすさ、着やすさにつながる部分です。これについてはナイロンのほうがよく伸びます。ナイロンはロープなどにも使われますが、これは伸びることで衝撃を吸収するという性質も期待できます。
ポリエステルとナイロン、強度はどちらが上か
強度を引張強さと見るのであれば、汎用ナイロンと汎用ポリエステルとでは、ナイロンのほうが強度があります。衝撃に対する強度であれば、ナイロンよりもポリエステルのほうが優れています。
用途別に違いを見ていく、繊維製品となったものを比較
カーペット
上記の点から、例えばカーペットに用いた場合、ナイロンとポリエステルの違いを見ていくと、次のようなことが言えます。帯電性には劣るものの、ナイロンのカーペットは土足用としても使える耐久性を備えています。このため、タイルカーペット用としても使われています。一方、ポリエステルのカーペットは、耐熱性が優れる点から、ホットカーペットの素材としてよく使われています。弾力性があり、また弾力性の回復力が高いため、ボリューム感もある点に特徴があります。
衣服
肌触りは、ナイロン繊維のほうが弾性率が小さいため、よくなります。ポリエステル繊維100%のものは、独特の肌触りとなります。衣服のデザイン面では、ポリエステルよりもナイロンのほうが色をつけやすい素材となります。また双方ともにカビや虫害にも強い素材となります。紫外線については、ナイロンが劣化することがあるため、耐候性についてはポリエステルのほうが若干優れています。ポリエステルは洗濯による伸び縮みもありません。
ポリエステルは静電気を帯びやすく、毛玉ができやすいという点にも留意が必要です。
高機能スポーツウェア、登山用ウェア、ベースレイヤー(インナー)
吸水、吸湿、速乾性能が重要となる用途で、登山などの例で言えば命にもかかわる性能です。通常、ポリエステルもナイロンも、汎用のものをそのまま用いず、繊維に特殊な形状加工を施したもの、繊維に機能剤や加工剤などの化学物質を練りこんで性質を改質したもの、複数の繊維を混ぜたものなど、高価なものほど高機能な繊維製品を使っています。このため、汎用ナイロンと、汎用ポリエステルの性能には当てはまらないものが存在します。製品によってはどのような高機能繊維を使っているのか公開しているものもありますので、参考にするとよいでしょう。
衣服には、家庭用品品質表示法の繊維製品品質表示規程に、繊維の組成、家庭選択等取扱い絵表示、撥水性、表示者名、住所、電話番号といった表示事項を品目ごとにつける決まりになっています。ただ、この「繊維の組成」は高機能繊維であっても、ナイロンであればナイロンとしか表示されないため、製品についている組成表示だけから繊維の完全な性能を見極めるのは困難です。
ブラシ
ブラシに用いる場合、ナイロンの吸水性はあらゆるブラシ用の化学繊維の中で最も高く、耐摩耗性、弾力性、回復性に優れる素材となります。一方で、ポリエステルはブラシ使った場合、剛性が高いため、毛に「腰」が出てきます。吸水性は低くなります。
ロープ
適度に伸びて衝撃を吸収することができるため、ロープや登山用のザイルとして使われることがあります。
ロープとして用いる場合は、衝撃の吸収能力や、繰り返しの使用でも切れにくい、磨耗に強い、水を吸った場合の物性の変化などが気になるところです。ナイロンは吸水率は低いですが、水を吸った場合に性能・特性変化があります。一方で、ポリエステルは吸水による性能変化はあまり見られません。
- 【参考】繊維メーカー別の高機能繊維の一覧と機能(日本化学繊維協会)
- 【参考】ウィンセス(クリーンルーム用作業着、手袋の製造メーカー)。手袋の素材としてナイロンとポリエステルを比較
- 【参考】津山グンゼ(ポリエステルとナイロンの繊維比較)
- 【参考】東京製鋼繊維ロープ(ロープとしてのナイロン、ポリエステルの比較)
- 【参考】東レモノフィラメント(繊維メーカー。長繊維で比較した場合)
- 【参考】白崎繊維工業(寝具メーカー。合成繊維、天然繊維の特性比較)
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